TOPICS 2022.04.14 │ 12:00

メインスタッフが語る『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』の舞台ウラ②

17名の関係者が事件について証言する形式が採られた『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ(以下、イン・ザ・ウッズ)』。木下麦監督、脚本の此元和津也氏、プロデューサーの平賀大介氏(P.I.C.S.)と制作を振り返る座談会後編では、和田垣さくらや白川、タエ子など、劇場版でもフィーチャーされた女性キャラクターや、TVシリーズの反響を受けて描かれた「小戸川の行方」について聞いた。

取材・文/森 樹

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

運の強さを信じている者同士の戦い

――「オッドタクシー事件」の重要人物である和田垣さくら(以下、和田垣)は、どのようなキャラクターとして描こうとしたのでしょうか?
此元 和田垣は親から過干渉を受けていて、しかもそれを無条件に受け入れるタイプです。さらに慎重さに欠けていて、軽率で、行き当たりばったりなところもあります。ただ、自分の運の強さは頑(かたく)なに信じている。一方で小戸川も、和田垣とは別の意味で自分の運を信じているタイプなんです。彼は自分自身ではなくて、周囲に恵まれた人生だと考えていて、その運の強さを信じている。なので、最後のふたりの戦いは、そうした運を信じている者同士のコントラストが出せれば良いなと考えていました。

――それが『イン・ザ・ウッズ』ではよりフィーチャーされた内容になっていますね。木下監督は、和田垣に対してどのような印象を持ちながら演出したのでしょうか?
木下 今、此元さんが話されたことは初めて聞きました(笑)。僕としては、和田垣は飄々(ひょうひょう)としているけれども、倫理観が欠如した人間だと捉えていました。一方で、自分を守るための知恵はあるので、それなりに用意周到な一面もあるだろうと思って描いていましたね。演出としては、虎視眈々(こしたんたん)と命を狙う部分と、明るくてあっけらかんとした部分の二面性を描くことで、狂気性を出したいと考えていました。

――単なる悪人には見えないようにするというか、人間らしさを意識していたように感じました。
木下 それはそうですね。

小戸川に幸せになってほしいという思いが強かった

――『イン・ザ・ウッズ』を見たときに、白川やタエ子など、女性キャラクターの重要性に気づかされました。小戸川に大きな影響を与えたり、物語の裏側で事件の真相を追っていたり……。
木下 小戸川は女性からするとほうっておけないような人かなと思うんです。彼を中心にすることで、タエ子にしろ、白川にしろ、能動的に動くようになるのではと考えていました。
此元 白川は変わろうとしている人で、タエ子はジャーナリスト精神がある人なんです。共通しているのは、ふたりともお節介。他人と関わろうとしない小戸川の助けになる、女神的な存在ですね。

平賀 小戸川と白川の会話シーン、めちゃくちゃ好きなんですよ。あのふたりの会話ってずっと聞いていたくなるというか、掛け合いがすごく良い。『イン・ザ・ウッズ』ではTVシリーズよりも一歩進んだ感じで、白川が主体的に動いているところも見せることができたので、それは良かったなと思いました。これはタエ子もそうなんですけど、それまで周りの状況に合わせて動いていたキャラクターが、クライマックスでは自分のために動けたように感じられて、それまでの前フリの長さもプラスされてグッとくるところでした。

――今回の『イン・ザ・ウッズ』を描くうえで、TVシリーズの反響がフィードバックされた部分はありますか?
木下 関口とヤノの人気が非常に高かったので、あのふたりの関係性や絆は描きながら少し意識しちゃいました。あと、山本の人気も高いのですが、本作でも(山本役の古川慎さんに)かなり良い演技をしていただいたので、満足していただけるのではないかと。

此元 「小戸川には幸せになってほしい」という声はたくさん聞きました。そういう声もあって、亡き者にはできなかったですね……。
平賀 (笑)。でも、TVシリーズ最終話の脚本を読んだときから、その衝撃はもちろんのこと、小戸川に対する思いってけっこう深くあるんですよ。そこから実際の放送をファンの方々と見ながら、より一層小戸川をはじめキャラクターへの思いが強くなるところはあって。だから、あのTVシリーズのラストは、あれでひとつの完璧な形なんです。その続きに関しては、彼らの未来をしっかり見たいということではなく、「小戸川に幸せになってほしい」という気持ちなんですよね。それはスタッフの心のどこかにもあったような気がします。
木下 小戸川への思い入れはやっぱり強いですね。自分の感性ともすごく合う人間だし、そういうキャラクターを主役にしたことで、この作品に対する思い入れが高まったのは間違いないです。

『イン・ザ・ウッズ』は観客も参加しているような気持ちになれる

――『イン・ザ・ウッズ』を制作したことで、別の魅力が現れたキャラクターはいますか?
此元 白川ですかね。TVシリーズでは彼女の強さを見せるシーンがいくつかあったんですけど、『イン・ザ・ウッズ』ではかわいらしいシーンが描けていると思います。
木下 新たな側面ではないかもしれないですが、大門弟の愛嬌のある一連のセリフはかわいらしいし、面白いと思います。あと、樺沢を新規で描けたところは、やっていて楽しかったシーンですね。

――最後に劇場版を見るうえでの注目ポイントを教えてください。
此元 TVシリーズは渦中にいる人たちを神様視点で俯瞰していましたが、『イン・ザ・ウッズ』は構造的に途中まで一緒に振り返るので、ちょっと参加している気分を味わえるかもしれません。
木下 此元さんと同じ内容にはなりますけど、TVシリーズとは違う別の視点から「オッドタクシー事件」を見られるのがポイントかなと思います。そのうえでひとつの結末を描いているので、そこも見どころだと思いますね。あとは、映画館の音響で聞くとアクションシーンやカーチェイスのシーンの音楽やSEも迫力が全然違うので、そこも見どころ、聞きどころかなと。
平賀 白川や樺沢もそうですが、キャラクターの魅力が凝縮されているのもひとつの特徴だと思います。たとえば、ドブは後半から徐々に愛着が湧くキャラクターで、彼のセリフには深みがあるのでそういうところにも注目してもらいたいです。また、コンテンツ全体でいうと、YouTubeでのオーディオドラマやコミックスなど、TVシリーズを補完するようなコンテンツがいろいろなメディアで展開されていて、「オッドタクシーユニバース」みたいになっています(笑)。そういう素敵な広がり方をしているので、『イン・ザ・ウッズ』をきっかけに作品に入られた方も、さまざまなメディアで触れてもらいたいですね。あとは、本作を最後まで見てもらうと、先に続く流れが見えると思うのですが、そういう部分の考察も含めて、まだ熱が続けば良いなと思っています。endmark

木下 麦
きのしたばく P.I.C.S. management 所属。アニメ演出家、イラストレーター。自身がキャラクターデザインも務める『オッドタクシー』で監督デビュー。
此元和津也
このもとかづや マンガ家、脚本家。代表作にマンガ『セトウツミ』がある。2018年からP.I.C.S. management に所属し、脚本家として実写、アニメ作品にも参加し、その活動の幅を広げている。
平賀大介
ひらがだいすけ P.I.C.S.所属のプロデューサーで、創業メンバー。オリジナルコンテンツの企画開発/制作を中心に手がけており、木下監督と『オッドタクシー』を作り上げた。
作品情報

『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』
大ヒット公開中

  • ©P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