Febri TALK 2021.08.30 │ 12:00

鈴木みのり 声優/歌手

①生き方に影響を与えた
『彼氏彼女の事情』

『マクロスΔ』のフレイア・ヴィオン役で鮮烈なデビューを果たし、以降も声優、シンガーとして着実にキャリアを積み上げている鈴木みのり。連載第1回は、幼少期から多くのアニメに触れてきた彼女にとって、人生の指針になったと語る庵野秀明監督作品『彼氏彼女の事情』について。

取材・文/森樹 撮影/飯本貴子

リアルに挫折もする主人公への共感と憧れ

――鈴木さんに最初に挙げてもらった『彼氏彼女の事情(以下、カレカノ)』ですが、98年放送開始ですから、97年生まれの鈴木さんはもちろんリアルタイムではないですよね。
鈴木 ではないです(笑)。

――どういうきっかけで見たのでしょうか?
鈴木 小学5~6年生のとき、CSで集中放送を見たんです。『涼宮ハルヒ』や『けいおん!』といった深夜アニメにハマっていた時期でした。昔からキッズステーションやアニマックスがテレビでずっと流れているような家庭で育ったので、小学2~3年のときにも何話か見ていた記憶はありました。庵野さん節満載のオープニング、エンディングがすごく印象に残っていて、子供ながらに「他のアニメとは何か違う!」と。

――マンガよりもアニメが先なんですね。
鈴木 はい。原作はCSで集中放送を見たタイミングで、古本屋で少しずつ集めました。アニメから入っていますが、原作の物語もすごく好きですね。

――内容面で印象的だったのはどの部分ですか?
鈴木 小学生の頃は『ちゃお』や『なかよし』、『りぼん』を愛読していたのですが、『カレカノ』は『LaLa』でした。『花とゆめ』もそうですけど、白泉社さんで連載していた作品は、かわいらしい画風なのに雲行きがだんだん怪しくなっていく内容が多くて。

――『カレカノ』でもシリアスな展開がありますね。
鈴木 そうなんですよね。『学園アリス』や『フルーツバスケット』もそうですけど、「たぶん、私ってこういうテイストが好きなんだな」という気づきになりました。

――そういう作品に居心地の良さを感じたのでしょうか?
鈴木 居心地が良いというのもありますが、そういった物語の主人公に惹かれる確率が高いですね。いいことづくしではなくて、挫折もするし、その挫折の描かれ方がリアル。『カレカノ』であれば、主人公の宮沢雪野ちゃんが抱える「誰といるときの自分が本当なのか」や「みんなの前ではいい顔したいよね」という気持ちに共感することもありました。しかも最終的に雪野ちゃんは、自分のやりたいこと、生きたい道を突き進んでいくじゃないですか。そこにすごく憧れを持ちましたね。

――なるほど。
鈴木 あと、彼氏の有馬くんは複雑な家庭事情を抱えているのですが、そんな有馬くんと一緒にそれに向き合ってくれる友達や彼女がいる。私もそうやって支えられるような人間でありたいなって思いました。それに『カレカノ』は、宮沢と有馬の恋愛模様だけでなく、同級生との友情や家族関係におけるそれぞれの愛情の形が描かれていたのも好きなところです。子供だったのですべてを理解できたわけではないですが、何か「あたり前だけどそうじゃない、すごく素敵なもの」だと思いながら見ていましたね。アニメの演出としても、他にないものが多いじゃないですか。

――マンガのコマ割りをそのまま持ってきたり。
鈴木 そうなんです。有馬と雪野が初夜を迎えるシーンも、大人になって見返したときに「なんて表現なのだろう!」とびっくりしました。最終回に向かうにつれて物語が混沌としていく流れも、「ああ、アニメって人が作っているんだな」と実感できるもので。声優という立場になったのもあると思うのですが、庵野さんの作品には、作り手の思いや焦りみたいなものが強く滲み出ているなと思いましたし、そういう人間臭さも好きな部分のひとつですね。

――最終回も、原作とは異なりますからね。
鈴木 個人的には、マンガで描かれている文化祭のくだりをしっかり見てみたかったなと思いますけど、アニメはアニメの良さがちゃんとあるじゃないですか。『新世紀エヴァンゲリオン』もそうですが、最終回がちょっと異質であっても「何か理由があるのでは」と思わせることができる強さがありますよね。

――ちなみに『エヴァンゲリオン』と『カレカノ』はどちらを先に見たのですか?
鈴木 『カレカノ』の数年後に『エヴァンゲリオン』を見ました。「あ、『カレカノ』の監督だ」ってびっくりしました(笑)。

――声優という職業についたきっかけとして『カレカノ』の影響は大きいのでしょうか?
鈴木 声優という職業選択よりも、「ああ、こうやって生きよう」という指針になったと思います。ただ、『カレカノ』の次回予告って実写だったじゃないですか。

――そうですね。
鈴木 あれを見て「声優というお仕事がある」と明確に理解したと思いますし、雪野役の榎本温子さんと有馬役の鈴木千尋さんの、あの生っぽいお芝居には憧れがありますね。私にとっての榎本さんと鈴木さんのおふたりは、「宮沢の人」「有馬の人」っていう気持ちがあって。

――声優にキャラクターが完全に投影されていて。
鈴木 私も声優になったからには、他人にそう思ってもらえる作品やキャラクターに出会えたらいいなと思っています。それこそ『マクロスΔ』でフレイアを演じたときは、鈴木みのり=フレイアと思われることが苦しい瞬間もありましたが、あらためて最近『カレカノ』を見て、それは素敵なことなんだと思えるようになりました。endmark

KATARIBE Profile

鈴木みのり

鈴木みのり

声優/歌手

1997年生まれ、愛知県出身。17歳のとき、『マクロスΔ』の主人公フレイア・ヴィオン役でデビュー。『Δ』内から派生した5人組ユニット「ワルキューレ」のメンバーのみならず、ソロシンガーとしても活動している。代表作に、『カードキャプターさくら』(詩之本秋穂役)、『アイドルマスターシンデレラガールズ』(藤原肇役)など。

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