TOPICS 2026.05.05 │ 17:00

『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』スタッフリレーインタビュー④
ちな(OPムービー絵コンテ・演出)インタビュー

エピソードごとに演出やアニメーターの個性が発揮されている『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花(以下、上伊那ぼたん)』だが、本編のみならず、OPムービーでもその方針は貫かれている。放送版とは別に、4:3の画面比率の「完全版」が存在する異色のOPムービーについて、絵コンテ・演出を担当したちなにたっぷりと語ってもらった。

取材・文/太田祥暉(oriminart)

OPムービーでも個性の発露を求められていると思った

――『上伊那ぼたん』のOPムービーは、放送で流れるものとは違う、4:3の画面比率の「完全版」が公開されていますが、そもそも、ちなさんがこの画角に惹かれたきっかけは何でしたか?
ちな 以前、初めてMVの演出(「それを愛と呼ぶだけ」)を引き受けたときに、せっかくTVアニメ以外のフォーマットで作るのだから、TVアニメでできないことをやりたいな、と考えたのがきっかけでした。そのときはまずシネマスコープ(2.35:1)で絵コンテを切ったのですが、原画で参加していた土上いつきに意見をもらいにいったところ、「ちなは空間を見せるシネスコよりキャラクターを見せる4:3のほうが向いてるんちゃう?」というアドバイスをもらって。そのアイデアを受けて4:3の画角でアニメを作っていく中で、このフレームが自分の表現したい感覚にはまっていると感じました。それ以来、監督作品の『でたらめな世界のメロドラマ』『ファーストライン』では4:3のフレームを選んで、自分なりの表現を試行錯誤していました。

――なるほど。研究をしていたところに、本作『上伊那ぼたん』のお話が来たわけですね。
ちな ただ、今回は初めから4:3にしようとはまったく考えていなくて。制作進行の樋山(翔太)さんや藤田(規聖)さん、作画監督の渡部(さくら)さんとコンテ作業の前にチームでのブレストをしていたときも、16:9でまとめることを前提に話し合っていました。けれども、16:9で描き始めたらイマイチしっくりこなくて……。そこであらためて作品へ向き合う姿勢を問い直したときに、そもそも『ヤマノススメ』時代から付き合いのある村上(光)さんから誘われて参加して、しかも松尾さんの一人原画回があって、吉成さんのEDがあって……。そういう現場に呼ばれたということは、自分も何か自分らしいものを発露したほうがいいのかなと思い直して、「だったらテレビでやれないことをやろう」と。「なんかあったら佐久間監督や塀先生にブレーキを踏んでもらえばいいや」と思い、キャンバスのアスペクト比を4:3に変えて、絵コンテを書き始めました。

――それがそのまま通ったわけですね。OPムービーはストーリー仕立てになっていますが、構成はどのように考えていったのでしょうか?
ちな まず、原作を読んでいて主人公の上伊那ぼたんはつかみどころのない存在だと感じていたんです。彼女は何者なんだろう?という部分をドキュメンタリーチックに見せつつ、寮生たちの人間関係を描けたら面白いのではないか、というのが最初のアイデアでした。そのサスペンス要素はあまり残ってはいませんが……。映像の仕掛けとしては、寮生たちが代わる代わる8mmカメラでお互いを撮影していく構成になっていますが、これはカメラを持っている人間と被写体の関係性を想起させることで、「キャラクター間の矢印の向き」という作品のキーワードを浮かび上がらせたいなと思いました。また、キャラクターの実在感を出すために、今回のOPは劇中のカメラと同じ18コマ/秒という特殊なフォーマットで作ることにしました。機材の関係もあって撮影さんや編集さんには大変ご迷惑をおかけしましたが、8mm風の画作りだけではなく、タイムラインも実際のぼたんたちが見ているフィルムと同じ時間軸にすることで、実在感をより醸し出せると考えたんです。

――シネカリグラフ(フィルムを引っ掻いて、文字や線、絵を見せる技法)的なカットも多用されていますが、これは?
ちな ぼたんたちが遊びでやりそうなことを考えたときにシネカリ技法に辿り着きました。おしゃれなMVとかでたまに使われている技法ではあるので、そういうものを見ているかもな、と。ちなみにキャラクターごとに筆跡が決まっているので、筆跡資料を参考にしながら各カットを制作しています。

