TOPICS 2024.04.01 │ 12:00

榎戸駿に聞いた 『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』OP映像メイキング
BBBBダンスができるまで③

TVアニメ『マッシュル -MASHLE-』第2期OPアニメーション制作の舞台裏について、絵コンテ・演出を担当した榎戸駿に聞くインタビュー連載。締めくくりとなる第3回は、TikTokなどで話題沸騰のダンスシーンの狙いについて。なぜダンスパートを組み込もうと思ったのか? そして、大きな反響を呼んだ今の心境を、じっくりと語ってもらった。

取材・文/宮 昌太朗

第1期があったからこそできた、線の入り抜き

――「マンガっぽさ」ということでいえば、線に入り抜き(※線の太さによって手描きのニュアンスを出す手法)の処理が施されていますね。
榎戸 第1期の頃から『マッシュル-MASHLE-(以下、マッシュル)』の線の処理はすごくいいなと思っていたんです。撮影処理で線のニュアンスを調整している部分があるんですが、それがすごくよくできていて。これなら「原作らしくやる」というコンセプトもうまくいくんじゃないかなと。そこについてはあまり苦労せず、スムーズなかたちで進めさせてもらえましたね。

――第1期の成果を踏まえたうえで、あの手法を採り入れたわけですね。
榎戸 そうですね。同じ技術でも別の方針で使えば、また違う画面が作れるんじゃないかと思っていました。少しにじんでいたりザラッとしたような画面全体の質感も、撮影監督の鈴木(彬人)さんが参考に合わせてくれたんですが、こういった処理も楽曲にある軋み音などのアナログ感のある音との親和性を高めるために入れてもらっています。

ダンスは最初からあの動き以外、思い浮かばなかった

――OPアニメでとくに話題を呼んでいるのが、サビのダンスパートですね。ダンスを取り入れようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
榎戸 じつは、絵コンテを描き始めて最初に自分の中で固まったのがダンスパートだったんです。というのも「Bling‐Bang‐Bang‐Born」を最初に聞いたときに、サビをどう捉えたらいいか、つかみかねていて(笑)。当初は「サビのところでアクションの盛り上がりを作ってほしい」というようなオーダーがあったんですけど、このリズムでアクションをかましても、ストレートにカッコいい仕上がりに持っていくのはなかなか難しい。やっぱり楽曲をうまく引き立てつつ、見ている人に刺さる映像にしたほうがいいだろう、と。

取りかかって最初に描いた、ダンスパートの絵コンテ。

――Creepy Nutsのあの曲だったからこそ、ダンスパートを採用しようと思ったわけですね。
榎戸 あのリズムを聞いた瞬間、僕の頭の中にはこの動き以外、思い浮かばなかった(笑)。「絶対にこうなるだろう」という直感というか、身体がいちばん自然に動く、思い浮かんだものをそのまま入れちゃおうという感じでしたね。今回のOPは、色や構成に関しては理詰めで作っているつもりなんですけど、一方でリズムや感覚を優先した部分もあって。そういう要素を入れていったほうが面白い映像になるな、という感触があったんです。ただ、オンエアされたあとのネットの感想を見ていると「バズ狙いのマーケティングだ」みたいな意見もいくつかあって……。

――あはは。
榎戸 自分としては、むしろ意図していない部分だったので驚きました。たしかに言われてみればそう見えるかもしれん……と思いましたが(笑)。でも、たぶん狙ってやったらダメだったんじゃないかとも思うんですよね。

――直感で決めたからこそ、あの突拍子もない感じが生まれたのかもしれないですね。
榎戸 ダンスパートを入れたこと自体は直感的なきっかけだったんですけど、一方で「どうしてここでダンスをやるんですか?」とツッコまれた際には演出的に説明できる理論武装をしておかなければ、とも思っていました。なので『マッシュル』のピースフルなイメージを伝えるために、大地丙太郎さんや水島努さんの演出のような「キャラクターたちのダンス」を取り入れている、という理由も一応あります(笑)。原画は和田慎平さんが描かれていて、コミカルなダンスなんですが、すごく重心のある絵になっているんですね。そのバランスも独特な味わいにつながっているんじゃないかと思います。

時間との戦いから生まれた映像を楽しんでもらえてうれしい

――個人的に気に入っているカット、ここはうまくいったなと手応えを感じたところはどこですか?
榎戸 完成したものを見て「よかったな」と思ったのは、数少ない背景のあるふたつのシーンです。ひとつは前半にある、キャラクターが壁画のように描かれているカット。あの背景にあたる部分を描いてくれたのはアニメーターの合田浩章さんなんですけど、元ネタはコミックスの「お葉書コーナー」の要素を拾っているんです。原作者の甲本(一)先生が「それぞれのキャラクターが現実世界で仕事に就いたら、どんな職業だと思いますか?」という読者からの質問に答えていらっしゃるんですけど、それが実際に絵になってたりしたら自分だったらうれしいなと。絵のタッチもUKのストリートカルチャーみたいな雰囲気になるといいなと思ってお願いしたんですけど、加口(大朗)さんが特殊効果でタッチを乗せてくれて、とても雰囲気のある感じにまとめていただきました。

本作OPの中では貴重な背景付きのパート。よく見ると建物の壁のような質感が表現されているのがわかる。

――背景を使ったもうひとつのカットというのは、後半のぐるっとカメラが回り込むアクションのカットですね。
榎戸 闘技場に関してはすでにTVシリーズで使用するためのCGがあったので、闘技場をぐるっと回り込むようなカメラワークがつけられるなと思っていたんです。そのCGを2Dっぽく、マンガっぽい階調で書き出してもらうテストを何度か重ねて採用させていただきました。いわゆる背景美術を発注しているわけではないんですけど、作品の世界観に合わせるかたちでそれぞれ面白いことができたかなと思っています。アクションの内容に関しても、原作にありそうでない雰囲気のものを狙っているつもりです。アクション後半のマッシュ君がコマのようになるシーンは原画の堀(虎ノ介)くんがいろいろな遊び心を足してくれているので、コマ送りが楽しいシーンになっているんじゃないかな。

――オンエア直後からとても大きな反響があったわけですが、榎戸さんはどんな風に受け止めていますか?
榎戸 意外といえば意外でした(笑)。反響に関しては正直、運の要素が大きくて、タイミングみたいなものに左右されるものだと思っているんですけど、作品に携わっている方だったり、業界の人からの反響を聞くと、やってよかったなと思います。先にお話ししたように、タイトなスケジュールだったがゆえに、今の映像コンセプトに落ち着いたところがあるんです。でも、視聴者の方には、それをいいかたちで受け止めていただけたのかなと。時間がないからこそできる映像もあるんじゃないかと出した大胆な提案で、それが目に見える結果にひとつつなげられた。そこがいちばんうれしかったですね。endmark

榎戸駿
えのきどしゅん 1990年生まれ、茨城県出身。アニメーター・演出家。最近の主な参加作品に『Fate/strange Fake -Whispers of Dawn』(監督/坂詰嵩仁と共同)、『Fate/Grand Order』(CMディレクター)、『ホロライブ・オルタナティブ』(ティザーPV監督)など。愛犬は柴犬のべーちゃん。
作品情報


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8,030円(税込・Blu-ray)/6,930円(税込・DVD)
[発売日]
2024年4月24日(水)
 

  • ©甲本 一/集英社・マッシュル製作委員会