Febri TALK 2021.03.16 │ 12:02

じん 音楽家/小説家/シナリオライター

③先が読めない展開に夢中になった
『東京ゴッドファーザーズ』

クリエイター・じんが影響を受けた作品を語る、インタビュー連載の第3回。すさんだ生活を送っていたという専門学校時代に出会い、『カゲロウプロジェクト』にも多大な影響を与えた、今敏監督の隠れた名作について。

取材・文/宮 昌太朗

これと『ザ☆ドラえもんズ』を掛け合わせると 『カゲロウプロジェクト』になるんです(笑)

――3本目は今敏監督の『東京ゴッドファーザーズ』ですが、見たのはいつ頃なんでしょうか?
じん 専門学校時代ですね。高校を卒業したあと、札幌にある音響系の専門学校に行ったんですけど、学校の先輩からいろいろと悪い遊びを教えてもらって(笑)。すごい機材をめっちゃ買ったりしていたんです。で、当然お金がなくなるので、アルバイトを死ぬほど入れて、まあ、すさんだ生活をしていたんですけど(笑)、そのときに同級生の友達から『ひだまりスケッチ』のDVDを借りたんです。最初は「いや、俺はこういうのはあんまり……」と言っていたんですけど、家に帰って見たら大号泣で。

――あはは。
じん それで『カゲプロ』のメインヒロインを(ゆの役の)阿澄佳奈さんにお願いすることになるんですけど……。ともかく『ひだまりスケッチ』がきっかけになって、アニメをまた見るようになるんです。で、今敏監督の出身が札幌ということで、たぶんビデオ屋で特集されていたんですね。『東京ゴッドファーザーズ』は2003年の映画ですけど、僕がビデオで見たのは2008年とか2009年で。

――どのあたりが面白かったんでしょうか?
じん すさまじく出来がよくて面白くて、しかも尖っていて、今までにない作品だと思ったんです。1時間半くらいの中に、これでもかっていうくらいに群像劇が盛り込まれていて。当時、三谷幸喜さんの作品もありましたし、伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』が実写化されたりして、いわゆる群像劇的なアプローチがいろいろなところでやられていたと思うんです。そのなかでも『東京ゴッドファーザーズ』は、抜群に面白かった。「この物語はいったいどこに向かっているんだろう?」っていうのが、最後まで全然わからないんです。クリスマスの夜に赤ん坊を拾ったホームレス3人が、その子をお母さんのところに届けようとするんですけど、話が進むとそもそもお母さんは存在するのか?みたいな展開になる。しかも、お母さんかと思って赤ん坊を渡した人が、じつは病院からその赤ん坊を盗んだ人だとわかったり……。もう、とにかく話が二転三転するんです。

物語が進むにつれて

キャラクターの過去が見えてくる

過去と現在がパチッと

結びつくのが面白かった

――まったく先が読めないですよね。
じん で、また『カゲプロ』の話になっちゃうんですけど、小説を書こうと思ったときに、まず「群像劇がやりたい」と思ったんですね。それこそ『ザ☆ドラえもんズ』みたいな話を群像劇でやろう、と。当時でいうと、伊坂さんの作品とか森見登美彦さん、あとは米澤穂信さんとか――一人称で進むタイプの小説がすごく好きで。

――なるほど、なるほど。
じん その一方で『東京ゴッドファーザーズ』は物語が進むにつれて、キャラクターの過去がどんどん見えてくる構成になっているんです。群像劇の過去編がメインになって話が進んでいくというか。「この人とこの人が実は親子だったんだ!」みたいな感じで、過去と現在がパチッと結びつくのが面白かったんです。しかも、それをものすごいスピード感で展開して、最後にはちゃんとカタルシスがある。あと、出てくるキャラクターがみんな表情豊かなんですよ。

――そもそも主人公の3人がホームレスっていうところが、ひとひねりしていますよね。
じん そもそも、メインヒロインが屋上から下にいる人に向かってツバを吐くシーンから始まりますからね(笑)。そういう尖ったところも、すごく好きで。『東京ゴッドファーザーズ』って、それこそ普通の一般家庭の親子を主人公にしても書ける内容なんです。でも、主人公をホームレスにしたことによって、めちゃくちゃヴィヴィッドになっている。

――地に足が着いたキャラクターになっているというか、観客の「今」とつながっている感覚がありますね。
じん 同じ今監督の作品で言えば、『パプリカ』も『千年女優』もすごいと思うんです。でも、逆に言えば「すごいな」って思っちゃう。「すごいんでしょ? よくわかんないけど」みたいな(笑)。でも『東京ゴッドファーザーズ』は、バカな俺にもバシッとハマる、まっすぐなエンターテインメントになっていて。やっぱりエンターテインメントでありたいっていうのは、自分のなかに強くあるんですよね。

――こうしてじんさんの話を聞いていると、自分が好きで読んだ本とか映画の記憶が、じんさん自身の表現にストレートに反映しているんだなと思います。
じん 自分でもたいがいストレートだなって思います(笑)。「こういう風に見られたい」とか「思われたい」というよりも、「こういうものがやりたい」「これが面白い」というほうが優先しているというか。それこそ『ザ☆ドラえもんズ』と『東京ゴッドファーザーズ』を掛け合わせると『カゲプロ』になったというか(笑)。そこは自分の根幹な気がしますね。endmark

KATARIBE Profile

じん

じん

音楽家/小説家/シナリオライター

1990年10月20日生まれ。北海道出身。ニコニコ動画で発表した「カゲロウプロジェクト」が大きな話題に。ミュージシャン・小説家としてジャンルの枠を超えて、活動を繰り広げる。そのほかの代表作に『LISTENERS』など。2021年2月をもって活動10周年を迎える。それを記念しオフィシャルサイトをオープンした。

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