唯一のオーダーは「監督の名前は大きくしないで」

――では、冒頭から順を追って見ていきたいのですが、イントロから歌い出しにかけてぼたんが振り向いて椅子から立ち上がり、Aメロ部分で寮生たちのオフショットが描かれます。
ちな このOPムービーは「寮生たちが互いにカメラを向け合っている」というコンセプトになっています。それぞれがカメラを向けられたとき、どういう表情をするのか。もしくは、どういう距離感でカメラを向けるのか、を思いながら各カットを作っていました。光の雰囲気で、撮影者が被写体に対して感じている感情をそれとなく表現する、ということも意識しました。また、撮影者が被写体の愛おしいと思える瞬間をどこに感じているかを考えてショットを選びました。虚ろな目でPCを見つめているかなでの姿も、撮影者からは愛おしく見えている……といったイメージです。

――Bメロからは風船が登場して、寮の外観があらわれます。
ちな ぼたんたちがいぶきに対してサプライズを仕掛ける物語を考えていたので、その展開ですね。サビで風船を飛ばしたいと考えていたので、そこからの逆算です。また、このOPの舞台を寮にしたのは『上伊那ぼたん』のメインキャラクターは寮生6人だけではなく、寮という建物も含まれるだろう、という考えからです。寮がなければ出会わなかった人たちですし、建物自体もキャラクターとして美しく描きたいなと。

――そしてサビに入る直前、「ねえ」とシネカリで歌詞が表示されます。
ちな 「ねえ」とその後のいぶきの振り向きは、コンテを切り始めた初期の頃からこれをやりたい!と軸にしていたカットです。冒頭にぼたんが振り向くカットがありますが、それと対比するカット構成になっています。1カット目は遠くから撮った自動ズームのブレ感、サビは撮影者がトラックバックしていくブレ感という、手持ちカメラの持ち味を活かすために、どちらも尺を長くとっています。このサビのカットは、3Dさんのカメラワークをもとに、諸冨(直也)さんがいぶきの原画を、Production I.Gの方々が動画を担当してくださったのですが、作監の渡部さん含めて根気強くリテイクまでお付き合いいただけて、とてもいいカットに仕上がったと思います。

――サビでは庭を駆け回ったり、寝転がったりと、かわいいぼたんのカットが続きますね。
ちな 最初に考えていたテーマ――ぼたんとは何者なのか?に通じますが、笑顔ひとつとってもいろいろなぼたんの姿を描きたかったんです。庭のカットは本田(舞波)さん、ピースするカットは(河本)有聖さんに原画を担当していただいています。とくに有聖さんのカットは、「ソワネ」の名前が出る第二の決めカットだと思っていたので、かわいく仕上がってよかったです。

――その後、各キャラクターの名前が表示されるカットが続きますが、コンテでは名前ではなく、楽曲の歌詞になっているんですね。
ちな コンテを描いていた頃はキャラクターと歌詞を重ねてみせてみよう、とメタな演出を考えていました。ただ、制作を進めて自分自身もぼたんたちの世界に没入していくうちに、この表現はちょっとレイヤーがずれているなと感じて、あらためて現在のかたちになりました。シネカリのカットは最後まで試行錯誤しながらだったので、最終的に自分で直接TP(トレスペイント)素材を入れさせてもらうことで、粘らせてもらいました。

――終盤になって、宮原拓也さんが原画を担当したガラス越しに5人の姿を映したカットをはじめ、それまで描かれなかった多人数でのカットを挿入したのはどういった理由からですか?
ちな フレーム内が多人数になると、ちょっとアニメっぽいショットに寄りすぎるな……と思い、序盤は避けていました。なので、基本はキャラクターひとりにフォーカスした画作りをしているのですが、寮の中の一場面としてたわいもない風景にカメラを向ける、ということもあると思うので、そのニュアンスとして構成しました。

――そこから、ぼたんといぶきの関係性をフィーチャーしたカットになっていきます。
ちな 「君」「明日」という歌詞にぼたんといぶき、それぞれを重ねています。ここもコンテ時点では「君」「明日」と歌詞が表示される予定だったのですが……。そもそも、この映像は8mmカメラで撮影して、寮生が編集している映像だ、という世界観が自分の中にあったので、そうなると文字として歌詞を見せてしまうのは何か違うなと。

