TOPICS 2022.07.09 │ 12:00

監督・京極義昭が語る
映画『ゆるキャン△』ができるまで①

現在、大ヒット公開中の映画『ゆるキャン△』。5人の高校生のゆるく楽しいキャンプライフを描いてきた大人気アニメの劇場版で、原作者・あfろ監修によるオリジナルストーリーという点でも大きな話題を集めている。TVシリーズから引き続き監督を務める京極義昭に、制作の舞台裏をインタビューした。

取材・文/丸本大輔

オリジナルストーリーは制作上の必然だった

――映画『ゆるキャン△』の制作については、2018年10月に開催されたイベントの中でサプライズ発表されました。同時に、TVシリーズの続編(『ゆるキャン△ SEASON2』、以下、SEASON2)とショートアニメ『へやキャン△』(京極はスーパーバイザーとして参加)の制作も発表されましたが、京極監督へのオファーもすべて同時だったのですか?
京極 はい。第1作目の放送が終わって少ししてから、3本まとめてお話を聞き、「そんなに作るんですか!?」とすごく驚きました(笑)。ただ、TVシリーズとは違う「映画」という形で『ゆるキャン△』を映像化すれば、また新しいお客さんに届く予感がしたし、チャレンジする価値があると思い、お引き受けしました。

――連載中の原作をベースにしたTVシリーズとは異なり、オリジナルストーリーを描くという方針は、早い段階で固まっていたのですか?
京極 制作が決まった時点では『SEASON2』の後半で描いた「伊豆キャン」のエピソードですら、原作にはまだ影も形もありませんでした。だから映画をやるなら、あfろ先生と相談しながら一緒にオリジナルで考えるしかない状況だったんです。

5人が大人になっても『ゆるキャン△』の魅力は描ける

――本作では、各務原なでしこら5人のメインキャラクターが大人になって久しぶりに集まり、キャンプ場を作るという物語が展開します。どのような発想から、この物語が生まれたのでしょうか?
京極 脚本の田中(仁)さんやプロデューサーたちと話していたときにポンと話に出たのが、第1作目の最終話(第12話)でなでしこの妄想として描かれた、大人になった5人の話だったんです。「あの5人をもっと見たいよね」という案が出て、それはすごく面白いという流れになりました。キャンプは大人になっても続けられる趣味なので、5人が大人になっても『ゆるキャン△』の魅力は描けそうだと感じたんです。

――その時点では、キャンプ場を作るというアイデアはなかったのですか?
京極 そこはまだ何も考えていなかったです。そもそも、原作で描かれていない未来の話をアニメで作りたいというアイデア自体が突拍子もないので、スタッフとは「原作OKが出なかったらあきらめよう」と話していました。でも、すぐにOKをいただけて「え! いいんですか!?」と(笑)。さすがはあfろ先生、と思いました。変化を恐れないし、常に攻めてくるというか。すでにできあがった世界に安住しないことも、先生の作品の魅力だと僕は思っています。

「キャンプ場作り」は映画になりそうな予感がした

――結果的に映画はTVシリーズの「のんびり楽しいキャンプライフ」とは少し違ったテイストになりました。
京極 『ゆるキャン△』って変わらない日常を描いているように見えるんですけど、じつはひとつひとつのキャンプを通じて、主人公たちがちょっとずつ成長していく物語だと思うんです。僕もスタッフたちもTVシリーズを制作していてそのように感じていたので、その延長線上で大人になってもキャンプを通じて成長する彼女たちをイメージできました。挑戦的なストーリーだなとは思いましたが、『ゆるキャン△』がもともと持っていた世界観からは変わっていないと思っています。

――成長した5人の仕事や居住地などの設定は、すでにあfろ先生の中にイメージがあったのでしょうか?
京極 おそらく最初の段階では、あfろ先生の中にも明確なアイデアはなかったと思います。なので、まずは自分たちのほうで考えて、それを逐一、先生と相談しながら作っていきました。

――個人的に、なでしこがアウトドアショップに勤めているところに惹かれました。多くの人にキャンプの魅力を広めてきた『ゆるキャン△』の主人公のひとりがキャンプの魅力を広める仕事に就いていることが素敵だなと。
京極 大人になったなでしこたちを描くと決まったときに、そこにどんな意味があるのかも考えました。高校生のなでしこたちを受け入れてもらってきたのに、わざわざ成長させて描くからには、何かしらの意味というか、そこでしか描けないものがあるべきだと思って。子供ではできないこと、大人だからできることって何だろうと考えて出てきたひとつが、次の世代に受け渡していくこと。自分たちが楽しんできたものを次の世代に伝えていくのは、大人ならではのことだろうと考えました。

――新しいキャンプ場を作るという物語も、その結果、生まれたアイデアですか?
京極 そうですね。遠いところでキャンプをするとか、検討段階ではいろいろな案が出ていたんです。でも、もっと何かあるんじゃないかと考えていたときに、「キャンプ場を作る」というアイデアがポンと浮かんできました。それは新しい切り口で、大人にしかできないことだし、キャンプとの関わり方も変わってくる。キャンプ場作りを通じての成長もあるだろうし、映画になりそうな予感があって、その物語を描いてみたいと思いました。endmark

京極義昭
きょうごくよしあき アニメーション演出家。『黒子のバスケ』『東京喰種』『スタミュ 高校星歌劇』などの作品に演出として参加し、2018年『ゆるキャン△』で初監督。映画『ゆるキャン△』は初の劇場監督作となる。
作品情報

映画『ゆるキャン△』
全国⼤ヒット上映中︕
配給/松⽵

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