TOPICS 2023.06.16 │ 12:00

山本裕介に聞いた
『機動戦士Vガンダム』30年目の真実⑥

放送30周年の節目に山本裕介と『機動戦士Vガンダム(以下、Vガンダム)』の現場を振り返るロングインタビューも、これで最終回。締めくくりとなる今回は、ファンからの人気が高い第50話の舞台裏、そして『Vガンダム』への熱い思いを総括する。……見てください!

取材・文/前田 久

散っていく人たちが輝いて見えるように心を砕いた特攻シーン

――山本さんが最後に参加した第50話「憎しみが呼ぶ対決」は最終話の1話前。最終話は長いエピローグの趣も強いので、ある意味、クライマックスのエピソードです。
山本 シナリオを読んだときは「富野監督が特攻を描くんだ」と、ちょっと意外に思ったんです。あとから考えると『無敵超人ザンボット3』のラストでもやっているし、他の作品にも前例がありましたね。まだ演出を始めたばかりで、人が死ぬ話を演出した経験がなかったこともあって「こんなに死なせていいのかな?」と不安に思ったんですが、どうせやるなら丹念にやろうと決めました。元のシナリオではわりとあっさり「みんなで突っ込んで終わり」くらいだったんですが、絵コンテで内容を盛りました。

――具体的にはどのように?
山本 まず全員がブリッジに固まっているのではなく、視点を分けたほうがいいだろうと考えました。爺さんのうちのふたりはガンイージで「砲台替わりになる」と言いながら、そこで先にやられる。次にブリッジに攻撃が集中して、ジン・ジャハナムやゴメス艦長も死んでいく。と、段階を踏むコンテにしたのを富野監督が汲んでくださって、さらに膨らませてできたのが最終形ですね。

第50話の絵コンテ。リーンホースJr.の最期は『Vガンダム』の中でも屈指の人気を誇る名シーン。/©創通・サンライズ

――あそこは山本さんのアイデアが生かされていたと。
山本 キャラクターが死ぬと今では「鬱展開」と言われたりしますが、この話数ではある種のすがすがしさが感じられると思うんです。僕が狙ってそう描いたわけではなく結果的にそうなったのですが、とにかくなんだか不思議な感覚でした。挿入歌の「いくつもの愛をかさねて」の力も大きいでしょうね。あの曲が入ることはダビング現場で知ったのですが、ぴったりハマっていて驚きました。おそらくですが、富野監督から指示があったんだと思います。その効果もあって、悲壮感というより散って行くキャラたちが輝いて見える、後味のいい話になったと思います。

最後の最後にやってきた2度目の大激怒

――特攻シーンの盛り上がりもですが、その前後の展開の密度もすごいです。分解していくエンジェル・ハイロゥやウッソとクロノクルの決戦など、普通だったらもう数話はかかりそうな要素を、演出でぎゅっと詰め込んでいる感があります。
山本 それはもう、僕の絵コンテが下敷きにあったとしても、富野監督がまとめてくださったからです。監督がよく言う「方向性の流れで見せてしまう」という演出論があるんですね。右から左にフィルムを流すように、上手(かみて)から下手(しもて)への流れが整理されていれば、どんなに込み入った話でも成立して見える。ストーリーだけでなく、フィルムの流れで見せてしまえ、ということなんです。

©創通・サンライズ

――演出できちんとコントロールできていれば、ストーリーの煩雑さは問題ではないわけですね。
山本 それにも関連してくるのですが、第50話のカッティングはとても印象に残っています。というのも、2回目に怒られたのがそのときだったんです(笑)。完成した本編ではカットされたシーンなんですが、シャクティがキールームという鳥かごのようなところに入って行くくだりがあって、絵コンテに指示された通りではあるのですが、連続する2カットの方向が逆になる、いわゆる「逆ポジ」のつなぎになっていたんです。「ここは、何故こういうつなぎなのかわかる?」と富野監督にニコニコしながら聞かれ、僕はてっきり富野監督が絵コンテでミスったのかなと思って「さあ……わかりません」と言葉を濁して答えたんですね。そうしたら「あれだけ教えたのに、まだわからないのか!」と、ガツンと怒られました(笑)。

――ひええ……そのあと、どうなったんですか?
山本 ひとしきり怒鳴られたあとは、あっさりと「じゃあ、カッティングを続けようか」と(笑)。当時は設定制作で、現在はプロデューサーの河口佳高さんにそれをぼやいたら「たぶんこれが最後だから、富野さん、寂しがっているんですよ」とフォローされました。河口さんはお世辞を言うような人ではないので、もしかしたら本当にそうだったのかもしれません(笑)。

――寂しさが原因だったにせよ、怒られるのは怖いですね……。
山本 怒られた2回とも、スタジオ中に響くくらいに怒鳴られましたしね。他の人が怒られるときもそうで、遠くから聞こえてくる富野監督の声で「もしかして、自分に対しても言っているのかな?」と感じるんですよ。つまり、誰かが代表して怒られて、それを聞いて全員が身を引き締める、みたいな。ただ、それでみんなが富野監督を嫌いになるかというと、そんなことはなくて「ちゃんと話をすれば通じる」という信頼関係が現場にできていたんです。だから、この記事を読んだ人にはそこは誤解しないで、笑い話のように聞いてもらえたらありがたいです。

