終盤のゆいは、菱川さんのお芝居でキャラクターが膨らんだ
――キャラクターについても聞きたいのですが、『デリシャスパーティ♥プリキュア(以下、デパプリ)』は何といっても和実ゆいのキャラクターが立っているところが魅力ですね。
深澤 デザインしてくださった油布京子さんのラフを見たとき、すごく表情がいいなと思ったんです。「ごはんは笑顔」というキーワードにもぴったり合っていて、とにかく笑顔が素敵だったんですね。あと『デパプリ』では、ゆいがみんなを引っ張っていく、そういう強い主人公にしたいと考えていたんです。とくにシリーズの前半は、ゆいがみんなを巻きこんでいく展開がいいな、と。
――ゆいの笑顔に惹かれて、仲間たちがどんどん増えていくという。
深澤 あと企画の早いタイミングで、ゆいが笑顔を失ってしまうという展開を考えていたんです。ただ、それはあまりにもドラマチックなので、終盤まで取っておきました。第38話(「おばあちゃんに会える!? おむすびと未来へのバトン」)で、ゆいがおばあちゃんと会ったところから怒涛の勢いでゆいの物語が動いていくんですが、実はそこでのゆいの心の揺れが、僕が想定していたものよりずっと大きかったんです。ゆいというよりは、彼女を演じている菱川花菜さんかな。以降のお芝居がちょっと変わっていった印象があります。おばあちゃんやジンジャーの思いを受け取ったゆいは、それまで以上に「やらなきゃ!」という思いが強くなるんですが、その一方で菱川さんはゆいの中に「このままの自分でいいのか」という迷い・不安を感じとったのかもしれません。想定外でのことでしたが、修正はしませんでした。そういう意味で、菱川さんの気持ちが動くままに、ゆいのキャラクターを膨らませていったところがありますね。
周囲を彩る魅力あるキャラクターたち
――芙羽(ふわ)ここねや華満(はなみち)らんについては、いかがでしょうか?
深澤 ここねはいちばん成長したキャラクターでしょうね。ゆいと出会って大きく変わったというか、彼女との出会いをきっかけに世界が広がる。そこを描ければと思っていました。一方のらんは、なにかひとつのことにこだわりを持って、情熱的に取り組む。らんちゃんを見た子供たちが熱中することって「なんだか楽しそうだな」と思ってもらえるといいな、と。
――ジェントルーとして登場したあと、キュアフィナーレとして加わる菓彩(かさい)あまねの展開は、とてもドラマチックでしたね。
深澤 じつは最初、第18話(「わたし、パフェになりたい!輝け!キュアフィナーレ!」)は、そこまで重い展開にはしないつもりだったんです。でも、それだとやっぱり、あまねがプリキュアになれないんですよ(笑)。結局、向き合って気持ちを吐き出させることにしました。そういう意味では、描写に気をつけつつ、キャラクターの心情をリアルに描いているシリーズになっていますね。
――なるほど。他にもゆいたちの周囲にユニークなキャラクターをたくさん配置したシリーズでしたが、監督が描いていて面白いと感じたキャラクターは誰でしょうか?
深澤 ローズマリーやブラックペッパー、ナルシストルーも面白かったですね。ナルシストルーに関して言えば、あそこまで人気が出るとは思っていなかったんです(笑)。悪の魅力というか、シリーズ構成の平林佐和子さんとも「とことん嫌味なヤツにしたい」という話をしていたんですけど、彼の芝居やセリフを考えるのは楽しかったですね。ナルシストルーを演じた阪口周平さんもノッて演技をしてくださって、初登場回のアフレコにはめちゃくちゃ心を動かされてしまいました(笑)。ビジュアルも、油布さんがかなり美形のキャラに仕上げてくれたので、えらくカッコいいキャラだなあ、と。
――あはは、たしかに。
深澤 ローズマリーは僕から「入れたい」とお願いしました。たぶん、こんな風にプリキュアの戦いにずっと絡むキャラクターはシリーズで初めてだと思いますし、そこで新鮮さを出したいという思いがありました。実際に子どもが成長していく過程においては、大人がしっかり支えてあげる必要があります。子どもが育っていくなかで、環境や親の影響はかなり大きい。そういう意味でも、必要なときにはプリキュアを支えてあげられるキャラクターがほしいな、と。明るくて、パッと華のあるキャラクターがいることで、話も広がりますしね。
最後はみんなが集まって「いただきます!」をやりたい
――1年間『デパプリ』でシリーズディレクターを務めて、『プリキュア』シリーズの魅力はどこにあると思いましたか?
深澤 『プリキュア』シリーズがこれまでずっと描いてきた、あきらめない気持ちや優しさといった部分は、子どもたちはもちろん、一緒に見ている大人たちにとっても魅力なのかなと思います。普遍的な面白さ、楽しさに加えて、作品ごとに時代やトレンドを取り入れて変化する部分がある。そういうところも魅力のひとつでしょうね。『デパプリ』で言えば「ごはん」をモチーフにしたことで、「苦手な食べ物が食べられるようになった」というような反響をたくさんいただいたんですよ。そこは、作品を作っていくときの力になりました。
――なるほど。では、最後にこれから放送される最終回の見どころを教えてください。
深澤 最終回は、ひとまず決着がついたあとの後日談的なエピソードになります。やっぱりみんなが集まって「いただきます!」を最後にやりたいな、と。それは初期から決めていて、そこに向かって作っていましたから(笑)。
――ちょっと『次郎長三国志』を思わせるような感じですね(笑)。
深澤 そうですね。それから、最終話にはローズマリーの視点からプリキュアを描く場面があるんですが、そこを見ながら「今回のプリキュアはローズマリーの物語でもあったのかな」とも感じました。あと、エンディングもスペシャルバージョンになっているので、そこもぜひ楽しみにしていてください。
- 深澤敏則
- ふかさわとしのり 1975年生まれ、埼玉県出身。アニメーション監督、演出家。『探検ドリランド』や『ONE PIECE』のシリーズディレクターを経て、映画『プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』で『プリキュア』シリーズに初参加。その他の主な作品に『聖闘士星矢Ω』『トリコ』(どちらも演出)などがある。
『デリシャスパーティ♥プリキュア』
ABCテレビ・テレビ朝日系列にて毎週日曜08時30分より放送中!
『デリシャスパーティ♥プリキュア 感謝祭』
<会場>
中野サンプラザホール
<開催日程>
2023年2月18日(土)
ファミリー公演/開演14:00 プレミアム公演/開演18:00
2023年2月19日(日)
ファミリー公演/開演13:00 プレミアム公演/開演17:00
<出演声優キャスト>
菱川花菜(キュアプレシャス/和実ゆい役)
清水理沙(キュアスパイシー/芙羽ここね役)
井口裕香(キュアヤムヤム/華満らん役)
茅野愛衣(キュアフィナーレ/菓彩あまね役)
<出演歌手>
Machico(オープニング主題歌 歌手)
吉武千颯(前期エンディング主題歌 歌手)
佐々木李子(後期エンディング主題歌 歌手)
石井あみ(『ひろがるスカイ!プリキュア』主題歌 歌手)
<プレミアム公演出演声優キャスト>
高森奈津美(コメコメ役)
日岡なつみ(パムパム役)
半場友恵(メンメン役)
前野智昭(ローズマリー役)
- ©ABC-A・東映アニメーション