『イン・ザ・ウッズ』はもう一度キャラクターと物語に向き合うチャンスをくれた
――どのような流れで『イン・ザ・ウッズ』の制作を進めたのでしょうか?
平賀 TVシリーズが終わったあと、具体的には最終話の放送後から大きな反響をいただいて、Blu-ray BOXの受注も含めてたくさん応援していただきました。TVシリーズはクライマックスまでキレイに着地したというのが盛り上がった要因のひとつだと思っているのですが、作品があそこで閉じてしまうことに寂しさもありました。そこから、映画化の話を昨年の夏頃にいただいて、別の形で『オッドタクシー』の世界を描くチャンスだと捉えました。
木下 TVシリーズでは描けなかったキャラクターの側面や、その後のパートが描けると思ったので、映画化の話を聞いたときは素直にうれしかったです。TVシリーズが終わって期待値が上がっているのも感じていたので、ファンの期待に応えるような作品にしたいと思いましたね。
――此元さんにはどのようにお話がきたのでしょうか?
此元 僕は毎回、脚本を書き終えたら忘れてしまうんですよ。今回も気持ちが一旦、切れていたので、その立て直しがまず大変だなと思いました。ただ、TVシリーズではキャラクターや物語と向き合い切れなかった気持ちもあるので、もう一度チャレンジできるのはチャンスだと思いましたし、うれしかったです。
TVシリーズを見ていなくても楽しめる仕掛けを
――『イン・ザ・ウッズ』は、事件の関係者17人から証言を集める形式で物語が進行します。
木下 此元さんに依頼する前に、まず平賀さんと話をしながら、今ある映像をどのように再構成したら映画として成立させられるのかを考えていきました。一度、編集も行ってみたのですが、結果的に納得できるものにならなかったんです。
平賀 見応えも含めて、TVシリーズを見た人がもう一度楽しめるものにするのはなかなか難しくて。そこで此元さんに「映画としてうまく見せるアイデアはないですか?」と相談しました。
此元 いろいろと条件を考えたら、(証言を見せていく)今回のやり方しかないんじゃないかと思いましたね。
木下 「証言を挟んでいく」という全体の構成を決まってからは、2時間に収まるかもしれないというビジョンが見えて助かりました。
――TVシリーズはプレスコでしたが、劇場用の新規録音はアフレコだと聞きました。
木下 初めてのアフレコでしたが、めちゃくちゃ苦労したというわけではなかったです。演者さんも世界観を汲んで収録してくれたので、非常にスムーズでした。なので、アフレコとプレスコの違いはそこまでなかったと思います。
――新規作画もありますが、こだわったシーンはありますか?
木下 要所要所に証言シーンが新規作画で入るのですが、同じアングルで固定しています。しかもカットを割らずに、記号的に表現することでわかりやすさを狙いました。そのうえで、どういう風にストーリーをつないでいくかを詰めていきましたね。
――TVシリーズを見ていない人への導線は考えたのでしょうか?
平賀 TVシリーズを見ている人と見ていない人では、けっこう見方が変わる作品だと思います。TVシリーズから追いかけてくださっている方は、答え合わせ的に楽しめる内容になっています。『イン・ザ・ウッズ』で初めて作品に触れる方は、すべての内容を理解するのは正直難しいと思うのですが、逆にいうと、そこからTVシリーズをさかのぼって見てもらえれば、空白や間のパーツがハマっていく楽しさを感じていただけると思います。
劇場に来てもらうのだから、後味の良いものにしたい
――本作のクライマックスとして「最終回のその後」が描かれていますが、どこまで描くかについて悩みませんでしたか?
木下 たしかにさじ加減にはすごく苦労しました。あんまりガッツリと先の話を描くのは無粋だなと思っていました。
平賀 TVシリーズのエンディングのあとをしっかり描く……という意識ではなかったですね。『イン・ザ・ウッズ』のラストのシーンをどこまでわかりやすく表現すべきかは、何度も話し合いました。ここは見せなくてもわかるのではとか、ここはこう見せようとか、細かい部分ですね。
木下 そうですね、どう見せるのかは難しいところでした。
平賀 いろいろな構想がある中で『イン・ザ・ウッズ』として見せるべきものを探した結果として、今回の描写になりました。
此元 これは木下監督も言っていたのですが、お金を払って劇場に見に来てもらうので、後味の良いものにしたいという思いは僕にもありました。映画館を出たときに、ちょっとスッキリして帰ってもらおうと。なので、本当は何があったか全部見せてしまっても良かったかなと思うところもあります。
――ちなみに『イン・ザ・ウッズ』という副題はどのようなところから?
平賀 これは、此元さんから「(芥川龍之介の短編)『藪の中』に倣(なら)って、証言形式を取りたい」というアイデアを出していただいたので、それを英語のタイトルにしました。物語の構造は『藪の中』になっているわけではないのですが、ミステリー要素を期待している人にざわざわしてもらいたいなという思いがありました。このタイトルから派生する形で、小戸川と他のキャラクターが交差しているキービジュアルが生まれたりと、本作のイメージを固める大きなものになりましたね。
- 木下 麦
- きのしたばく P.I.C.S. management 所属。アニメ演出家、イラストレーター。自身がキャラクターデザインも務める『オッドタクシー』で監督デビュー。
- 此元和津也
- このもとかづや マンガ家、脚本家。代表作にマンガ『セトウツミ』がある。2018年からP.I.C.S. management に所属し、脚本家として実写、アニメ作品にも参加し、その活動の幅を広げている。
- 平賀大介
- ひらがだいすけ P.I.C.S.所属のプロデューサーで、創業メンバー。オリジナルコンテンツの企画開発/制作を中心に手がけており、木下監督と『オッドタクシー』を作り上げた。