先輩・後輩の人間関係の変遷が面白い
――1本目は、出﨑統監督の『エースをねらえ!』。1973年に放送された作品です。
木村 じつは今回挙げた3本は、どれも『アイカツ!』を作るときに参考にした作品なんです。『エースをねらえ!』は高校生のときに再放送で見て好きだったこともあるんですが、『アイカツ!』を制作するときに「スポ根もの」というお題をもらったんですね。その時点でキャラクターの設定はある程度できあがっていたので、「こういう世界観でやるのであれば、『エースをねらえ!』を下敷きにして作ると面白くなりそうだな」と。それで、星宮いちごと神崎美月の関係を、岡ひろみと竜崎麗香に寄せて考えてみたんです。
――言われてみればたしかに!
木村 『エースをねらえ!』はやっぱり人間関係、とくに先輩・後輩の関係の変遷がドラマティックで面白いんです。最初はなんということのないフラットな関係から始まって、途中から緊張感をはらんだ関係へと発展していく。で、最後はそれがひっくり返る……みたいな。古典的ではあるんですけど、めちゃくちゃ面白くて。
――『エースをねらえ!』は再放送で見ていたとのことですが、もともとアニメをたくさん見るほうだったんでしょうか?
木村 僕は新潟の出身なんですが、新潟に住んでいた当時は民放が2局しかなくて、放送している作品が少なかったんですよ(笑)。有名な作品はそこそこ見ていた記憶がありますけど、小学校高学年のときに新幹線が通って、民放がもう2局くらい増えて。そこからはアニメがたくさん見られるようになって、うれしかったのをおぼえていますね。世代的には『機動戦士ガンダム』がドンピシャで、本放送をちらっと見たおぼえはあるんですが、それほど印象には残っていなくて、ちゃんと見たのは劇場版からでした。劇場版の公開に合わせて再放送をたくさんやるようになって、そこでTVシリーズを見た記憶があります。
――当時は地域によって、見られる作品に違いがあるのが当たり前でしたよね。
木村 だから再放送で見たもののほうが記憶に残っているんですよね。高畑勲監督の『赤毛のアン』もそうですし、出﨑監督の作品もそう。『エースをねらえ!』は高校生のときでしたが、『あしたのジョー』も本放送より再放送で見た記憶が残っていますね。
――そうやって再放送されたものを、どんどん見まくって、という。
木村 たぶん当時、テレビ局にアニメマニアみたいな人がいて、名作と呼ばれているような作品をたくさん再放送していたんじゃないかなと思うんですよ。出﨑監督の作品も、そういうなかで再放送されていたんじゃないでしょうか。親戚のお兄ちゃんが見ているのを一緒に眺めていて、「これ、面白いんだ」みたいな話を聞かされた記憶もあります。ただ、意識して見るようになったのは、大学に入ってからですけど。
出﨑監督の濃厚なドラマ作りには今も影響を受けている
――そもそも『エースをねらえ!』の、どんなところが面白いと感じたんでしょうか?
木村 出﨑監督の作品はどれも人間ドラマの面白さなんですよね。なんともいえないヒリヒリした感じを作るのが本当にうまい。しかもドラマがベタっとしていなくて、泥くさいことを爽やかに描く印象があるんです。話のテンポも、一話を通して見るだけで疲れてしまうくらいにギュウギュウに詰まっている感じがある。出﨑監督がやられていたような濃厚なドラマ作りには今も影響を受けていますし、僕自身、「ああいうドラマ作りをやってみたいな」と思わされますね。
――そういう意味では、今でもお手本になっているわけですね。
木村 これは演出の領域ではないかもしれないですけど、出﨑監督はけっこう脚本に手を加えて演出しているんじゃないかなと思うんです。『エースをねらえ!』も原作のマンガがあって――どこまでが出﨑監督の演出なのかは検証していないのでわからないんですが、間の作り方はもちろん、前のほうで振っていたエピソードがあとになって生きてきたりする。単純に目の前の場面を演出しているだけじゃなくて、頭から最後までを見通したうえで演出していたんじゃないかと思わされるんです。これは、なかなかできることじゃないと思うんですよね。
――なるほど。
木村 僕がアニメ業界に入ったばかりの頃は、出﨑監督フォロワーみたいな人がたくさんいて、それこそ「3回PAN」(※出﨑監督が得意とした、シーン内で同じ方向へのパンを3回連続で行う演出)の真似をしている人もいっぱいいたんです(笑)。ただ、僕としては、それは出﨑監督のフォロワーでもなんでもなくて、むしろキャラクター同士のヒリヒリする感じこそが、あの独特の雰囲気を作っているんだ、と。出﨑監督はどんな作品を演出しても、あの感じになるのが不思議なんですけど……。
――セリフというか、掛け合いの感覚が独特なのかなという気もしますね。
木村 そうですね。『あしたのジョー2』だったら、ゴロマキ権藤まわりのエピソードが好きなんですけど、とりたてて変わったセリフを話しているわけではないのに、画の作り方とストーリー、文脈の配置が絶妙なサジ加減で、緊迫した人間関係を描いている。あれはいったい何なんですかね?
――何度見ても、わからないですね(笑)。
木村 どうしてああなるのかがわからないからこそ、本当の意味での出﨑監督フォロワーというのは出てきていないんじゃないか、とも思います。富野由悠季さんや宮崎駿さんにもそういうところがある気がするんですが、ある意味、戦争のにおいを知っている人という感じがする。戦争のにおいを知っているからこそ、何かちょっと違う緊張感をはらんだドラマを作れるのかな、と思います。
――もしかすると、そのお三方は「話せばわかる」と思っていない。そういうところからドラマを作っている感じがありますね。
木村 それはあるかもしれない。わからなくても関係性は作れる、と思っているのかもしれないですね。今はなかなか、そういう考え方は出てきにくくなっているのかもしれません。
KATARIBE Profile
木村隆一
アニメーション監督/演出家
きむらりゅういち 1971年生まれ、新潟県出身。大学卒業後、スタジオジュニオに入社し、演出家としての活動をスタート。数多くの作品で絵コンテ・演出として参加したのち、2012年に『アイカツ!』を監督。近年の監督作に『けものフレンズ2』などがある他、2023年1月からは『もののがたり』『アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~』が公開となる。