Febri TALK 2021.03.16 │ 12:00

じん 音楽家/小説家/シナリオライター

①「友情」の力に打ちのめされた
『ザ☆ドラえもんズ 怪盗ドラパン謎の挑戦状!』

『カゲロウプロジェクト』を筆頭に、数多くの話題作を世に送り出すミュージシャン/クリエイター・じん。連載インタビューの第1回は、子供の頃に体験し、その後も長く影響を受けているという『ザ☆ドラえもんズ』シリーズの一作について。

取材・文/宮 昌太朗

『カゲロウプロジェクト』の 原点のひとつになった意外な一作

――じんさんが影響を受けたアニメ作品を、幼少期から順を追ってうかがえればと思うのですが、最初は1997年に公開された『ザ☆ドラえもんズ 怪盗ドラパン謎の挑戦状!(以下、怪盗ドラパン)』でしょうか?
じん そうですね。これは、7歳か8歳くらいのときに劇場で見ました。『ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記』と同時上映された短編アニメだったんですけど、めちゃくちゃ衝撃を受けたんです。当時、俺は北海道のなかでも、利尻島っていう離島に住んでいて、映画を見に行くこと自体、なかなかのスペクタクルだったんです(笑)。……というかそもそも、アニメ自体、利尻島ではほとんど放送していなくて。チャンネルの数も少なくて、あとはケーブルテレビでモノクロの時代劇をやっている、みたいな。

――いや、さすがにそんなことはないと思いますけど(笑)。もともと『ドラえもん』は好きで見ていたんですか?
じん 『ドラえもん』はめちゃくちゃ好きでしたね。ただ、この『ザ☆ドラえもんズ』というのは、ドラえもんと色違いの6人の仲間が出てくるスピンオフで。『怪盗ドラパン』の内容をかいつまんで話すと、ドラパンという謎の敵から挑戦状を受け取ったドラえもんズが、まんまとドラパンの罠にかかってピンチに陥ってしまうという話。……で、驚くことに、この映画はドラえもんが全然活躍しないんです(笑)。

――ああ、ドラえもんズの仲間たちのほうがメインの作品なんですね。
じん そうなんです。ドラメッドⅢ世とドラリーニョっていう――仲間のなかでも、さほど人気がなさそうなふたりがメインを張っていて(笑)。当然、こちらとしてはドラえもんが活躍するもんだと思って見に行っているわけですけど、ほとんど何もしない。サブキャラみたいなふたりが大立ち回りするのを見せられて……。でも、見終わったら、ドラメッドⅢ世とドラリーニョのことがめちゃくちゃ好きになっていたんです。

――あはは。まんまと乗せられてしまったわけですね。
じん 「友情テレカ」っていうアイテムがキーアイテムとして登場するんですけど、「友情」というものに対して鼻の奥がツーンとする、そういう感覚があったんです。この映画で敵役にあたるドラパンは、ドラえもんズたちの友情テレカの力を使って、世界中のロボットを支配しようとしていて。ところが、じつは裏で操っている黒幕がいて――ヒロインを人質に取られていて、ドラパンはやむなく悪行を働いているんです。それが映画の途中でわかるんですけど、そのときにドラリーニョⅢ世が「なるほど、そういうことだったのか」と、あえて自分から犠牲になろうとする。捨て身の友情を信じることで、全員がハッピーエンドを迎えるというか。そのストーリーラインが本当に素晴らしかったんですね。……じつを言えば『カゲロウプロジェクト(以下、カゲプロ)』の最初のモチーフは、この映画なんです。

『カゲプロ』は

自分なりの『ドラえもんズ』を

やってみたいと思って作った

――ええっ、そうなんですか!?
じん 「友情」というものを書いてみたいというか、自分なりの『ドラえもんズ』をやってみたいと思って作ったのが『カゲプロ』なんです。『カゲプロ』を始めたのは20歳くらいなんですけど、その頃になると、どうやら友情というものは実在しないらしいぞ、ということに薄々気づき始めて(笑)。あと、音楽はもちろん、当時読んでいた本なんかも、けっこう斜に構えた感じのものが多かったんです。これは自分の好みの話でもあるんですけど「頭がよくないと見ちゃダメ」というか「わかっている人が偉い」みたいな作品が世代的にトレンドだった印象もあって。で、最初は頑張って、そういうフリをしていたんですけど、だんだんと疲れてきちゃって……。

――あはは。息が上がってきた。
じん そうなんです。で、振り返ると「やっぱり『怪盗ドラパン』が好きなんだよな」って思ったんですよね。だから自分がやるのであれば、これを題材にしよう、と。そういう意味では、子供の頃に見たなかでもターニングポイントになっている作品です。最初に劇場で見たあともレンタルビデオで繰り返し見て、そのせいで、いまだに効果音が入る瞬間まで覚えているくらいですから。

――たしかにじんさんは、世代的にもちょうど『ザ☆ドラえもんズ』の世代なんですね。
じん そう、ドンピシャなんです。あと『ザ☆ドラえもんズ』のドラえもんたちはコミカルで可愛い一方、めちゃくちゃ芯の太いキャラクターを見せてくる感じもある。また、ドラえもんたちが個性豊か――というか、みんな凸凹で、中には「これ、ヤバいんじゃないか」ってキャラクターがいたりするんです。たとえば、狼のドラニコフは人間の言葉がしゃべれなかったり……(笑)。

――なるほど! そう考えると『カゲプロ』との共通点が見えてくる気がします。
じん あとはみんな、純粋に死ぬほどいいヤツなんです。みんないい人ばっかりで、敵はただひとり、みたいなところもすごくよくて。『カゲプロ』の作品全体を通して、そういうところも影響を受けていると思いますね。endmark

KATARIBE Profile

じん

じん

音楽家/小説家/シナリオライター

1990年10月20日生まれ。北海道出身。ニコニコ動画で発表した「カゲロウプロジェクト」が大きな話題に。ミュージシャン・小説家としてジャンルの枠を超えて、活動を繰り広げる。そのほかの代表作に『LISTENERS』など。2021年2月をもって活動10周年を迎える。それを記念しオフィシャルサイトをオープンした。

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