ミステリー要素だけでなく、第10話以降は物語の面白さから目が離せなくなる
――放送後のリアクションが回を増すごとに大きくなっていきましたが、みなさんにとって想定内でしたか?
平賀 ミステリー色が強い作品になったので考察で盛り上がってほしいと思っていましたが、想像以上に考察してくださる方々のモチベーションが高いのは驚きでした。
木下 でも、視聴者のみなさん、めちゃくちゃ鋭いですよね。第1~2話の段階でけっこう考察が進んでいて、ほとんど解釈が当たっているような人もいて。
平賀 最後の最後まで謎めいている作品ですけど、見終わったあとは「これがこうだったね」と考察で盛り上がるだけではなく、キャラクターの物語にグッと惹き込まれる内容だと思います。僕も途中までは「この伏線は」みたいな形で過去回を見直したりしましたが、第10話以降は物語の面白さから目が離せなくなる。それが『オッドタクシー』のいちばんの魅力だと思っています。謎の解決や伏線の回収もとことん楽しめますが、小戸川をはじめ、いろいろな人たちのトラウマや問題が次々とフィーチャーされていく第13話は、その物語に視聴者も圧倒されたのではと。
――最終話では、小戸川と同じく視聴者も「人間」として世界を見ることになりますが、描き方は難しくありませんでしたか?
木下 あそこはあまり苦労しなかったですね。タクシーが橋から飛び出して月と重なるシーンがシナリオ段階から圧倒的にドラマチックでカッコよかったので。あのシーンがあれば、そのあとの理屈はそんなに気にならなくなるんじゃないかなって。
――此元さんは世間の盛り上がりをどのように見ていましたか?
此元 感想を見ていると、「〇〇に似ている」とか「△△を彷彿とさせる」とか具体的な作品名を挙げてもらっていることも多くて。ただ、僕はほぼどれも見たことがない(笑)。
平賀 (笑)。僕も『セトウツミ』を読んだとき、此元さんは映画とかマンガとかめちゃくちゃ見たり読んだりしているマニアの方なのかなと勝手にイメージしていましたけど、全然そうじゃないんですよね。それはけっこう衝撃的でした。その分、いろいろな小説を読まれているという。
此元 最近は映画なんかも見るようにしています。そこにしか伸びしろがないと思って(笑)。
木下 (笑)。でも、此元さんのアンテナの張り方がすごいんだと思いますよ。オンラインサロンをモチーフに入れたり、人を傷つけない笑いが流行っているとか、そういうアンテナが。
――ぺこぱの本格的なブームが来る前に執筆されていますよね。
此元 書き始めたときは、まだそこまでじゃなかったですからね。そういう風潮はあったかな、くらいの感じで。
木下 だから、2~3年先に目線があるんだなと思いました。
――木下さんと平賀さんは、今回の経験はいかがでしたか?
木下 オリジナル作品だったので、ものすごく時間がかかりましたし、一本作り切るのは本当に大変でした(笑)。ただ、TVアニメとして世の中に出してみたら、いろいろな反響があって、まだまだTVコンテンツの波及やそのパワーがあるのを実感しましたね。
平賀 僕らは実写ドラマも制作するのですが、アニメのノウハウはあまりなかったので、逆にそのあたりを意識せずに作ることができたのが、視聴者の方々に興味を持ってもらえた部分のひとつかなと思っています。あとは作品が海外にも配信されていて、その反応がダイレクトに見えたのは面白かったですね。インスタライブをしていても、海外の視聴者がけっこう入ってきたりして。誇張されたものではなく、リアルな日本が描かれた作品だと思うのですが、海外の人に受け止めてもらえたのはうれしかったです。じつのところ、制作側としても海外での人気は視野にあまり入れていなかったのですが、国に関係なく、構成やストーリー展開の面白さを楽しんでもらえたのかなと思います。
――これから取り組んでみたい作品はありますか?
木下 『オッドタクシー』をノワール系として見てくださる方や、バイオレンス描写がリアルで面白いと言ってくださる方が多かったので、ノワール感を自分の作家性として突き詰めて作っていきたいなと思っています。
――此元さんは、アニメ制作に携わっての感想はいかがですか?
此元 自由度で言えば、マンガのほうがあるかなと思います。ただ、実写をやらせてもらったらアニメよりさらに制約があったので、アニメの自由さは理解しました。
――今後のマンガ制作や脚本作業に影響がある部分も?
此元 ありますね。確実に……ただ、どこがと言われるとわからないです(笑)。
- 木下麦
- きのしたばく。P.I.C.S. management 所属のアニメ演出家、イラストレーター。自身がキャラクターデザインも務める『オッドタクシー』で監督デビュー。
- 此元和津也
- このもとかづや。マンガ家、脚本家。代表作にマンガ『セトウツミ』がある。2018年からP.I.C.S. management に所属し、脚本家として実写、アニメ作品にも参加し、その活動の幅を広げている。
- 平賀大介
- ひらがだいすけ。P.I.C.S.所属のプロデューサーで、創業メンバー。オリジナルコンテンツの企画開発/制作を中心に手がけており、木下監督と『オッドタクシー』を作り上げた。