TOPICS 2023.06.23 │ 12:00

ウッソ役・阪口大助とカテジナ役・渡辺久美子が語る
『機動戦士Vガンダム』30年目の真実③

TVアニメ『機動戦士Vガンダム』放送開始30周年記念企画としてお届けしてきた、ウッソ・エヴィン役・阪口大助とカテジナ・ルース役・渡辺久美子によるスペシャル対談。最終回は最終話近辺の話題を中心に、ウッソとカテジナの心情をあらためて語ってもらった。そして今、ふたりが今作に対して思うことは――。

取材・文/前田 久

最後までカテジナの気持ちを考え続けた

――前回の記事の最後で「ウッソの純粋さ」を表現するために、キャリアの浅い阪口さんの声が必要だった、というお話がありましたが、そちらについてもう少し詳しく聞かせてください。
渡辺 もちろん、ウッソには純粋じゃない部分もあります。女の人に興味を持ったりだとか(笑)。でも、それも慣れたお芝居をしてしまうと「子供のくせになんだかいやらしい!」と視聴者に思われてしまうと思うんです。あれだけ子供らしいキャラだから、そういう場面でもなんだかいやらしい感じにならないんですよね。
阪口 13歳という設定の男の子は、難しい役だと思うんです。当時の感覚だと女性が演じてもおかしくなかった。僕は直接お聞きしていないのですが、ウッソ役の最終候補には松本梨香さんと僕が残っていたそうで。梨香さんが演じていたら、また全然違うウッソになっていたと思いますね。

©創通・サンライズ

――思春期とはいえまだ入り口で、女性に関心はあっても生々しくない……。あらためて考えてみると難しいですね、たしかに。
阪口 そんなウッソに興味を示さない年上の女性って、メインキャラでは結局、カテジナさんだけで。
渡辺 案外、最初の頃からカテジナの中にはウッソを疎ましく思う気持ちが醸成されていたのかも? だって待ち伏せしたり、今で言うストーカーっぽい行為もしていた少年だったし。
阪口 隠し撮りしていますからね(苦笑)。だからこそ、自分を守ってくれる男性としてクロノクルを選んだのかな。カテジナの気持ちは考えれば考えるほど難しい。一瞬、カミーユ・ビダンとも重なって見えたことがあるんです。少し違うんですが、感受性が強すぎたのかな……と。
渡辺 でもね、カテジナのあの態度は、じつは女性がたまにやる「さっきはこう言っていたのに、全然違うことを言っているじゃん!」なのかもしれないな、とも思う (笑)。「この服どう?」と聞かれたから「かわいい、似合うよ」と答えたのに「そういうことじゃなくて!」みたいに返す、それをすごく壮大にした感じなのかなって。ああいう言動とカテジナの言動は似ているなと思ってしまいます。
阪口 なるほど……。
渡辺 自分がそういうことをしてしまうこともあって。「なんでわかってくれないの?」と理不尽に怒ったりすることはありませんが、「頭の中で整理できていないことがダダ漏れになってしまっているんだな」と、あとになって感じるんです。演じていた当時は「カテジナはどういう気持ちなんだろう?」と考え続けていましたが、実際にできたことは、場面ごとの感情をお芝居に反映させることだけ。「このエピソードではまるまる全部、自分の感情がカテジナとシンクロしたな」と思えたことはありませんでしたね。

ナイフで刺されてもなお、完全に相手を憎んでいないウッソ

――そんなおふたりがキャラクター同士の掛け合いでぶつかるときは、どんな気持ちだったのでしょう? とくに最終話近辺のクライマックスだと、お互い叫び合っているけれども、会話できているのかな?と感じるようなやりとりですよね。
渡辺 ウッソも最後のほうになると呼び捨てだし、刺されてしまっているし。
阪口 刺されたことを「まったく!」のひとことで済ませるウッソはどうなんだろうな、と今でも見返すたびに思いますよ(笑)。ある意味、達観しているというか。「母さんです」と言って、死んだ母親の首を差し出せる子ですからね。

