TOPICS 2023.05.26 │ 12:01

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第11回(前編)

第11回 古谷徹(アムロ・レイ)×潘めぐみ(セイラ・マス)

自分の意志とは裏腹に最前線へと駆り出されるアムロ・レイ。それを陰ながら支え、鼓舞し続けたのがセイラ・マスという女性である。ジオンの忘れ形見であり、シャアの妹という出自がありながらもアムロとは深い縁を感じさせるセイラを演じることになった潘めぐみさんと、役を引き継ぐ難しさについて語ってもらった。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

めぐみちゃんの演技に違和感はまったくなかった

――セイラという役柄の到達地点が井上さんであるとすると、潘さんはどうやってそこに近づこうと考えたのでしょうか?
 ひとつ大きな変化として、アルテイシアがセイラに変わる瞬間というものを自分の中で決めていました。周囲から「セイラ」と呼ばれるようになったことによって、次第にアルテイシアではなくなっていく感覚と言いますか。自分の意志とは関係なく戦いの中に巻き込まれていくことでキャラクター自身にも変化が表れることは、自分の中でも感じていました。その一方で、幼少期にお母さまが大好きだった純粋さの部分をあざとく見せたくはなかったと言いますか、本当に純粋に受け取ってきたものをそのまま出せるように意識しました。アルテイシアが生まれたとき、世界にはすでに戦いがありましたし、そんな世の中だからこそ唯一素直でいられる存在でありたかった。兄のキャスバルは自分の感情を押し殺して立ち向かおうとする人でしたし、あの物語の中で恐怖心をあらわにしたり、母親にすがることができたのはアルテイシアだけだと思います。そういう純粋さを表現できたらと思って。

――古谷さんは『THE ORIGIN』での潘めぐみさんの演技を見て、どういう感想を持ちましたか?
古谷 めぐみちゃんの演じるアルテイシアやセイラに違和感はまったくなかったですよ。そのせいで物語のほうに気を取られてしまったくらいで、シャアやセイラの幼少期があまりにも悲惨で同情してしまった。だから『THE ORIGIN』の後半でセイラになるにつれて、めぐみちゃんも役と同じように出来上がっていった部分もあるんじゃないかな。
 アルテイシアが成長していくのに合わせて、自分も成長していけていればいいのですが。

©創通・サンライズ

受け継がれるダイクンのDNA

古谷 劇中ではセイラがライフルを持って戦うシーンがあるけど、そういうシーンでは戸惑いがありましたか? それまでのアルテイシアやセイラとはイメージが大きく違うじゃない。
 「ケダモノたち!」のシーンですね。あの場では自分や自分を育ててくれた人たちを守れるのはセイラしかいなかったので、やるしかないという決意ですよね。それはある意味でダイクンの血なのかもしれません。あの目はお兄ちゃん譲りでもあり、たぶん父・ジオンの前から脈々と受け継がれてきた血なのではないかなと考えています。
古谷 ダイクンのDNAってことだね。兄妹とも見た目はお母さん似だけど(笑)。
 優しさの部分は母親から、意志の強さは父親から継いでいるということでしょうね。
古谷 あとは、いわゆる上流家庭で育っているという部分については意識していましたか? 上品さとでも言うのかな。
 そこは自分で作っていったというよりも、収録現場で他の演者さんから受け取ったものの影響が大きいと思います。声には、気品や立ち居振る舞いといったものも乗るじゃないですか。現場からそうした雰囲気を受け取れたからこそ出せていたと思いますし、自分よがりで演じていたらアルテイシアはもっとガサツな女の子になっていたかもしれないです(笑)。
古谷 そういう育ちの良さっていうのかな、アルテイシアの持つ雰囲気はめぐみちゃんにも通じるところがあるように思うんです。だって、めぐみちゃんは決して下町育ちじゃないよね(笑)。「お父さま、お母さま」なんてなかなか言い慣れない呼び方だし、それがスッと出てくる時点で育ちがいいんだよね。
 いえいえ、そんなことないです。家では「お母さん」とか「ねえねえ」とか、いたって普通ですよ。endmark

古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。
潘めぐみ
はんめぐみ 6月3日、東京都生まれ。『櫻の園』(2008年)で女優デビューしたのち、『HUNTER×HUNTER』(2011年)の主人公、ゴン=フリークス役で本格的に声優デビュー。『ハピネスチャージプリキュア!』(2014年)で白雪ひめ/キュアプリンセスなどに出演。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(2015年)でアルテイシア・ソム・ダイクン、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』(2022年)などでセイラ・マスも演じている。