作品がヒットした実感は意外とない
――初監督作品が大きな反響を得ながら最終話の放送を迎えました。現在の率直な心境はいかがですか?
足立 それが……あまり実感はないんですよね。激ムズゲームをクリアしたときみたいな達成感があるのかなと思いきや、現場作業もスゥーっと静かに終わっていって(笑)。
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――これだけ多くの話題になりましたから、周囲から声をかけられることも多いんじゃないですか?
足立 業界の方とお会いすると、「見ましたよ」とか「ヒットしてよかったですね」という声はかけられるんですけど、このキャラクターが好きとか、あのシーンがよかったとか、あの展開には驚いたとか、具体的な感想はあんまり出てこないんですよ。だから、みんなしっかり見てはいないんだと思います(笑)。親しい人には「400文字詰めの原稿用紙で感想をくれ」って迫ったりして(笑)。もちろん、冗談で言っているんですけど、自分のまわりは意外とあっさりとした感じなんです。
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――そうなんですね。やっぱり具体的な感想を聞きたいものですか?
足立 それはそうですよ。つい先日、平尾隆之さん(編注:足立がキャラクターデザインとして参加した『映画大好きポンポさん』の監督)と会った際、「よかったですよ」というお褒めの言葉をもらったんですけど、それに続いて真島の言動について「もっとこうしたほうがよかったのでは?」と指摘されたんですよ。聞いていると、たしかにそう思う気持ちはすごくよく理解できるんです。でも、一方でそうしなかったからこそよかったという可能性もあって。ここからどれだけ「if」を論じても、もう世の中に出ちゃっていますからね。自分は平尾さんのことも平尾さんの作る作品も大好きで、個人的にもすごく思い入れがありますが、なかなか心に響かないというか(笑)。ヒットした作品に対してヒットの理由を考えること自体が無駄であるっていうのは、昔からの持論としてありますね。本当の正解は誰にもわからないですから。
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スタッフに恥をかかせずに済んだ、と安心した
――放送後、瞬く間に話題に登り始めましたが、どの辺りから手応えを感じましたか?
足立 Twitterのフォロワーが10万人を超えたあたりでしょうか。タイミング的には第3話~第4話くらいだったと思います。現場も数字を見てとても盛り上がっていましたし、これでひとまずスタッフに恥をかかせることはないかなと、ホッとしたのをおぼえています。ただ、作品が注目されるにつれて、自分自身はだんだんと複雑な気持ちになっていきましたね。
――どうしてですか?
足立 これまで作画しか経験のない自分がいきなり監督をまかされて、それがたまたまたくさんの方の支持をいただけたわけで、こんな奇跡は二度と起きないですよ。なので、いらぬ注目を浴びないよう、しばらくは目立たず大人しくしていたいなというのが正直なところなんです。
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アサウラさんのプロットをいかに楽しく見せられるか
――(笑)。では、作品終盤の展開について聞いていきます。前回のインタビューでは第9話までの内容に関して話していただきましたが、第10話以降はクライマックスへ向けて怒涛の展開で、ストーリーもシリアスになっていきましたね。
足立 「シリアスになるのは嫌だな」とは思いつつ、展開的に避けては通れなかったですよね。とくに第12話はコメディシーンがほとんど入れられなくて、編集しているときから「ヤバい、今回はマジやん」とスタッフと話していました(笑)。でも、吉松さんが自分の身体に千束(ちさと)のための人工心臓を入れていたとか、ビックリドッキリもあったので。
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――まさかの展開でしたよね。
足立 こんなの誰も予想できませんよね。アサウラさんからこのプロットが出てきたときにはめちゃめちゃ驚きました。やっぱりプロの作家さんの発想力っていうのは桁違いで、思いもよらないことをやってくるんです。自分にはとても浮かばないアイデアなので、感激しちゃいました。なので、監督としては、アサウラさんのアイデアやストーリーラインをいかに視聴者に楽しく見せられるかを考えて細部を組み上げていきました。役割分担がしっかりとできたことが、結果的によかったのかなと思いますね。
――クライマックスの展開は、おふたりの長所が融合した集大成だったんですね。
足立 自分で言うのも恥ずかしいですが、自分とアサウラさん、どちらが欠けてもこうはならなかったと思います。最後までコメディに振った展開を望んでいたファンの方をドギマギさせてしまったと思いつつも、楽しんでいただけたなら幸いです。
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- 足立慎吾
- 大阪府出身。アニメーター、キャラクターデザイナー、アニメーション監督。代表作は『WORKING!!』(キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督・OP&ED作画監督)、『ソードアート・オンライン』(キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督補佐・OP&ED作画監督)、『映画大好きポンポさん』(キャラクターデザイン)など。