――第36話のあのシーンは凄まじいですよね。
阪口 そのあとで泣いてくれるからまだ人間味を感じるんですが、本来ならばあそこで心が壊れてしまっていてもおかしくない。それくらい、普通の人とはどこか見ているところが違っている。そういうシーンのセリフは、今聞いても面白く感じますね。カテジナに刺されたときの「まったく!」も「この野郎!」みたいなニュアンスじゃない。こんな目にみすみす遭ってしまった自分に対しての「まったく!」なので。
渡辺 あのセリフは、どこかで刺される可能性も想定していたってことだよね。だから、私はあれを聞いて「ウッソがすごく大人になったな」と感じたんですよね。余裕とは違うかもしれませんが、「戦争だし、こういうものなのか」みたいな、大人の感覚がある。戦争の中で亡くなる人もいれば、生き延びても普通の意識ではなくなってしまう人もいる。そういう悲しさだとか、切なさを感じたりもします。
阪口 でも、ウッソにはまだどこかで「ウーイッグのカテジナさん」であってほしいという気持ちがあるんですよね。何度もひどい目に遭わされて、相手を呼び捨てて叫んでいても、100%の憎しみを感じられないのはたしかだと思います。
渡辺 カテジナのことを「かわいそうだな」と思ってはいただろうし、大声で叫んでいたのは、憎しみではなく、目を覚ましてほしいからだったのかな。あそこはカテジナ自身ももう、自分のことがわかっていないんじゃないかなと思いますよ。「勝てたほうを愛してあげる」と笑っていたのも、混乱の結果じゃないかと。そうした過程を経て、あの結末にたどり着く。この作品で描かれた戦争の中で、彼女はあまりにも多くのことを学びすぎてしまったのだと思いますね。

『Vガンダム』がなかったら、僕は今この場にいない

――『Vガンダム』の現場での経験が、その後の役者としての在り方や、人としての生き方に影響を与えている部分はありますか?
阪口 影響もなにも、僕にとっては「すべて」です。『Vガンダム』で浦上さんに1年かけて作ってもらったものが、今の自分のベースになっています。この作品がなかったら、僕は今ここにいない。1年の現場の重みって、すごいです。1クールの作品とはまったく違う。
渡辺 もしも1クールだったら、なにがなんだかわからないまま終わってしまっていたかもしれないね。私は……『Vガンダム』以前は、「怒り」を自分の引き出しの中から出していたんです。だから役と「怒り」でシンクロするのはなかなか難しかったのですが、この作品を通じて、これを好きだと言ってくださる方が増えて、そういった役をいくつかやらせていただくうちに、だんだんそれができるようになった。自分にはカテジナみたいな一面もあるのかな?と、あとから思えるようになりました。そういう学びを得た作品です。だから今、カテジナを演じたら、もっと怖くなるかもしれない。実際、ゲームなどで再演させていただくと、ときどきそうなってしまうんですよね(笑)。

――では最後に、この記事をきっかけに『Vガンダム』を見てみようか、あるいは再見しようかと思っている読者にメッセージをいただけますか。
渡辺 なんでこの人はこんなことを言うんだろう? いったい何を言っているんだろう?と思ってしまうシーンもあるかもしれませんが、何度も繰り返し見ているうちに、そういうシーンにこそ愛を感じるというか、じわじわと理解できるものが増えていく作品だと思います。
阪口 そうなんですよね。初めて見る人はもちろんですが、見返してもそのたびに違う感情を抱くと思います。あの頃に見ていた自分と、10年後、20年後の自分では受け取り方が変わるので、何度でも見てほしいです。
渡辺 私も「この頃の自分、へったくそだなぁ……」と思いながら、何度も見てしまいます(笑)。
阪口 わかります(笑)。でも、しょうがないですよね。あの当時はそうだったんだから。
渡辺 当時はあれが120%でした。
阪口 だから……やっぱり最後に届けたいのは、この言葉になってしまいますね。「見てください!」endmark

阪口大助
さかぐちだいすけ 10月11日生まれ。新潟県出身。青二プロダクション所属。1993年に初のレギュラー出演作『機動戦士Vガンダム』で主人公のウッソ・エヴィンを演じる。他の出演作に『あたしンち』(立花ユズヒコ役)、『銀魂』(志村新八役)、『氷菓』(福部里志役)、『血界戦線』(レオナルド・ウォッチ役)など。
渡辺久美子 
わたなべくみこ 10月7日生まれ。千葉県出身。シグマ・セブン所属。主な出演作に『勇者エクスカイザー』(星川コウタ役)、『ぼのぼの』(ぼのぼの役)、『ブレンパワード』(伊佐未依衣子役)、『あたしンち』(母役)、『ケロロ軍曹』(ケロロ軍曹役)、など。
作品情報


『機動戦士Vガンダム』
バンダイチャンネルにて好評配信中!

  • ©創通・サンライズ