TOPICS 2024.09.18 │ 12:02

第2期決定!
監督に聞いたTVアニメ『小市民シリーズ』の演出術②

高校生の小鳩常悟朗と小佐内ゆきが「互恵関係(ごけいかんけい)」としてコンビを組み、「小市民」を目指そうと奮闘する青春ミステリ。『氷菓』『黒牢城』でおなじみの直木賞作家・米澤穂信の人気シリーズをアニメ化した本作は、岐阜市の美しい美術背景をベースに、印象的な演出や音楽、生々しいお芝居が詰め込まれた野心作だ。神戸守監督へのインタビュー後編では、印象深いシーンやミステリならではの苦労について聞いた。

取材・文/岡本大介

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

第3話の夕日シーンは、新たな可能性を感じた

――ここからは、とくに印象に残っているシーンについて教えてください。
神戸 いちばん思い入れが強いのは、第1話でメインテーマが流れてからの一連のシーンです。音楽の小畑貴裕さんとは「歌ものを入れたいね」と最初から話していたんですけど、上がってきたデモ曲が本当に素晴らしかったので、第1話はこの曲をメインに組み立てることにしたんです。
――事件の解決編で歌ものが流れ出すミステリは珍しいですが、そのおかげで青春感が強調されていますね。
神戸 そうかもしれないですね。僕としては、ここでは小鳩くんと小佐内さんの関係性を出せたらいいなと考えていました。ふたりが互いを利用し合うだけの「互恵」ではなく、もっと深い部分でちゃんとつながっている感じを描きたかったんですよね。
――なるほど。その他ではいかがですか?
神戸 第3話の、真っ赤な夕日の橋の上での会話シーンも印象深いですね。インタビュー前編でお話しした「背景チェンジ」を使ったシーンですが、最初のコンテでは背景はそのままだったんです。ただ、ここは印象的に作りたいシーンだったので、コンテ修正であの橋に差し替えました。

――そうだったんですね。真っ赤な色味の効果もあいまって、小佐内さんの心に秘めた黒い感情がハッキリと表に出てきて、キャラの立った印象的なシーンになっています。
神戸 そうでしたらうれしいです。僕自身、ここは演出的にも想定以上の効果が生まれたと感じています。「背景チェンジ」は、もともとは会話シーンが続く単調さを回避する目的で生まれた演出ですが、別の意図でも使えるのではないかと新たな可能性を感じたシーンになりました。
――他に印象に残っている背景はありますか?
神戸 これも「背景チェンジ」として使ったんですけど、第4話で小鳩くんと小佐内さん、(堂島)健吾の3人が高台の公園のような場所にいるシーンがあって、その美術も良いですね。ここも実際の岐阜市の風景なんですけど、空がスコーンと抜けていて、すごく好きです。
――本作の美術を描くにあたり、美術さんにはどのようなオーダーをしましたか?
神戸 ミステリをメインとして捉えるのであれば、もっと渋めの色味でもよかったんですけど、青春ものでもあるので、クリアで明るめの雰囲気でとお願いしました。じつは僕自身は最初、もっと暗めの色合いを考えていたんですけど、プロデューサーから「それだとドキュメント映像みたいになる」と言われまして(笑)。

ミステリならではの難しさ

――明るい美術や音楽の使い方で青春感が描かれている一方、本格的な推理要素もある作品です。ミステリならではの苦労もあるのでしょうか?
神戸 これはミステリ全般のお約束ですが、いわゆる「出題編」では、視聴者に必要十分なヒントを提示しなければなりません。それでいて、あからさま過ぎてもいけないですから、その塩梅は難しくて、シナリオ会議でアレコレと話し合いながら詰めていきました。その後、さらにコンテ段階で修正を加えてもいますね。アニメは文字ではなくビジュアルで見せていくので、映像的にどれだけ整合性が保たれているかも重要なんです。その最終チェックがコンテマンと僕だけでは心もとなかったんですけど、プロデューサーに積極的に入っていただけて、それがすごく助かっています。

