『機動戦士Ζガンダム』でオッサンになったアムロ
――その後、続編となる『機動戦士Ζガンダム』が放送されますが、この作品では安彦さんはキャラクターデザインでのみ参加されています。7年後のアムロ・レイをデザインする上で、苦労した点などはありましたか?
安彦 当時、20歳を過ぎるということは大人になることを意味していて、それは言い換えればオッサンになることと同義語でもあった時代です。なので、ちょっとやり辛い部分はあったかな。元のキャラクターの印象を残したまま年齢を重ねる場合、テクニックで言えば面長にするとか、そういうことで対応は可能なんだけれど、前作の登場人物は皆、年を取っているから大変でしたよ。
――当時の「20歳はオッサン」という感覚は、今となっては不思議に感じます。
安彦 それは番組が子供向けだからですよ。視聴者が子供だから、ヒーローも十代の少年たちになるわけで、必然的に17~18歳が上限の年齢になるんです。だからこそ、それを超えたらオッサンになる。当時はハイ・ターゲットと言っても中高生のことを指していて、現在のように40~50歳のおじさんたちのことではないんですよ。大学生はもう成人しているから学生といえども大人の分類、ハイ・ターゲットを超えた年齢層なので本来の対象者ではないんですね。
――というと、『機動戦士Ζガンダム』という作品は、前作『機動戦士ガンダム』を見ていなかった年齢層をターゲットにしていたと?
安彦 本来的にはそのはずです。カミーユ・ビダンやファ・ユイリィは十代の少年少女だし、物語はその世代にとっての問題を中心に展開していきますよね。でも、まあ、ずいぶん待たせての続編ですからね。見るでしょうけど、「オールドファン」たちも。
やりたくなかった『機動戦士Zガンダム』
――『機動戦士Zガンダム』でも「富野メモ」のようなものはあったのでしょうか?
安彦 これはねえ、もう言ってしまうけれど、『機動戦士ガンダム』の頃とは大違いでしたね。僕としても『機動戦士Ζガンダム』はやるつもりはなかったし、やらざるを得ないからやったということでしかない。続編をやるのはいいんだけれど、続編の難しさも同時に知っていたんです。劇場版の『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』で主要人物をあらかた死なせてしまったのに、みんなシレッと生き返らせてTVシリーズの続編につなげてしまう。そんな醜態を何度もさらすのはダメだと思っていたので、アムロや仲間たちは死んでいないし、シャアですらシルエットを見せることで(※劇場版)生きているのかもしれないとしたんです。これで続編はできるだろう、誰かがやればいいと思った。富野さんを中心としてやりたい人が結集して続編を作ればいいんです。僕は「やらないけれど、邪魔もしない」というスタンスだったんだけれど、なかなか作らないんだよ(笑)。あれはなんで5年も作らなかったんだろう。
――富野監督はその間、別のオリジナル企画を手がけていました。
安彦 そうそう。『伝説巨神イデオン』とか『戦闘メカ ザブングル』とか『聖戦士ダンバイン』とかね。彼にもそういう意地があったんだろうね。俺は『機動戦士ガンダム』だけじゃない。安易に続編なんかやらないぞと。そのときは僕も『クラッシャージョウ』や『巨神ゴーグ』、マンガの『アリオン』をやっていたし、もう『機動戦士ガンダム』のパターンはやらなくていいと思っていたんですよ。ひとつのパターンを開拓した、あるいはそのお手伝いをしたんだという気持ちがあったから、『機動戦士ガンダム』的なものをもう一度やるつもりはなかった。誰がやってもいいと思っていた。だって『銀河漂流バイファム』なんか企画当初の『機動戦士ガンダム』そのままじゃない。それはそれでいいんですよ。ただ、自分としては繰り返して同じことをするつもりはなかったというだけなんです。違うものにチャレンジしたいという気持ちが強かったし、二匹目のドジョウはそうはいないだろうと思っていた。でも、まさかドジョウがこんなにたくさんいるとはね(笑)。
- 安彦良和
- やすひこよしかず 1947年生まれ、北海道出身。アニメーター、イラストレーター、アニメ監督、マンガ家と多方面で活躍するマルチクリエイター。サンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)を中心に数多くの作品にキャラクターデザイナー、作画監督、アニメーションディレクターとして参加。自身の監督作品も多く、代表作として『ヴィナス戦記』、『アリオン』、『巨神ゴーグ』などがある。2001年から連載が開始された『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は累計発行部数1,000万部を超える超ヒット作となった。
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