「すべては演出」で押し通す庵野秀明さんはさすが
――TVシリーズはリアルタイムで見ていたのですか?
大沼 そうです。アニメーターになることを目指して専門学校に通っていた時期にちょうど放送されていました。すでに多くの方によって語り尽くされている作品ではありますけど、僕ら世代であれば、どうしても触れざるを得ないのかなと思います。
――やはり衝撃的でしたか?
大沼 もちろんです。まずTVシリーズであれだけの作画をやるのかっていうところから始まって、キャラもストーリーもすごいなあと思いながら見ていたらあの結末でしたから(笑)。碇シンジの精神世界など、あれだけ好き放題にやりながらも「すべては演出です」で押し通す庵野秀明さんって、やっぱりさすがですよね。
――とくに印象深かったシーンはどこですか?
大沼 初めて見たときは、第八話でアスカが見せた弐号機での八艘飛びとか、シンプルに「すげえ!」って興奮しました。当時はアニメーターとして業界に入る直前だったので、自分もこんな作品に関われたら、こんな絵が描けたらとテンションが爆上がりしたのをおぼえています。
――ちなみにですが、アスカ派とレイ派で言えば、どちらでしたか?
大沼 完全にアスカ派です。でも、世間的にはレイのほうが人気がありましたよね。レイがなんでここまでウケるのか、当時はまったく理解できなかったんですけど、まあそういう時代だったんでしょうね。
――その後も旧劇場版や新劇場版などさまざまな作品が公開されました。これらもすべて追いかけましたか?
大沼 すべて見ているのですが、必ずしもリアルタイムではないです。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』は劇場で見ましたけど、それ以降は基本的に円盤でチェックしました。すでに業界に入っていて仕事が忙しくなったこともありますが、見てしまったら絶対に影響を受けてしまうと思って(笑)。けっこう影響を受けやすいタイプなので、それはヤバイと思って意図的に避けていた部分もあります。
いちファンとして見届けられて幸せ
――では、新劇場版はかなり遅れて見たのですか?
大沼 そうですね。どのくらい遅れて見たのかはおぼえていないですが、印象的だったのは第2作目の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破(以下、『破』)』ですね。シンジが僕の求めていた主人公そのもので、ヒーローとしてカッコよかったんですよ。おそらく『破』のシンジって、庵野(秀明)さんよりも鶴巻(和哉)さんの描くシンジが色濃く出ていたと思うのですが、僕としてはそれがずっと見たかったんですよ。次の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』については『シン・エヴァンゲリオン劇場版』とセットで見るべきだろうと思い、ずっと見ませんでした。結果的に2021年に2作まとめて見た感じです。
――シリーズ最終作である『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はいかがでしたか?
大沼 めちゃめちゃスッキリしました(笑)。TVシリーズ以来、20年以上のモヤモヤがすべて晴れましたね。思った以上にキッチリと終わらせてくれたことには感謝しかないですし、それでいてテーマはTVシリーズから一貫して変わっていないのがあらためてすごいなと思いました。
――とくに印象深いシーンは?
大沼 終盤で、ユイがシンジの身代わりとなり、ガイウスの槍で13号機を貫くシーンです。僕がこのシリーズでずっと知りたかったのは碇ゲンドウの真の目的や本当の感情だったんです。それだけに、ゲンドウとユイの結末を見届けることができたときは最高の気持ちでした。まあ、ゲンドウの長いひとり語りはちょっとお腹いっぱいになりましたけど(笑)。
――結果的に、自身の仕事に影響はありましたか?
大沼 影響っていうのはないですね。ここまで突き抜けていると影響されようもないというか(笑)。ただ、ひとりのクリエーターとしては『エヴァ』シリーズのように多くの人に愛されるオリジナル作品を作りたいという気持ちが強くなりましたね。
――大沼さんは、これまでにそういう話が舞い込んできたことはありますか?
大沼 何度かあるんですけど、どれも空中分解しました。ゼロからイチを生み出して、さらに作品として完成させるのって本当に難しいんですよ。だからこそ、こうして20年以上かかってでもしっかりと完結させた『エヴァ』シリーズはすごいと思いますし、並大抵の情熱ではできなかったと思います。身も心も極限まで削りながら終わらせたんだろうというのは、見ていてもヒシヒシと伝わってきますね。
――大沼さんにとって、本作はどのような存在になりましたか?
大沼 ひとりのファンとして、最後まで見届けることができて本当に幸せでしたというのがいちばんです。自分がクリエーターとして目標にできるレベルの作品ではないので、そういう意味ではやっぱり憧れなんですかね。好きなアニメ監督をひとりだけ挙げろと言われたら庵野秀明さんの名前が最初に浮かびますから、やっぱりそういう存在なんだと思います。
KATARIBE Profile

大沼心
演出家/アニメーション監督
おおぬましん 1976年生まれ。東京都出身。アニメーターとして活動後、演出家へ転向。多くの新房昭之監督作品に参加して頭角を現す。主な監督作は『バカとテストと召喚獣』『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』など。現在、監督最新作『プリンセッション・オーケストラ』が好評放送中。