TOPICS 2023.03.01 │ 12:03

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第9回(中編)

第9回 古谷徹(アムロ・レイ)×川村万梨阿(ベルトーチカ・イルマ/クェス・パラヤ)

ベルトーチカ・イルマを演じた川村万梨阿さんとの対談の2回目は、あらためて見直すベルトーチカとアムロの関係性について。TVシリーズと新訳劇場版における変化や、その描写に隠された機微について聞いた。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

ロボットアニメとは思えないアムロとベルトーチカの会話

他人との接触を拒絶するアムロに対し、ベルトーチカはズカズカと距離を詰めてくる。その無神経さはカミーユたち少年を苛つかせるが、アムロは心の壁を崩されたことで引きこもっていた「部屋」から出ざるを得なくなった。このシーンこそがベルトーチカという女性を強烈に印象付けているのだが、川村万梨阿さんはどのように演じていたのだろうか。

――TVシリーズの第16話「白い闇を抜けて」では、アウドムラのエレベーター前での会話シーンが印象的でした。というより、放送をリアルタイムで視聴していたときは子供すぎて、何を言っているのか正直わかりませんでしたけれども。
古谷 今、こうやってあらためて見てみると、ベルトーチカって可愛いな(笑)。でも、これってロボットアニメの会話じゃないよね。『機動戦士ガンダム』が特別なのか富野作品が特別なのかはわからないけど、普通はエレベーターの前での男女の会話を延々流したりしない。
川村 38年も前の自分の演技を大先輩の目の前で見せられるなんて、冷や汗がドッと出ました(苦笑)。でも、たしかにアニメっぽくなくて、海外の映画のようなイメージなのかなと捉えていましたね。だからあまり子供っぽい芝居ではダメで、洋画の吹き替えのような芝居を意識していたんですけど。
古谷 アムロも簡単に説得されちゃって、完全に負けてるよね(笑)。でも、40年近く前とは思えないほど、作画も含めて全部がいいシーンだよね。
川村 押しの強いキャラですからね(笑)。でも、セリフにもあったように「私のスターはもっと輝かなきゃダメよ!」という気持ちが全面に出ていると思いますし、今で言うところのツンデレキャラですから「私の男は強くなきゃダメよ」みたいな言い方をしてしまうんでしょうね。
古谷 そうだね。たしかに言葉はきついけれど、そういう気持ちなのはわかる。アムロはファンに甘いんだよね。グイグイ来られると負けちゃう。そういうところは僕と一緒だな(笑)。
川村 アハハハ。そうなんですね。

©創通・サンライズ

古谷 でも、不思議なのは、今見るとベルトーチカの印象がそこまできつくないんだよね。これは1985年と2023年という時代の違いのせいなのかもしれないけど、今の目で見るとベルトーチカという女性はそこまで我が強いようには感じない。むしろもっときつい女性は普通にいるし、ある意味では時代を先取りしていたのかもしれない。
川村 当時、洋画の中の女性にはああいうタイプが多く登場していましたよね。80年代というのは強い女性が台頭してきた時代でしたし、そういう社会情勢の影響もあったのかなと思います。日本人的な考え方ではなくて、ちょっとフランス人っぽいのかなと思ったんですよ。私はシャルロット・ゲンズブール(※フランス出身の女優・歌手)が大好きで、あんな雰囲気を出せたらいいなと思いつつ演じていたんですね。だからアニメというよりはフランス映画の吹き替えを意識したような、人間関係を中心に据えた芝居というイメージだったんです。
古谷 たしかにアムロも少し引っ張られている印象があるね。この時期のアムロの声は少年と大人の中間を意識して芝居をしていたんだけれど、このシーンでの演技はそこまで意識していないように聞こえる。『逆襲のシャア』の頃のアムロのように自然体でしゃべっているように感じるな。
川村 この時点でのアムロはまだ完全に復活していないので、少し鬱屈とした印象ですよね。でも、後半で再登場したときは、もう皆さんの知っているアムロが帰ってきたという感じで、ああやっぱりすごいなと思いました。
古谷 でも、それはベルトーチカのおかげだよね。アムロの中には彼女にカッコイイところを見せたいという気持ちもあったと思う。そういう動機がなければアムロがモビルスーツに乗ることもなかっただろうし、戦場に出ていく勇気も出なかったかもしれない。