Febri TALK 2022.10.05 │ 12:00

平松禎史 アニメーター、演出家

②ヒロイン・ラナに夢中になった
『未来少年コナン』

インタビュー連載の第2回で取り上げるのは、宮崎駿監督のあの名作。「偶然だった」というその出会いから当時夢中になったキャラクター、そして宮崎駿が生み出す「動き」の面白さまで。アニメーターを目指すきっかけになったという作品の魅力を、とことん語る。

取材・文/宮 昌太朗

第1話の絵コンテを見て、「アニメーターになりたい」と思った

――2本目は、宮崎駿監督の名作TVシリーズ『未来少年コナン(以下、コナン)』です。これはリアルタイムでしょうか?
平松 そうです。当時、中学生だったんですが、見始めたのは本当に偶然でした。同じ時間帯で放送していた『ぴったしカン・カン』が、野球中継の延長か何かで放送していなかったんですよ。それで他に何かないかなと思って新聞のテレビ欄を見たら「新番組『未来少年コナン』」という文字が目に入ったんです。

――本当にたまたまだったわけですね。
平松 そんな感じで見始めたんですけど、第1話からどハマりしました。人間の動きがすごいというのもあったし、あとは悪いヤツらに美少女がさらわれそうになるのをコナンが助けるという、シンプルなんだけど引きの強いストーリー。コナンたちの生活も丁寧に描かれていて、すごく斬新な感覚があったんです。絵はちょっと懐かしい感じなんですけど、キャラクターデザインを担当されていたのが大塚康生さんで。その頃はスタッフを気にして見ていたわけではないんですけど、でも好きなラインの絵だったというのも、惹きつけられたポイントのひとつでした。

――第1話の構成は素晴らしいですよね。
平松 かなり昔の作品なので、当時受けたインパクトと、あとでいろいろ考えたことが混じってしまっているんですけど……。でも、今の感覚で考えても、物語の組み立て方が巧みだなと思います。第1話の冒頭で以前、戦争があったことが簡単に触れられるんですけど、その後、どうなったかははっきりと描かれない。コナンが海の中に潜っていくと沈んでいるビルが見えてきて「ああ、戦争で世界がこんな風になってしまったんだな」と、さりげなく見せていくわけです。そしてコナンは小さな島でおじいとふたりきりで暮らしているという設定ですけど、周囲でいろいろな出来事が起きているんだろうな、と想像できる。導入としてすごくいい第1話で、そこからはほぼ毎週欠かさず――当時は録画できる機械がなかったので、リアルタイムで見ていたと思います。

――当時好きだったキャラクターや、印象に残っているエピソードは?
平松 当時はラナに夢中でした(笑)。絵を描いたりはしなかったですけど、それでもラナが助かってほしくて「コナン、頑張れ!」と思いながら見ていました。いちばんインパクトを受けたシーンは、インダストリアの兵士たちが気を失ったラナに近寄ってきたときに、コナンが「ラナに触れるな!」と銛を投げるシーン。今でも有名なシーンですけど、めちゃくちゃ盛り上がりました。

――あそこはやっぱりグッと来ますね。
平松 その後の宮崎監督の作品を見ていくと、『コナン』は勧善懲悪がはっきりしているんですよね。悪いヤツらが少女を狙っていて、そんなこととはまったく縁のなかった少年が彼女を助けようとする。そういう昔ながらのパターンを踏まえたうえで、戦争の怖さだったり、現代的なモチーフを取り入れている。アニメでこんなにシリアスなテーマが表現できるんだ、と。そこに当時、ビックリしました。

昔ながらのパターンを

踏まえたうえで

戦争の怖さだったり

現代的なモチーフを

取り入れている

――その後も、宮崎監督の作品は追いかけて見たのでしょうか?
平松 テレビで『ルパン三世 ルパンVS複製人間』を見ていたときに劇場版(『ルパン三世 カリオストロの城』)の宣伝が一緒に流れて、それで「これは絶対に見よう!」と思ったのはおぼえています。でも、スタッフを意識するようになったのは、もっとあとですね。『アニメージュ』を買い始めるようになるんですけど、あるとき、『コナン』の第1話の絵コンテが付録でついていたんです。

――絵コンテの付録がついていたのは放送が終わって、しばらく経ってからですよね。
平松 そうですね。文庫本くらいのサイズだったんですけど、そこで初めて絵コンテというものを見るんです。それまで部分的にコンテが掲載されていたことはあったかもしれないですけど、1話分まるまる収録されていたのは、これが初めてだったと思います。その絵コンテを見て、はっきりと「アニメーターになりたい」と思いました。

――そういう意味では直接、アニメ業界を目指すきっかけになっている。自身のお仕事に影響を与えていると思いますか?
平松 ありますね。アニメーターとしても、自分のベースには『コナン』の影響があると思います。大塚康生さんと宮崎さんはもともとアニメーターとして活躍されていて、しかもおふたりともめちゃくちゃうまいですよね。大塚さんは動きがちょっとディズニーっぽくて、ダイナミックなんだけど、キレイな動きなんです。一方、宮崎さんの動きには少し引っかかりがある。のちのち『長靴をはいた猫』で宮崎さんがどこを担当されたのか知ることになるんですけど、「ああ、自分が好きだったのは、宮崎さんの動きだったんだな」と。

――答え合わせができた。宮崎さんの動きには「引っかかりがある」というのは、具体的にはどういうことなんでしょうか?
平松 リミテッド・アニメーション特有の、メリハリがついた感じというんでしょうか。言葉で説明するのはなかなか難しいんですが、全身が一緒に動くのではなくて、頭が先に動き始める感じ。そういう、見ていて面白い動きが、大塚さんや宮崎さんの作品にはすごく多くて、今でもその影響が自分の中に残っていると思います。自分が作画しているときも、気持ちのいい動きを作ろうとすると、思い出すのは『カリオストロの城』だったり『コナン』だったりするんですよね。

――ある意味、その感覚が平松さんの土台になっているわけですね。
平松 あとアニメーターとしてだけではなく、演出方面でも影響を受けていると思います。ボリューム感というか、勢いや流れみたいなものを出したくて、当時の宮崎さんが持っていたコンテのリズム感、勢いを思い出しながら、コンテを描くこともありますね。endmark

KATARIBE Profile

平松禎史

平松禎史

アニメーター、演出家

ひらまつただし 1963年生まれ、愛知県出身。サラリーマン生活を経て、1987年に『ミスター味っ子』で原画デビュー。最近の主な参加作品に『寄生獣 セイの格率』『ユーリ!!! on ICE』『さよならの朝に約束の花をかざろう』『呪術廻戦』など。

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