Febri TALK 2022.11.16 │ 12:00

長崎行男 音響監督/音楽プロデューサー

②アニメの可能性を見た
『機動戦士ガンダム』のドラマツルギー

音響監督として数々の人気作を手がける長崎行男に聞くアニメ3選。インタビュー連載の第2回は、誰もが知るロボットアニメの金字塔を取り上げる。映画監督志望だった青年時代に受けた衝撃を、のちに富野由悠季監督と出会った際のエピソードとともに振り返る。

取材・文/富田英樹

「俺たち大人こそ見るべき作品だ」と衝撃を受けた

――第1回の『西遊記』から時代が飛んで、第2回は『機動戦士ガンダム(以下、ガンダム)』の劇場版3部作ですが、TVシリーズは見ていなかったのですか?
長崎 TVシリーズが放送されていたのは僕の大学時代で、その頃、TVアニメはほとんど見ていなかったんです。当時は「テレビまんが」と呼ばれていて「子供が見るもの」というイメージでしたし、映画監督志望の大学生だったこともあって、生意気なわけですよ(笑)。当時、僕がテレビで見ていたのは『傷だらけの天使』とか『必殺仕掛人』などで、深作欣二さんをはじめとする映画監督が撮った実写ドラマに感動していて、『宇宙戦艦ヤマト(以下、ヤマト)』などにも興味が向かなかったんです。だから『ガンダム』も「どうせダメだろう、シャア・アズナブルなんてシャルル・アズナヴールから安易に名前をとりやがって」なんて思っていた(笑)。だからTVシリーズは見ていなかったんですね。ところが劇場版を見たら「これはすごい!」と。この内容は子供が見てもわからないだろうと思ったし、むしろ俺たち大人こそ見るべき作品だと感動したんです。劇場版が公開された頃にはホリプロダクションに入社していましたから、本当に衝撃を受けましたね。

――『ガンダム』のどこが他の作品とは違っていたのでしょうか?
長崎 まずはドラマツルギーがしっかりしていること。先ほどのシャルル・アズナヴール云々のような表面的なことを除けば、その人間ドラマの描写は「テレビまんが」の範疇をはるかに超えた深みがあった。それこそ『仁義なき戦い』などの深作欣二監督作品と同列に並べることができる作品だったと思ったし、もう一度ちゃんとアニメを見よう、と思い直すきっかけにもなったんです。たとえば、『巨神ゴーグ』や『超時空要塞マクロス』、あとは『風の谷のナウシカ』などを見るようになったんですね。『マクロス』なんかは音楽と恋愛ドラマと宇宙戦争がかけ合わさったような内容で、しかもそれを非常に若い人たちが作っていたというので、すごいな、うらやましいなと思っていました。『ガンダム』に話を戻すと、もうひとつのポイントは、さっき言った人間ドラマを支えるためのSF描写がとてもリアルに考えられていたということですね。

突然スタッフを集めて始まった富野監督の演説

――当時のSFアニメだと『宇宙戦艦ヤマト』に影響を受けた人も多いと思いますが、そのあと『ヤマト』にも触れたのでしょうか?
長崎 『ヤマト』に影響を受けたのは音楽ですね。宮川泰先生の楽曲は本当に素晴らしいと思いますし、現在まで影響を受けています。もちろん、サントラも買って聞き込みました。でも、SF描写に関していえば、『ガンダム』とはかなり差がありましたよね。『ガンダム』はスペース・コロニーなども含めて、実際の技術的に可能かどうかは別として、劇中でちゃんと実在するように見せてくれるじゃないですか。僕の中での『ガンダム』と『ヤマト』の違いはそこにあって、それこそがハマるかハマらないかの最大の理由にもなっているんだと思います。

――リアリティに惹かれるのは、長崎さんの当時の実写映画志向によるところも大きかったのでしょうか?
長崎 というよりも、SF小説で培った趣味嗜好の部分かもしれません。たとえば、当時の実写映画だと『2001年宇宙の旅』や『スター・ウォーズ』のような大作がありますが、前者は宇宙空間では無音で、映像として無重力を表現するなど究極的なリアリティを目指した前衛的な映画ですよね。後者は同じSF、同じ宇宙を舞台にしつつも冒険活劇映画です。とはいえ、作品が目指すところやジャンルの違いを加味したうえでも、『スター・ウォーズ』でもそこまでリアリティを無視した描写はしていなかったでしょう。ジェダイにしても無敵の存在ではなかったし。そうしたギミックの差というか、自分の中で許容できるラインとできないラインがあって、それが『ガンダム』と『ヤマト』に対する興味の差になっているのだと思います。もっとも、当時はただのいちファンでしたから、あくまでお客さんのポジションで好き放題に言っていただけなんですけど。

――お仕事で『ガンダム』の影響を感じることはありましたか?
長崎 それでいうと、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のとき、僕はEPICソニーにいてサウンドトラックの制作を担当していたので、収録現場で富野(由悠季)監督にもお会いしたんです。ダビング・スタジオでお会いしたときには、休憩時間に小説の原稿を打っておられました。当時のワープロって液晶画面が1行分しかなかったんですが、それを使って『オーラバトラー戦記』(※TVアニメ『聖戦士ダンバイン』を下敷きに書かれたノベライズ作品)の原稿を書かれていたんですね。それから、サントラのジャケットを加藤直之さんに描いていただいて、その原画を持ってサンライズに行ったら、富野さんがそこにいたスタッフを集めて「いいか、ガンダムっていうのはこう描かなきゃいけないんです!」と演説を始めたのがとても印象に残っています。お会いする前からすごい人だと思っていましたけど、やっぱり本当にすごい人でしたよ(笑)。endmark

KATARIBE Profile

長崎行男

長崎行男

音響監督/音楽プロデューサー

ながさきゆきお 1954年生まれ。千葉県出身。大学卒業後、ホリプロダクション、ワーナー・パイオニア、ソニー・ミュージックエンタテインメントなどで音楽プロデュースに携わったあとに独立し、音響監督、音楽プロデューサーとして活動。音響監督としての主な作品に『プリティーリズム・オーロラドリーム』をはじめとする『プリティー』シリーズや『ラブライブ!』シリーズ、『連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズ』『BLEACH 千年血戦篇』など。

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