――第50話後半のカテジナまわりのシーンはいかがでしょうか。ラストカットの巨大化したかのようなイメージはインパクト大です。今見ても空恐ろしい。
山本 僕が描いた元コンテにも近いものはあったんですが、富野監督の修正でよりいっそうカテジナの存在感が大きくなりました。(手元の絵コンテを見ながら)富野監督が書き込んだコメントを見ると、「このカットはいらない。アップのカットを安売りするとカテジナのアップが生きなくなる」とあります。そこまでのシーンではモビルスーツに関してもなるべくロングショットで描いて、最後に登場するカテジナが大きく見えるように絵コンテが修正されているんです。ただ画面上で大写しにするだけでなく、そう見えるような流れが作られているからV2ガンダムやリグ・コンティオよりもカテジナのほうが巨大で怖く見える。もしかしたらそれは、カテジナがクロノクルの不甲斐なさに対して感じていた気分と、クロノクルが自分の当初思い描いていたとおりのライバルキャラクターとして成長してくれなかった富野監督の中のやるせない気分がちょうど重なっていたのかな……と思ったりもしました。

富野監督は「教え魔」なんだと思う

――ここまで話を聞いてきて『Vガンダム』がどのような状況で作られていたのかのイメージがとても変わりました。
山本 それはよかったです! 富野監督には「ただ作品を作るだけではもったいない。現場を使ってスタッフを育てよう」という意識があったのだと思います。きっと教えるのが大好きなんじゃないですかね。「教え魔」といっていいくらいだと思うんですよ(笑)。

――それはどうしてなんでしょう?
山本 富野監督自身は、先輩からはあまり教えてもらえなかったと聞いています。でも、そういう「盗んでおぼえろ」という考えが自分は大嫌いだ、と。「20年かかって悟ることをたったひとつのアドバイスで知るなら、そのほうがいい。その程度のことはさっさとおぼえて早く一人前になれ。僕から学んだことを生かして、偉くなったら叩き潰しにいく!」みたいなことをおっしゃっていました(笑)。『Vガンダム』当時の富野監督は、井内(秀治)さんに対してもライバル意識を持っていたようですし。そういう意味で、僕は今でも富野監督に「あいつを叩き潰したい」と思わせるような演出にはなれていませんし、眼中にもないでしょうけど、いつかそうなりたいという思いは捨てていません。それに自分も機会があれば、若い演出さんに富野監督から教わったことを伝えていきたいなと思っています。

「富野監督ならどうするか?」を常に考えるようになった

――あらためて『Vガンダム』での経験から、今の山本さんが監督としていちばん影響を受けている部分はどんなところでしょうか?
山本 細かい技術論はもちろんですが、それ以上に大きいのは「富野監督ならどうするか?」という別の視点がひとつ、自分の中に生まれたことですね。今の自分は『Vガンダム』当時の富野監督の年齢を超えてしまっていますが、同じ監督という立場になってどうするべきか迷ったとき「富野監督ならどうするか?」と考えることがあります。「富野監督だったらさらにワンランク上のコンテを描くだろう。妥協してはダメだ」といった風に。同じように「井内さんならどうするか?」という視点も存在するんですが、そうした監督としてのボーダーラインを引いてくれたのが、富野監督と最初の師匠である井内さんなんです。

――自分が監督としての仕事をするうえでの指針を与えてくれた人たちだ、と。
山本 富野監督はまだまだお元気で、『Gのレコンギスタ』を見ていても、80歳手前でこのロボット戦闘の絵コンテを描くのか!と驚かされます。僕が伸びていったとしても、富野監督がそれ以上に伸びていかれるので、絶対に追いつけない気がしています(笑)。ただ、富野監督にも苦手な部分はあるはずなので、そこで勝負できないかと思っているんですが、そちら方面には井内秀治が立ちはだかっている、というのが僕の認識なんです(笑)。

――ただ影響下にあるだけではなく、対抗意識も持ちながら。
山本 富野監督からは『Vガンダム』のあとに『OVERMAN キングゲイナー』で再びお仕事をしたときにも感銘を受けました。それまで『Vガンダム』のときに教わったことをずっと守りながら仕事をしていたのですが、「僕が教えたことはもう捨てちゃってもいいんだよ」と言われたんです。そのときに富野監督の呪縛から解き放たれた意識があって。さらに『キングゲイナー』が終わったあとに「また機会があれば、監督の仕事をお手伝いしたいです」と言ったのですが、「山本君はもう自分の作品をやっていくべきであって、僕のシリーズを手伝うよりも自分のことをやりなさい」と。

――直接、成長を認められたんですね。素敵な話です。
山本 というよりも、ご自身がもっと若いスタッフと仕事したいと思われていたんじゃないでしょうか。25歳のときの僕は教え甲斐があったけれども、もうお呼びじゃないって(笑)。

――またまた(笑)。監督のファンで、この記事をきっかけに『Vガンダム』を見ようという方もきっといると思います。そんなファンにかける言葉を、最後にお願いします。
山本 繰り返しになりますが、当時の富野監督はまさに全力で『Vガンダム』を作られていましたし、スタッフも一生懸命それについていきました。関わった我々にとっては、思い入れが深い作品なんです。だから最後にひとことと言うなら、やっぱりこのセリフですね……「見てください!」(笑)。endmark

山本裕介
やまもとゆうすけ 1966年生まれ。島根県出身。日本大学芸術学部映画学科を卒業後、サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)に入社。制作進行を経て演出家となる。主な監督作に『ケロロ軍曹』『ワルキューレ ロマンツェ』『ナイツ&マジック』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』『ヤマノススメ』シリーズなどがある他、2023年7月からは『SYNDUALITY Noir』が放送予定。
作品情報


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