ヤノはPUNPEEさんから「METEORくんがいいと思う」と提案してもらった
――音楽面では、ヒップホップレーベルであるSUMMITのメンバーが劇伴に参加しています。
木下 最初から「ヒップホップじゃなきゃ」ということはなかったです。スタッフと話していくうちに、デフォルメされたキャラクターが活躍する世界観なので、ユニークでポップ、ちょっと奇妙な音楽が合うかもしれないと思ったんです。ヤノみたいなラップ口調でしゃべるキャラクターが登場することもあり、ヒップホップだったら物語全体がポップになるし、温度感もちょうどいいかもしれないと。それからSUMMITさんにご相談しました。
――SUMMIT内のみならず、ヒップホップ界で確固たる地位を築いているPUNPEE、VaVa、OMSBの3人ですが、劇伴を担当するのは初めてだったと思います。どのようなやり取りを行ったのでしょうか?
木下 僕も監督として劇伴をお願いするのが初めてだったので、音響監督の吉田光平さんにアドバイスをいただきながら進行しました。PUNPEEさんたちももちろん最初はとまどった部分もあったと思うのですが、何度かやり取りを重ねるうちに、だんだんと劇伴っぽくなっていきましたね。
――ヒップホップ的と言えば、ヤノをラッパーのMETEORが演じています。もともとラップ調でしゃべるという設定はあったのでしょうか?
木下 ヤノに関しては此元さんのオーダーで「ドブと敵対するギャングをひとり追加で作ってほしい」と言われたんです。それでヤマアラシのキャラクターを新たに描き起こしたのですが、それを此元さんがラップ口調のキャラに仕上げてくださいました。
此元 木下さんからもらったキャラクター表のなかに、ヤノという名前の小さいネズミのキャラがすでにいました。あのキャラクターが気に入ったので「これをベースに悪そうなヤツを描いてほしい」とリクエストしたら、ヤマアラシになって出てきたので、これはラップで話をさせようと。ラップをさせたのはとくに理由はなくて、デザインを見ての直感ですね。
――ヤノは第7話から登場しますが、後半から登場したのには何か意図があったのでしょうか?
木下 此元さんが脚本を執筆されている段階で、ヤノに該当するキャラを作ってほしいと言われた記憶があるんですよ。たしか第5話くらいまで脚本が進んでいたタイミングだったと思います。
此元 あ、そうだった気もします。だから、序盤は出てこなくて、第7話くらいのタイミングでしか登場させられなかったという(笑)。
――キャストとしてMETEORさんを選んだのは?
平賀 ラップ口調のキャラということで、ヤノのキャスティングには苦労するだろうというのは監督も僕も思っていて(笑)。もちろん、此元さんからも「本物のラッパーがいいですよね」という話はいただいていましたし、それは共通の認識としてありました。その頃は並行してPUNPEEさんたちと劇伴を制作していたので「誰かいい人いないですかね?」と相談したんですよ。そうしたら「METEORくんがいいと思う」と提案してもらって、ラップを聞いたらめちゃくちゃ良くて。「もうお願いします!」と頼み込みました。
――求めていたヤノ像に近いものだったと。
此元 そうですね。イメージとしてはもっと声が低いかなと思っていたのですが、あの声を聞いてしまうと彼がヤノだなと。
平賀 METEORさんも「もうちょっと低くてもよかったかもしれない」と収録されたのを聞いておっしゃっていましたね。でも、今の声はかわいらしさもあって、バランスはよかったと思います。
木下 最初のプレスコのときは、もっとラップ調、ヒップホップ感が強かったんですよ。
平賀 収録前から役を作ってくださっていたんです。PUNPEEさんとふたりでヤノをどう表現するか考えてくださって、PUNPEEさんのスタジオで事前に収録したデモもありました。それを参考に本番のスタジオでも参考用に一度録っています。そこから、もうちょっとナチュラルに、ポエトリーリーディングに近い形で調整してもらいましたね。
木下 かなり難しい要求をしているという自覚はありました(笑)。でも、結果的に音楽としてのラップと会話口調のちょうど中間あたりのものに行き着いて、あのギリギリ聞き取れる感じになりましたね。
――此元さんの脚本から、ラップの部分も一字一句変わっていないのでしょうか?
平賀 此元さんからも「言い回しで言いづらいところは変えてもらっていいです」と言われていましたが、本当に一部、語尾が変わったくらいでしたね。
- 木下麦
- きのしたばく。P.I.C.S. management 所属のアニメ演出家、イラストレーター。自身がキャラクターデザインも務める『オッドタクシー』で監督デビュー。
- 此元和津也
- このもとかづや。マンガ家、脚本家。代表作にマンガ『セトウツミ』がある。2018年からP.I.C.S. management に所属し、脚本家として実写、アニメ作品にも参加し、その活動の幅を広げている。
- 平賀大介
- ひらがだいすけ。P.I.C.S.所属のプロデューサーで、創業メンバー。オリジナルコンテンツの企画開発/制作を中心に手がけており、木下監督と『オッドタクシー』を作り上げた。