――たしかにトリックの破綻だけは避けなくてはいけないですからね。
神戸 そうなんですよ。たとえば、第5話は「空白の5分間」がキーになっているんですけど、プロデューサーが時計の針の作画と展開を丁寧に照らし合わせてくれて「このままだと空白の5分間にならないです」と指摘してくれました。コンテでは問題なかったけど、映像になったときに矛盾が生まれることもあって、そんなところもいろいろと探してくれました。

健吾になんとなく岐阜っぽさを感じてしまう

――細かい部分も気が抜けないんですね。
神戸 そうです。それで言えば、第2話の絵コンテと演出を担当した武内宣之さんもすごかったですね。彼は健吾が作ったココアを実際に作ってみて、それらをすべて撮影して作画にも反映させているんです。武内さんは優秀なアニメーターでもありますから、作画監督として一連のシーンをすごく丁寧に整えてくださっていますし、その執念には恐れ入りました。
――健吾のキャラクター性もすごく光っていますよね。現代にはいないバンカラと言うか。
神戸 そうですよね。健吾にはなんとなく岐阜っぽさを感じてしまうんですよ。もちろん、岐阜県民が全員彼のようだとは言いませんが、そこはかとなく岐阜の風土を受け継いでいる感じがして、そんな感じもキャラクター描写に無意識に落とし込まれているかもしれません。岐阜の皆さん、僕の勘違いだったらごめんなさい(笑)。

岐阜の魅力は古さと新しさが混在しているところ

――監督は岐阜を4回ほどロケハンして、とても気に入った様子ですよね。
神戸 すごく面白い町なんですよ。古くからある商店街もあれば、そのすぐ隣に現代的なお店があったりして、古さと新しさが混在している感じが魅力だなと思います。歴史的にも織田信長とゆかりがあって、そこかしこに旧跡がありますし、食べ物も総じて美味しかったです。オススメの観光地ですよ。
――聖地巡礼も楽しみです。ちなみにおすすめのグルメ情報はありますか?
神戸 まず駅ビルで食べた飛騨牛のひつまぶしが美味しかったです。あと、場所は忘れましたが、ふらりと入った喫茶店で食べたハンバーガーが、これまた絶品でした。どちらも本編には登場しませんが(笑)。

――最終話(第10話)の放送が終わり、第2期が発表になりました。最後に第2期の見どころを聞かせてください。
神戸 第2期はミステリ色が濃くなっていくので、そこは注目だと思います。あとは第10話でコンビを解消してしまった小鳩くんと小佐内さんが、これからどうなっていくのかも見どころになると思いますので、楽しみにしてください。
――監督は、ふたりにはまた一緒にいてもらいたいですか?
神戸 もちろんです。すでにかなり愛着がわいているので、このまま永遠に一緒にいてほしいくらいです(笑)。endmark

神戸 守
かんべまもる 大阪府出身。アニメーション演出家、アニメーション監督。『風の谷のナウシカ』の制作進行としてアニメ業界に入り、その後、演出家へ転向。主な監督作に『エルフェンリート』『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』『君と僕。』『すべてがFになる』『約束のネバーランド』などがある。
商品情報

Blu-ray
「小市民シリーズ」 Vol.1
2024年10月30日(水)発売

9,900円(税込)
GNXA-2541

収録話
1~3話

初回限定生産特典
1)キャラクターデザイン斎藤敦史・描き下ろしデジジャケット+クリアスリーブ
2)特製ブックレット(神戸守絵コンテ集(一部抜粋))
3)映像特典:AnimeJapan 2024イベント映像(梅田修一朗/羊宮妃那/古川 慎/MC:天津飯大郎)
4)キャストスタッフオーディオコメンタリー
※発売日、仕様、特典、キャンペーン内容は都合により予告なく変更する場合がございます。

  • ©米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会