Febri TALK 2022.11.18 │ 12:00

長崎行男 音響監督/音楽プロデューサー

③アニメ制作の現場に導いてくれた
『超獣機神ダンクーガ』

インタビュー連載の第3回では、音楽業界で仕事をするなかで、初めてアニメに関わることになった作品が登場。アニメ制作のノウハウを教わり、のちに音響監督として活動するきっかけとなった『超獣機神ダンクーガ』について、作品に参加した経緯から振り返ってもらった。

取材・文/富田英樹

知り合いからもらったチャンスに飛びついた

――3作目は『超獣機神ダンクーガ(以下、ダンクーガ)』ですが、これは意外なタイトルでした。
長崎 具体的にアニメに関わることになった最初の作品でした。当時、僕はEPICソニーに在籍していて、業界同期の人間がTBS系の音楽出版社である日音という会社にいたんです。彼に「今度TBSでアニメーションをやるんだけど」と声をかけてもらった。通常であればアニメの話はEPICには来ないのですが、知り合いのツテでそういうチャンスがあって、僕は飛びついたわけです。それでEPICの担当者として、主題歌や劇伴の制作という立場で作品に参加することになりました。『ダンクーガ』は旭通(現:ADK)の片岡義朗さんがプロデューサーで、片岡さんに本当にいろいろなことを教えていただきました。

――音響監督ではなく、音楽制作としての参加だったんですね。
長崎 そうです。音楽制作担当は作品の制作開始時に音を確認したら、それ以降は現場に来ないのが普通で、それは今も昔も同じだと思うんですが、僕は好きだから用もないのに毎週アフレコ現場にもダビング現場にも顔を出していた(笑)。そうなると作業が終わったら飲みに行こうということになるし、その流れで役者さんやマネージャー、プロデューサー、音響監督などとも親しくなって、自然とアニメ業界のことにも詳しくなっていきました。『ダンクーガ』のTVシリーズは3クールで打ち切りになってしまったのですが、熱心なファンが多くいてくれたおかげで続編のOVAが制作されて、その際にも声をかけてもらいました。それがきっかけで『吸血鬼ハンターD』や『ガルフォース』といったOVAのヒット作にも関わることになったんです。

――『ダンクーガ』といえばOP主題歌を歌う藤原理恵さんが声優としても出演したり、獣戦機隊(※)がライブを開催したりと、作品の内外にまたがる展開も印象的でした。
長崎 そのあたりは片岡さんがほとんど考えていたんじゃないかな。主題歌を歌う歌手が本編中にキャラクターとして登場するとか、そういうギミックが大好きだったんですよね(笑)。でも、楽曲自体は僕の得意な音楽ジャンルに引き込んで好き勝手にやらせていただいた思い出があります。『ダンクーガ』では奥田誠治総監督にもいろいろと教えていただいて、「実写版の『伊賀のカバ丸』の脚本を書いていたんです」とアピールしたら「じゃあ、今度やる作品の脚本を書きませんか?」と渡されたのが『ドリームハンター麗夢』でした。それからシリーズ3本の脚本を書かせていただき、1本目のギャラでワープロを買い、2本目のギャラで教習所に通い、3本目のギャラで中古の車を買いました(笑)。

※ 作中で主人公の藤原忍たちが所属する部隊名。彼らを演じるキャストが同名の声優ユニットとしても活動した

工程を経ることで作品が変わっていく重要性

――『ダンクーガ』の現場から教わったことで、とくに印象に残っていることは何ですか?
長崎 当初は門外漢に近いから、本当に何もかも勉強させていただくような気持ちで現場にいたんですよ。脚本も読ませてもらうんですけど、あまりピンとこなくて「自分で担当したいと手を挙げたけど、大丈夫かな……」と思いつつ、次に絵コンテを見たら、すごく面白そうになっている。奥田さんたちが脚本を膨らませて絵コンテを描いていたんですけど、それに衝撃を受けて、音楽担当の僕がアフレコやダビングの現場に通い出すことになるんです。音響監督(松浦典良さん)も脚本を読んで劇伴を発注するのですが、その音楽メニューが文学的で、今に至るも参考にさせてもらっています。さまざまな工程を経ることで作品が変わっていく重要性は『ダンクーガ』の現場で教えてもらいました。

――その後、どういう経緯で長崎さんは音響監督になったのでしょうか?
長崎 EPIC時代に音楽部門からニューメディア部門に移り、任天堂やパソコンのゲーム・ソフトを作っていました。そのセクション自体が後に、ソニー・コンピュータエンタテインメントになります。それから10年ほどゲームの仕事をしていたんですけど、コナミが「アニメを作りたい」というので転職したんです。ただ、よくも悪くも自由だったソニーミュージックと比べると、コナミは社風が厳しくて(笑)。コナミを辞めたのが47歳のときだったんですけど、そこで「これからどうやって生きていこうか」と考えたときに、音響監督ならこれまでの経験が活かせそうだし、当時はまだ著名な音響監督が10数人で業界をまわしていた頃でしたから、なんとかなるかもしれない、と考えて青二プロダクションの社長に相談してみたんです。そうしたら「あ、じゃあ仕事を紹介するよ」と言っていただけて。他にも、讀賣テレビの諏訪道彦さんとか、アニプレックスの植田益朗さんとか、昔の仕事でご縁があった方々に助けられて、なんとか音響監督としてやっていけるようになった感じですね。

――音響監督としてのお仕事には、それまでの経験や経歴は影響していますか?
長崎 僕はアニメと平行して実写映画の現場にも関わっていたので、その点はアニメの音響監督として異端かもしれません。とくに森田芳光監督に可愛がってもらって、撮影現場やダビング時の劇伴の使い方なども間近で見せていただきました。音楽のつけ方は実写映画とアニメではかなり異なるので、そこは現在でも意識しています。具体的には画のつなぎ方が違うんですよ。アニメの場合はカット頭ですぐにしゃべり出すことがありますけど、実写でそれをやることはあまりない。ひと息、ふた息程度の差なのですが、生理的なタイミングの違いははっきりとあります。そういう違いが理解できるという意味では恵まれていると思いますね。endmark

KATARIBE Profile

長崎行男

長崎行男

音響監督/音楽プロデューサー

ながさきゆきお 1954年生まれ。千葉県出身。大学卒業後、ホリプロダクション、ワーナー・パイオニア、ソニー・ミュージックエンタテインメントなどで音楽プロデュースに携わったあとに独立し、音響監督、音楽プロデューサーとして活動。音響監督としての主な作品に『プリティーリズム・オーロラドリーム』をはじめとする『プリティー』シリーズや『ラブライブ!』シリーズ、『連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズ』『BLEACH 千年血戦篇』など。