Febri TALK 2021.03.17 │ 12:00

武井克弘 プロデューサー

①モノづくりの姿勢を学んだ
『トップをねらえ2!』

『宝石の国』や『HELLO WORLD』など、話題作を次々と世に送り出す東宝・プロデューサー、武井克弘。そのプライベートなアニメ体験を聞くインタビュー連載の第1回は、原体験ともいえるガイナックス作品との出会いから。

取材・文/宮 昌太朗 撮影/飯本貴子

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

キャラクターに愛情を持ってモノづくりに臨む姿勢を学んだ

――影響を受けたアニメの一本に『トップをねらえ2!(以下、トップ2)』を選んでいますが、そもそも武井さんがアニメにハマったきっかけから教えてください。
武井 僕はアニメにハマるのがすごく遅かったんです。僕のイメージだと、小学校に上がったらサンライズのロボットものとか東映のジャンプもの。そこから深夜アニメにハマっていく……みたいなのが、理想のアニメファン像なんですけど(笑)。僕自身は決してそういうルートではなくて、2歳のときからずっと水泳をやっていて、テレビをまったく見なかったんです。で、中学1年のときに伸び悩んで、水泳を辞めて――それは人生の上でけっこう大きな挫折だったんですけど、ちょうどそのとき(1997年)に『新世紀エヴァンゲリオン(以下、エヴァ)』の劇場版が公開される。公開のタイミングにあわせて、深夜にTVシリーズの再放送もやっていて、そこで初めてテレビ番組を通しで見るという経験をするんです。

――なるほど。
武井 それこそ劇場版は何十回と見に行ったし、キャラとお近づきになりたくてグッズも手当たり次第買ったし、箱根に行けば綾波レイに会えると心のどこかで思っていたくらい、尋常じゃないハマりかたをしたんです(笑)。それでアニメ雑誌も読みあさったんですけど、そのなかでガイナックスやそのスタッフの存在を知って。『エヴァ』はもうほとんど初めて見たテレビのようなものだから無条件に好きで、だからハマった理由が説明できないんですけど、より能動的にハマったという感覚を持てたのが『フリクリ』と『トップ2』でした。

――どちらもTVシリーズではなくて、OVAですよね。
武井 当時は人目を気にしながらアニメイトに通っていたりして、アニメ好きを名乗るのが恥ずかしい時代だったんですよね。『エヴァ』劇場版の巨大なVHS-BOXを買って帰ったのを親に見つかって、「あ、これ? なんかクジ引きで当たっちゃって」とか謎の嘘をついたり(笑)。初めて買いそろえたOVAがフルCGアニメーションをうたった『青の6号』のVHSで、初めてDVDでそろえたのが『フリクリ』。鶴巻(和哉)さんのフィルムは幼少期の全能感から思春期の無力感に至る過程がいつも描かれていて、当時の自分に重ねてしっくりきた感覚がありました。 『フリクリ』のナオ太がそうだし、『トップ2』のラルクもそう。あと『トップ2』に関していえば、制作のきっかけになった話がすごく好きなんです。『トップ2』は『トップをねらえ!』の続編なわけですけど、前作の主人公・ノリコが「人生をちゃんと享受できていないんじゃないか」みたいな思いがメインスタッフのなかにあった。そんな彼女に友達を用意してあげたい。そういう願いが、『トップ2』のノノというキャラクターを生み出したんだ、と。そういう、ある種プライベートなファン目線でのキャラクターへの愛情が、モノづくりの原動力になってもいいんだと知って衝撃を受けました。

――『トップ2』にはある意味、二次創作的な側面がありますよね。
武井 それだけにメタ的でもありますよね。ノノというある種の『トップ』オタクがノリコの想いをつなぐという、そのまま作り手に当てはまるような図式になっていて。 あと『トップ2』は、初めてSFマインドに触れたという意味でもすごく印象に残った作品です。『インターステラー』なんかにも言えることですけど、極大のスケールに極小のドラマが重ね合わされたときの気持ちよさというか。 ガイナックス作品は、最終話のサブタイトルがSF小説のタイトルから採られることが多いですけど、『トップ2』の最終話「あなたの人生の物語」がテッド・チャンの小説から来ているのを知って、読んでみたりとか。

――武井さんがプロデューサーとして参加した『リトルウィッチアカデミア(以下、リトル)』は、ガイナックスから独立したメンバーによるスタジオ、トリガーが制作した作品でした。
武井 『リトル』のTVシリーズは、ゼロから一緒に作らせていただけて。アイデア出しの打ち合わせには、鶴巻さんにも来ていただいたんです。もちろん、吉成(曜)さんや今石(洋之)さん、雨宮(哲)さんとご一緒できたのもうれしかったんですけど、やっぱり鶴巻さんが参加してくれたことは、うれしいと同時にすごく勉強にもなりました。インタビューなんかで「ガイナックスの打ち合わせはすごいらしい」「オタクの戦いが繰り広げられている」って話を聞いてきたわけですけど、実際に打ち合わせに出てみると、昔の作品から今連載中の作品までポンポン飛び出してくる。出されるアイデアの量もすごくて「これだったのか!」と。それから『リトル』では最終話のサブタイトルをSF小説のタイトルにすることができたんです。これも、ファンとしてはうれしかったですね。endmark

KATARIBE Profile

武井克弘

武井克弘

プロデューサー

たけいかつひろ 1984年生まれ。東京都出身。大学を卒業後、東宝株式会社に入社。これまで手がけてきた主な作品に『干物妹!うまるちゃん』『リトルウィッチアカデミア』『宝石の国』『HELLO WORLD』など。最新作の『BNA ビー・エヌ・エー』Blu-ray & DVD(発売元・販売元/東宝)が全3巻で発売中。Ⓒ 2020 TRIGGER・中島かずき/『BNA ビー・エヌ・エー』製作委員会

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