現実と非現実が混じり合う面白さ
――『ハイスクール!奇面組(以下、奇面組)』は1985年からの放送なので、桃井さんは当時小学校低学年ですね。その頃からすでにかなりのアニメ好きだったんですか?
桃井 そうですね。地上波で放送されていたアニメはほとんど見ていたと思います。中でも幼少期は『タイムボカン』シリーズが大好きで、『タイムパトロール隊オタスケマン』とか『ヤットデタマン』とか毎度同じような、お約束的な展開なんですけど、それがすごく好きだったんですよね。山本正之さんが歌う主題歌も大好きで「キラキラキラキラ スタースター」(「オタスケマンの歌」の歌詞)とか「どうやったらこんなフレーズを思いつくんだろう? すごいな〜」と子供ながらに思っていました。
――アニメと同時にアニソンの魅力にも目覚めていたんですね。
桃井 アニソンもそうですし、アイドルやアイドルソングも好きでしたね。それもなぜか女性のアイドルに妙に惹かれていて。当時大流行していたおニャン子クラブはもちろんですが、水谷麻里さんや佐野量子さんなど、おニャン子クラブ以外のアイドルも好きで追いかけていました。
――『ハイスクール!奇面組』の主題歌を歌っていたのは、おニャン子クラブから派生したうしろゆびさされ組(高井麻巳子、岩井由紀子によるユニット)ですよね。
桃井 『奇面組』は毎週楽しく見ていたんですけど、特別に印象に残っているのは第63話「うしろゆびさされ組の卒業式ジャック」なんです。このエピソードでは、解散が決まったうしろゆびさされ組のおふたりが、本人としてアニメにサプライズ登場するんですよ。高井さんが「今まで応援どうもありがとう」って言って、岩井さんが「では、私たちの思い出の曲を歌います」と言って主題歌の「うしろゆびさされ組」を歌うんですが、それが本当に衝撃的だったんです。
――好きなアイドルがアニメになって劇中に登場するのって、たしかに衝撃的ですね。
桃井 そうなんです。しかも、奇面組のバンド演奏に合わせて、振り付けまで完全に再現して歌っていて。アニメと現実が融合した演出に、子供だった私は何が起こっているのか冷静に理解できないながらも、私の大好きなアニメとアイドルが同じ画面に入って動いていることに興奮して「何これ? 最高じゃん!」って(笑)。
――「アニメと現実の融合」というテーマは、桃井さんの芸能活動の根底にあるような気がします。
桃井 たしかにそうかもですね。私は『The Soul Taker 〜魂狩〜』という作品の中原小麦というキャラクターで声優としてデビューしたんですけど、そのスピンオフ作品では小麦ちゃんのコスプレをして「中原小麦でーす!」と言ってイベントに出演していましたし、ラジオでもあくまで小麦ちゃんとしてしゃべっていたんです。これって当時としてはかなり珍しいことだと思うんですけど、私的には現実と非現実が混じり合って曖昧になるのが面白いと感じていて、それは元をたどれば『奇面組』から受けた衝撃かもしれません。
破天荒で個性を認め合う
姿勢に憧れたし
こんな高校生活が送れたら
楽しいだろうなと思った
――うしろゆびさされ組の歌唱シーン以外ではどんなところが面白かったですか?
桃井 なんでもありなコメディ作品なんですけど、その根底に「変でもいいじゃん」っていうメッセージが込められているのがすごく印象に残っています。現代で言うと「多様性の肯定」ということになると思うんですが、それが随所に散りばめられているんですよ。今でこそ学校教育の場でも「個性」が大切にされていますけど、私が小学生の頃はつねに「みんなに合わせてちゃんとしなさい」って言われていた時代ですから。だからこそ彼らの破天荒さだったり、個性を認め合う姿勢には憧れましたし、こんな高校生活が送れたら楽しいだろうなと思いながら見ていましたね。
――好きなキャラクターはいましたか?
桃井 私は昔から「推しキャラ」っていう感覚がいまいちわからない人なんですよ。特定の誰かというよりは、たとえば、河川唯(かわゆい)ちゃんと宇留千絵(うるちえ)ちゃんのわちゃわちゃした感じとか、人間関係が醸し出す雰囲気が好きなんですよね。それで言えば、唯ちゃんは(主人公の一堂)零のことを「零さん」って呼んでいて、その呼び方にキュンとしていました。私は『エスパー魔美』もすごく好きなんですが、魔美は(ボーイフレンドの)高畑和夫のことを「高畑さん」って呼んでいて、高畑も魔美のことを「魔美くん」と呼んでいるんですけど、どういうわけかその感じがすごく好きなんですよ。
――子供ながらに微妙な人間関係の機微を感じていたんですね。
桃井 どうなんでしょう? でも、たしかに昔から誰かひとりにフォーカスするよりは、作品全体を俯瞰で捉えていた感じはあるかもしれません。『タイムボカン』シリーズが好きなのも、視聴者に直接語りかけてきたり、いきなりファンレターを読み始めたりとか、そういうメタ視点が好きでしたね。アイドルソングやアニソンが響いたということもありますが、とにかく『奇面組』と『タイムボカン』シリーズは私の人格形成においてかなり大きな影響を与えていると思います。今の桃井があるのは、幼少期にこの2作品に触れたおかげと言っても過言ではないかもしれないです。
KATARIBE Profile
桃井はるこ
シンガーソングライター/声優
ももいはるこ 東京都出身。小学生時代から秋葉原に通い、高校在学中にバーチャルアイドルの「もあいはるこ」として路上ライブ活動を始める。2000年にシングル『Mail Me』でシンガーソングライターとしてデビュー。声優としての出演作は『The Soul Taker 〜魂狩〜』(中原小麦役)、『妄想代理人』(マロミ役)、『劇場版ポケットモンスター ピカピカ星空キャンプ』(ソーナノ役)、『テイルズオブ ジ アビス』(アニス・タトリン役)など多数。自身のライブ活動の他、アイドルやアーティストへの楽曲提供や、自身で機材を操りYouTube配信も行っている。