――ラストは、ぼたんが「ばーん!」と銃を撃つジェスチャーをしたあと、カメラの前から捌けていきますね。
ちな 佐久間監督の名前を撃つカットは、コンテ打ち合わせのときに佐久間さんからいただいた唯一のオーダーで「監督の名前は大きくしないで」と言われていたんですよ。なので、それは遵守しつつ(笑)、だったら撃つか、と思って撃ちました。音楽のリズムに合わせたタイトル出しの遊びは毎回こだわりどころだと思っているので、今回も面白いアイデアが降ってきてくれて良かったです。

放送版との違いも楽しんでほしい

――ちなみに、コンテでは「完全版」の締めくくりに登場するピースサインが描かれていませんが……。
ちな 当初、コンテ時点ではぼたんが撃つジェスチャーで終わる予定だったのですが、つないだときにちょっと物足りないなと思って、このカメラを構えている子なら何をするかな……と想像を膨らませて、今のかたちになりました。

――こうして振り返ると、やはりかなでがタバコを吸うカットが多いですね(笑)。
ちな タバコの芝居って映画ではたくさん見てきたのに、業界に入ってからはあまり描くチャンスがないので、あれもこれもと盛ってしまいましたね(笑)。タバコの煙の吐き方ひとつでもいろいろなアイデアを試せて楽しかったです。「煙を吸って吐くと肺で濾過されて煙が薄くなるんだよ」と、隣の席の喫煙アニメーターが教えてくれて、それを反映しました。

――制作を終えての手応えはいかがですか?
ちな これまでも自分の監督作、演出仕事では「キャラクターの実在感」がつねに個人的なテーマとしてあったので、どこかで集大成的なものを作りたいと思っていました。今回、『上伊那ぼたん』という作品の持つ空気と自分の思想を上手に昇華することができて、皆さんに楽しんでもらえる映像になって満足しています。あと、渡部さんにがっつりと作画監督作業をお願いできたのがよかったですね。渡部さんには自分が演出を担当した『薬屋のひとりごと』などで原画として参加してもらっていて、いつか一緒に一本作りたいなと思っていました。岸田隆宏的な線選びと小林恵祐的な動かし方のハイブリッドなセンスが好きです。実際にはセンスの部分だけでなく、渡部さんはリミットギリギリまで動画一枚入れるか抜くか、影線一本足すか消すか、のレベルで丁寧に作画を見てくださっています。渡部さんの熱量なしにはこのクオリティになりませんでした。他にも作品中核の動検さんや色彩さん、美術さん、3Dさん、撮影さんなど力のある方々に恵まれて、自分のイメージを120%の上がりで応えてもらえました。ここまで原画をはじめとした素晴らしいスタッフの方々に触れましたが、ほとんど藤田さんや制作進行の樋山さんが呼んできてくださった方で、ソワネのスタッフ人脈ってすごいなあとただただ感心していました。演出家として存分にわがままを言える幸せな現場でした。

――放送版とも見比べてほしいですね。
ちな そうですね。本放送は16:9になっていますが、音楽に対してテロップを出すタイミングなどかなりこだわっていますし……。もともとOPを制作するときの矜持として、メインスタッフや会社の名前を視聴者の方に覚えてもらえるものを作りたい、という意識が以前からありました。なので、今回はテロップも見てもらえるよう、いろいろ遊ばせてもらっています。細かいところでは、じつはソワネのロゴが『上伊那ぼたん』仕様になっていたり、そういったテロップ演出が見られるのも放送版だけです。「放送版」は『上伊那ぼたん』のOPとして、「完全版」は上伊那さんたちのホームムービーとして、それぞれ楽しんでいただけたらうれしいですね。endmark

ちな
1996年生まれ。大阪府出身。TOHO animation STUDIO所属。高校時代からアニメーターとしてのキャリアを開始。2016年放送の『ろんぐらいだぁす!』から演出業にも進出し、2020年公開のまふまふ「それを愛と呼ぶだけ」MVでは初監督を務めた。主な参加作品に『でたらめな世界のメロドラマ』『ファーストライン』(監督)、『ヤマノススメ Next Summit』『ぷにるはかわいいスライム』(絵コンテ・演出)など。
作品情報


『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』
毎週金曜24:00~ TOKYO MX他にて好評放送中!

  • ©塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会