朝から晩まで映画館に居座って、繰り返し見ていました
――『ガンダム』のあと、アニメを追いかけるようになったんでしょうか?
吉成 そうですね。『ガンダム』以降はアニメばかり見ていた気がします。兄貴が『アニメージュ』を買っていたので、今、どういうアニメがやっているかは一応、全部把握して。そのときは「テレビで放送しているアニメは全部見よう」みたいな感じで、なんでもかんでも見ていましたね。……あっ、ただ途中で空白期間があるんですよ。というのも、あまりにもアニメばかり見ているので、親がテレビを撤去しちゃったんです。
――あはは!
吉成 なので、アニメを見ようと思ったら、友達の家に行くしかない、みたいな期間がたぶん1年半くらいあって。ちょうど『超時空要塞マクロス』をやっていた頃(82年)だったんですけど、その時期ってアニメファン的にはいちばん美味しい時期なんですよね。そこで若干、アニメブームに乗り遅れた感じがありました。
――影響を受けたアニメの2本目に挙げていただいたのが『風の谷のナウシカ(以下、ナウシカ)』。これは、その時期の少しあとになりますね。
吉成 ここで『ルパン三世 カリオストロの城』って言えないのが悲しいところなんですけど(笑)。(監督の)宮崎駿といえば、『未来少年コナン』が放送されているのは知っていたんですけど、当時はまったく見ていなくて。それこそ、大塚康生とか小田部羊一、あとは高畑勲とか――東映アニメーションの流れを汲む人たちがいますけど、そのなかのひとりという認識だったんです。ただ、『アニメージュ』でマンガ版の『ナウシカ』が連載されていて、それを読んでいるうちに「この人はすごいんだ」とわかってきて。『ナウシカ』はめっちゃくちゃ面白かったですね。
――ということは、これがいよいよアニメ化されて劇場で公開される、と。
吉成 「これはちゃんと見よう」と思って、期待して劇場に出かけました。当時の映画館は今のような入れ替え制じゃなかったので、朝から晩までずっと居座って。
――めちゃくちゃハマった。
吉成 ハマったというか、ファンの義務みたいな感じですね(笑)。原作は壮大な話なので、今回のアニメはその一部を切り取って映像化したんだな、とか。話としては中途半端な感じがあって、「これは不本意ながら作ったんだろうな」とか「たぶん、これが全力じゃないだろう」と思いながら見ていました。
ある意味、厭世的というか
今の文明を批判するような視点が
あるところが面白かった
――『ナウシカ』のどこが、そんなに面白かったんでしょうか?
吉成 やっぱり社会性があるというか、人類が環境を破壊して、そのあとに新しい環境が作られて……みたいなところ。ある意味、厭世的というか、今の文明を批判するような視点があるところが面白かったんです。僕らが子供の頃というと、オイルショックがあったりして、「地球はあと50年くらいしかもたない」みたいなことが言われていたんです。加えて『ノストラダムスの大予言』のブームがあったりして、「世界はこのまま滅びていくんだろうな」みたいなことを、なんとなく思っているわけです(笑)。
――今でいうポストアポカリプス的な要素が『ナウシカ』にもありますね。
吉成 そうですね。その後の世界って『ナウシカ』みたいになるのかな、って。『未来少年コナン』とか『AKIRA』もそうですけど、そういう終末感みたいなものがあるとハマれる、みたいな感じはありました。明るく輝く未来じゃないもののほうが、ハマりやすかった気がしますね。
――とくに中学生くらいだと、そういう作品にビビッドに反応しますよね。『ガンダム』は今でも見直すという話がありましたけど、『ナウシカ』をあらためて見たりは……。
吉成 しないですね(笑)。見る必要がないというか。『ガンダム』は見ると今でも発見があるんです。でも、『ナウシカ』はちょうど小学校から中学校に上がるタイミングで見て――そうすると、だいたい内容がわかるんですよ。つまり、当時受けた印象と、今、あらためて見たときの印象が、それほど変わらない。当時、何回も何回も繰り返し見たこともあって、今さら発見がないというか(笑)。
――それくらいのめり込んだということでもありますよね。
吉成 ただ、原作は読み返したいなと思っているんです。内容的になかなか重い作品なので、気軽に読み返すっていう気分にはならないんですけど。
KATARIBE Profile
吉成曜
監督/アニメーター
よしなりよう 1971年生まれ。東京都出身。専門学校卒業後、ガイナックスに入社。『新世紀エヴァンゲリオン』をはじめ、数多くの作品で活躍。その後、TRIGGERの設立に参加し、『リトルウィッチアカデミア』で初監督。最新作は『BNA ビー・エヌ・エー』。