上田さんの感情にまかせたギギのニュアンス
――ハサウェイをとりまくドラマとしては、ケリア・デースとすれ違っていく過程が描写されています。
村瀬 ケリアとのくだりをスルッと描いてしまうと、何のために出てきたのかわからない人になってしまいますからね。小説のト書きを読むと、彼女が登場したときにはハサウェイとの関係は終わっているんです。
――たしかにそう読めます。
村瀬 終わっている状態でケリアが出てきて、その完全な決別の瞬間だけが描かれている。第1章だと、ハサウェイが心を許している雰囲気のキャラクターとして登場するのに「じつは終わっていました」とすぐにひっくり返すのもどうなのかと悩みました。シナリオ段階では、ふたりの過去を描く回想シーンを作っていましたが、そうするとただでさえ重たい冒頭がさらに重たくなる。しかも、そこは物語としては本筋ではなく前段ですから。そこでハサウェイがケリアへの未練を抱きながら駆け出すシーンに回想を組み込みました。ここの描き方は、最後の最後まで結論が出せず悩んだところでしたね。
――ギギに関しては、メイス・フラゥワーとのかけ合いも迫力がありました。
村瀬 ふたりのかけ合いは、セリフも含めて小説通りに収録しています。ダビングの第一段階ではギギが何を言っているのか、はっきりと聞き取れるパターンを採用していたのですが、最終的にはリップ音を立たせて、ささやくような聞こえ方の音声を使いました。
――第1章からさまざまな側面を見せるギギですが、彼女の表現に迷うところはありましたか?
村瀬 ギギの表現という意味では、上田麗奈さんの芝居がフィットしていて、第1章の段階でかなりクリアになりました。第2章でも、こちらがニュアンスで迷うところがあったら、上田さんにセリフを言ってもらってから考えるようにしましたね。
――ハサウェイの名前を数度呼ぶシーンは、彼女の心を象徴するようでした。
村瀬 あのシーンの収録は「ボールド(※)を無視してもらってもいいので、上田さんの感情でやってください」とお願いしました。なので、こちらの演出や意図よりも、上田さんが自発的に発した声が活かされています。
- ※アフレコ用の映像に入るガイド。発声のタイミングに合わせてキャラクター名などが表示される
――レーン・エイムの「マフティーが観光地にいるわけないだろうっ!」というセリフは、実際の地名ではなく「観光地」となったことでより印象に残りました。
村瀬 「観光地」はご覧になればわかる通り、ウルル付近のことで、小説では「エアーズ・ロック」と書かれています。むとうやすゆきさんのシナリオでは小説通りの台詞だったと思いますが、コンテに落とし込む段階で変更しました。尺の問題を考えたとき、意味を汲み取るのに時間のかからない表現にしたかったんです。観光地という言葉にすれば「マフティーがそんなところに!?」という意外性を強調できるのではと思いました。
第3章は、ケネスの話になる
――第1章に比べると、アフレコはスムーズだったのでしょうか?
村瀬 そうですね。とくにハサウェイを演じた小野賢章さんは、第1章では仮面を被ったハサウェイを演じることになったので、すごく悩んでいました。一度収録したあと、録り直しを申し出てくれたくらいで。それを考えると、第2章はスムーズでしたし、本人としても感覚をつかんだというか、本当のハサウェイにやっと会えた、という印象があったのかなと。
――他にキャストのお芝居で印象的なものはありましたか?
村瀬 基本的にどのキャラクターも本音をしゃべらないのが本作の特徴で、小説で本音はト書きに書いてあるんですよね。そのままだと映像にしたときに意図がわからなくなる部分があるので、一部のト書きを台詞に変えている箇所もあります。そのあたりの見せ方のバランスは難しかったのですが、キャストでいうと、ハーラ・モーリー役の山崎真花さんの声は印象に残りましたね。ああいう最期を迎えてしまう子なので、少ない出番の中で印象を付けるために、ひと言、ふた言でも「あっ」となるような特徴のあるキャスティングをお願いしたんです。アフレコ段階だとそこまでの確信は持てなかったのですが、映像になったときに「うまくいったな」と思えました。他のヴァリアントのメンバーも、意識して最期を見せない方針だったので、どのように印象付けるかは考えました。艦長のブリンクス・ウェッジについてもデザインや設定からいろいろ仕込みましたが、とくにハーラはルックスと声とのバランスも含めてとくに印象付けがうまくいったかなと思います。
――ト書きをセリフに、という部分を含め、ナレーションベースで心境を説明しない『閃光のハサウェイ』は、まさに映画に最適化された作品のように思います。
村瀬 テレビはどうしても「ながら」で見るメディアになっていますからね。以前はテレビシリーズでも「画で見せよう」と意気込んでいたのですが、たいていの場合はスルーされてしまうと痛感しました。音で説明しない限り、なかなか視聴者には伝わらないんだなと。
――リッチな映像であっても、スマートフォンやテレビで見る場合は完全に集中することは難しいですからね。
村瀬 なので、こうしたことができるのは映画だけかなと思います。一方で映画でも言葉や音で説明する作品が増えているので、画で表現しようとしても気付かれない可能性は充分にあります。『閃光のハサウェイ』のような見せ方は、より難しくなっていくのかもしれません。
――なるほど。そうしたメディアの変化やお客さんの受容も踏まえて、第3章の作業を進めていくことになりそうですね。
村瀬 第3章は……端的にいえば、ケネスの話になるでしょうね。全3章の完結編でもありますし、一年戦争から続く(アムロとシャアの因縁に連なる)宇宙世紀作品に対してひとつの結末を示した『閃光のハサウェイ』を、どのように閉じられるか、ですね。![]()
- 村瀬修功
- むらせしゅうこう アニメーション監督、演出家。監督作に『虐殺器官』『Ergo Proxy』『GANGSTA.』など。映画『ブレードランナー2049』に連なる『ブレードランナー ブラックアウト2022』のキャラクターデザイン、作画監督、原画なども手がける。
























