Febri TALK 2021.03.16 │ 12:01

じん 音楽家/小説家/シナリオライター

②ハードボイルドな世界観に痺れた
『カウボーイビバップ』

影響を受けたアニメ作品について聞く、連載インタビューの第2回は、いまだ多くのファンから愛され続けている名作『カウボーイビバップ』。ミュージシャン/クリエイターとして活躍するじんが、その魅力を語り尽くす。

取材・文/宮 昌太朗

モノ作りをする上での姿勢、スタンスを学んだ

――地元ではアニメがあまり放送されていなかったという話が出ましたが、その後もアニメは見ていたのでしょうか?
じん テレビを見るんだったら、アニメが一番好きっていう感じでした。ただ、放送していた番組は限られていて、印象に残っている作品というと、妹と一緒に見ていた『カードキャプターさくら』とか。あとは『キン肉マン』の再放送をやっていて、めちゃくちゃ好きでした。やっぱり「友情」に弱くて(笑)。王位争奪戦か何かをやっていて、いや、もう泣きましたね、本当に。それが小学校くらいなんですけど、中学に入る頃にはパタリと見なくなっちゃうんです。

――そこから戻ってくるタイミングが……。
じん 2本目に挙げた『カウボーイビバップ』ですね。というのも、父親が何を思い立ったかスカイパーフェクTV!っていう衛星放送を家に入れて。たぶん、ディスカバリーチャンネルが見たかったんだと思うんですけど、そのときに一緒にアニマックスも契約したんです。で、ちょうどそのタイミングで、たまたま『カウボーイビバップ』の再放送が始まって。2004年か2005年くらいかな。中学生だったんですけど、菅野よう子さんのあのオープニングテーマとともに「何月何日放送開始!」みたいなCMが、めちゃくちゃいっぱいかかっていて。

――それで興味を惹かれたわけですね。
じん しばらくアニメから離れていたこともあって、何も知らない状態で第1話を見たんです。そうしたら、もう内容が全然子供向けじゃない(笑)。目薬のドラッグを目に打って「うわーっ!」となって死ぬ、みたいな。

――あはは。衝撃だった。
じん ハードボイルドな世界観っていうのに、初めて触れたのが『カウボーイビバップ』だったんです。「なんだこれ、カッコいいな」って。それまでアニメというと「子供向けに作られたもの」という印象だったんですけど、初めてドラマを見るような感覚になって。しかも、お話も面白くて、めちゃくちゃハマって見ていたんですけど、そのなかで衝撃を受けたのが「ジャミング・ウィズ・エドワード」の回(第9話)なんですよね。

――佐藤大さんが脚本を書いた回ですね。佐藤さんとはのちに『LISTENERS』でお仕事を一緒にすることになるわけですけど。
じん そうですね。これはテレビドラマじゃできないなって、それくらい衝撃でしたね。で、この第9話でまんまと沼にハマって、結局、最後まで見て。あと、のちに創作を始めるようになって、自分がやっていることが『カウボーイビバップ』とオーバーラップしていることに気づくんですけど、そうすると、けっこう危ないことをやっていたんだなって(笑)。しかも「こういうアニメが世の中にはいっぱいあるんだ」と思ったら、意外となかったっていう。

ポップな曲もあれば、

ハードな曲もあるけど

これが『カゲプロ』なんだ!

と言いきるカッコよさ

――あはは。『カウボーイビバップ』から受けた影響ってありますか? たとえば、音楽面だったりとか……。
じん うーん……。そう言われると、影響は受けていないかもしれない(笑)。ただ、物語的なバラエティ性っていうんですかね。26話あるエピソードが、すべて違う色というか。次に何が出てくるかわからない「ガシャポン」みたいな感じ。

――思いっきりコメディに振っているエピソードもあれば、バリバリのアクションを見せる回もあって、みたいな。
じん かと思えば、俺でも知っているようなジャンルの王道を行く話もある。作り手側はめちゃくちゃ楽しみながら作っていたんだろうな、と思うんです。だから、影響を受けているとすれば、曲のバリエーションですかね。たぶん、俺みたいに1曲1曲、次にどんな曲を書いてくるかわからない、みたいな感じでやっている作曲家ってそんなに多くないと思うんですよ。

――意図的に曲調やジャンルを変えようと思ってやっている?
じん というよりは、自然とですかね。もともと同じジャンルをずっと聞いたりしないタイプで、今日はロックの日、今日はパンクの日、みたいな感じで。『カウボーイビバップ』が、そういう感覚がアリなんだと思わせてくれた、というのはあると思います。テーマも一貫していなくていいし、前のエピソードで肯定していたものを次のエピソードでひっくり返しても、その価値とか意味は成立するんだなって。しかも『カウボーイビバップ』を作った人たちは、それを頭で考えて、勉強して出してきたわけじゃないと思ったんです。ただ、自分の好きなことを、引き出しから出して並べていったらこうなった。

――狙ってやったわけではなくて、結果的にバラエティ感のある仕上がりになった。
じん それで成立しているんだから、すごいなって思います。だから、むしろ言いきることが大事なのかなって(笑)。「これが『カゲプロ』なんだ!」と言えば、そうなんだというか……。『カゲプロ』には、めちゃくちゃポップな曲もあれば、すごくハードな曲もあるんですけど、それでも「『カゲプロ』っぽくない」とは言われないんですよね。だから、胸を張って「これなんだ!」と言いきることのカッコよさ。それを『ビバップ』から学んだところはあるかなって思います。「カッコいいっていうのは、こういうことなんだよ」みたいな。そういうモノを作る上でのスタンスみたいなものを、勝手に受け取った感じはしますね。endmark

KATARIBE Profile

じん

じん

音楽家/小説家/シナリオライター

1990年10月20日生まれ。北海道出身。ニコニコ動画で発表した「カゲロウプロジェクト」が大きな話題に。ミュージシャン・小説家としてジャンルの枠を超えて、活動を繰り広げる。そのほかの代表作に『LISTENERS』など。2021年2月をもって活動10周年を迎える。それを記念しオフィシャルサイトをオープンした。

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