TOPICS 2022.12.19 │ 12:00

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第7回(前編)

第7回 安彦良和とアムロ・レイ

すべての始まりとなる『機動戦士ガンダム』(1979年)において、キャラクターデザインとアニメーションディレクターを担当した安彦良和(やすひこよしかず)氏。当時のロボットアニメとしては珍しい主人公像だったアムロ・レイについて、安彦氏はどのように考え、デザインしていったのだろうか。今回は特別企画として、安彦良和氏にアムロ・レイと古谷徹の演技について聞いた。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

アムロは純粋に外国人

安彦良和氏といえば、キャラクターデザインだけでなくアニメーションディレクター、監督、演出、脚本といった主要な役割をひとりでこなしてしまう超人的なクリエイターとして知られている。さらに、アニメーターとして第一線を退いてからはマンガ家としても活躍しており、自身がイメージする「ガンダム」を描いた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』はアニメ化もされている。『機動戦士ガンダム』以前にもロボットアニメの主人公をデザインしてきた安彦氏は、内向的でヒーローっぽくないアムロ・レイというキャラクターをどう考えていたのだろうか。

安彦 当時はどの作品も皆同じようなイメージでね。熱血というのか好戦的というのか、とにかく男っぽいキャラクターが多かったわけです。巨大ロボットに乗って異星人と戦うんだから、そういうビジュアルになるのはわかるけれど、僕としてはそういうものに飽きていたのも事実です。では、アムロ・レイというか『機動戦士ガンダム』におけるキャラクターはどうかと言うと、これはもう全然違う。こうしたキャラクター造形の基礎となるものは、もちろん富野喜幸(現:由悠季)氏から出たものです。僕が「こういう性格にしよう」とか、そういう考えを入れたわけではなくて100パーセント富野印(とみのじるし)ですよ(笑)。キャラクターに関する構想が書かれた「富野メモ」と呼ばれる文章があって、これがまた例によってわかりにくい書き方なんだけれども、わかりにくいなりに面白い。なぜかはわからないけれど「これはいい」と感じて、僕は無条件にそれに乗っかったんです。富野さんからキャラクターデザインについて何かオーダーがあったかというと、なかったように思います。阿吽(あうん)の呼吸とでも言いましょうか、とくにアムロのデザインについては一発でOKが出たと思います。鉛筆の絵にマーカーで簡単に着色したものしか描いていないんじゃないかな。他にラフのようなものを何枚も描いた記憶はありません。

――富野監督のメモには具体的な指示が書かれていたのでしょうか?
安彦 メモの内容についてはおぼえていません。なにしろわかりにくい文章だったから(笑)。でも、今までとは決定的に違うものを目指している彼の真意はくみ取れたし、それを僕はとてもいいと思ったので、絵にするのは簡単だった。こういう新しいことをしようとするときは、民主主義的な現場ではダメなんです。ある種、独裁的であっていい。多数決なんて言っていたら、いいものは作れないんだから、これはいいと思ったらあとはそれに乗るか、乗らないかだけなんです。細かい部分では僕からも意見したことはありましたが、基本的には富野さんのやりたいように進めたし、富野さんからも野暮なことは言ってこないという現場でした。

――アムロを特徴づける要素として、安彦さんはどんなものを考えたのでしょうか?
安彦 まず、外国人であるということ。そしてネクラだということ。これだけでも、今までにないキャラクターだったんです。当時のロボットアニメの主人公は、まず日本人であることが絶対だったし、性格も快活で元気な青年や少年が多かった。これはスポンサーが望んでいること、つまり対象となる視聴者が少年たちで、彼らに玩具を買ってほしかったのだから必然でもあったわけです。アムロの場合、外国人であるという点をスポンサーに突っ込まれた場合の対策として「安室 嶺」なんて当て字まで用意して、故郷は鳥取県の日系二世ということにしようと考えていたわけですが、僕や富野さんの中ではアムロは完全に外国人ですよ。

それまでの主人公像を正反対にしたようなアムロ

――アムロとカマリア(アムロの母)が別れるシーンは鳥取砂丘だったということですか?
安彦 アムロのお母さんは鳥取の実家にでも避難していたんですかね。「山陰(サンイーン)」という指定はコンテにありました。でもね、そうまでして用心していたのに、スポンサーからはとくに突っ込みはなかったんです。だから無駄な手間になってしまったんですけれどね。当時はテレビ局もスポンサーも、アニメの主人公は日本人でなきゃと思っている時代だった。ところが、アムロ・レイはその真逆のようなキャラクターで、ネクラでメカフェチ、友達も少なくて素直ではないし、すぐにイジケてしまう。それまでの主人公像を正反対にしたようなアムロのキャラクター像でしたが、僕はそれに大賛成だった。感情表現が下手でナイーブな少年をストレートに描くということは、それまでのアニメ作品ではなかったことだし、自分自身でもアニメの企画をいくつか書いているからわかるけれど、そういう主人公像というものを僕は考えつかなかった。

――アムロ以外の主要キャラクターについてはいかがでしょうか?
安彦 富野さんは、女性キャラクターについてこだわりがあるんですよ。だからマチルダ・アジャンとララァ・スン、あとはクラウレ・ハモンについては富野さんのラフスケッチがあったので、僕はそれを「はい、いただきます」と言って、そのままクリンナップしただけなんです(笑)。

――富野監督は自身で絵を描くことが多いですよね。
安彦 演出家であそこまで絵が描けるのは珍しいと思います。指示をもらうほうとしても無駄なことをしなくて済むから、絵が描けるというのは助かりますよね。大河原邦男さんも言っているけど、メカデザインでも同じです。モビルアーマーなんてぶっ飛んだ造形のデザインは全部富野さんのラフそのままですよ。ザクレロとかさ(笑)。大河原さんもサッパリした人だから「これでいいの、富ちゃん?」なんて言いながらサッと清書してしまう。そういう意味でも『機動戦士ガンダム』は阿吽の呼吸があった現場だったと言えるんじゃないかな。

作品情報

『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』

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