Febri TALK 2022.05.06 │ 12:00

水島精二 アニメ監督/音楽プロデューサー

③監督の仕事を見た
『新世紀エヴァンゲリオン』

『鋼の錬金術師』『機動戦士ガンダム00』『D4DJ First Mix』の水島精二監督が影響を受けたアニメを語る全3回のインタビュー。ラストは自身も参加した『新世紀エヴァンゲリオン』。その現場を通過したことで、水島はアニメーション監督として何を、どう考えたのか。

取材・文/前田 久

「監督は全部をやるか、全部をまかせるかのどちらかだよ」と教わった

――では、最後の3作目は『新世紀エヴァンゲリオン(以下、エヴァ)』です。これは第2回で挙げた『トップをねらえ!』の庵野監督の作品であり、水島監督も第9話に演出として参加している作品でもあります。
水島 この作品に参加できたことで、庵野さんの仕事のやり方や、当時のガイナックスの雰囲気を知ることができたんです。そういう意味で、監督として仕事をするうえで大きな影響を受けた作品として選びました。

――当時のガイナックスは、どんな雰囲気だったんですか?
水島 すごく楽しそうに作っている現場で、自分もこういう仕事がしたいと思いましたね。それに加えて、庵野さんから「監督は全部をやるか、全部をまかせるかのどちらかだよ」と教わった影響が、後の自分の仕事には大きいんです。庵野さんは前者で、自分で全部をやっている人だった。自分の初監督作の『ジェネレイターガウル』では、そのやり方を真似しようとしてみたけど、すぐに向いていないと思いました。絵が描けないので、絵の部分をコントロールしきれないんですよ。となると、そこをまかせられるスタッフといかに付き合うかの問題になる。だから、自分のやりたいことに付き合ってくれる仲間をもっと増やさないといけないと思った。そこで意識を変えて、そのあとジーベックで『地球防衛企業ダイ・ガード』『シャーマンキング』と監督をまかせてもらったときには立ち回りを少しずつ変えながら、作画の皆さんとの付き合い方を探っていきました。そこで学んだことが、自分の監督としての仕事のスタイルにつながったわけです。

――影響を受けつつ、自分流を探る。
水島 ただ、今度は、自分にできないところは他の人に委ねる必要があるけれども、じゃあ、委ねる人はどうやって選べばいいのか?という問題が出てくるわけです。委ねる人を選ぶためには、自分の中に判断の物差しをしっかり持っていないといけない。だから監督として仕事をするからには、何があっても自分の軸がブレないようにしようというのも、『エヴァ』の現場を経験して以降意識していることです。庵野さんがそういう監督だったから。庵野さんはこだわりはありますけど、判断してから行動に移すまでは早いし、ダメ出しをするときも指摘は的確だし、下が提案したことも面白ければOKにしてくれる。商業作品というより、自主制作の作品をやっているような雰囲気だったんですよね。……しかし、今だからこそ冷静に語れますけど、庵野さんに提案するということは、代わりに自分が言ったことはきちんとかたちにしないといけないわけだし、僕は「西島克彦さんの弟子」みたいな扱いで現場に入ったので、その意味でのプレッシャーもあったんですよね。当時、ガイナックスに行くときは毎回胃液を吐いていました(笑)。

商業作品というより

自主制作の作品を

やっているような雰囲気だった

――それだけの苦労があったから、人気のあるエピソードになったんでしょうね。
水島 いやいや、あのフィルムが面白くなっていたとしたら、やっぱり自分の演出の力ではなくて、作画マンをはじめ、一緒に組んだ人たちの力ですよ。編集にしても、庵野さんがしっかり見てくれたし。「そんな風に切るんだ」というリズムの出し方を解説してくれて、とても勉強になりました。そのあと、他の人のフィルムでも編集のポイントを注視するようになって、そこからだんだん自分ならではの映像の間の作り方や、テンポの取り方が生まれてきたんです。

――なるほど。ところで、今回の全3回のお話は「どうやったら若い演出家、若い監督が育つのか?」というのが裏テーマになっていた印象を受けました。
水島 おお、なるほどね。そうだねえ……押井さんのような人はもう出てこないと思う。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』みたいな自由な作品を作らせてくれる環境が、今はもうないから。でも、別のルートで出てくる隙間はあるんですよ。ストップモーション・アニメだからちょっと違うけど、『JUNK HEAD』なんかはまさにそれだと思うんですよね。

――新海誠監督もそうですもんね。個人作家からキャリアが始まっている。
水島 今度『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』で劇場長編を初監督する児玉徹郎さんも『フラ・フラダンス』の現場で知り合って「この人すごいな」と思って経歴を調べてみたら、もともと自分でショート・アニメを作ってコンクールで入賞しているような人だったんですよね。押井さんだって、アニメ業界に育てられたかというと、そこは違うでしょ? もともと濃い人が、たまたまアニメ業界にやってきて、機会を与えられたときに力を発揮する。若い監督が出てくるというのは、昔も今もそういうものなのかもしれない。だから人材が育たない、出てこないみたいな不安をアニメファンが感じることはないんじゃないかな。業界の人間はさておき。

――でも、それって監督を目指してアニメ業界で仕事を始めている演出家の皆さんには、ちょっと悔しい状況ですね。
水島 そんな状況で演出家が何を考えるべきかといえば、フィルムのことだけではなくて、もう少しアニメの周辺のことまで面白がるような目線を持つことだと思います。こんなことを今、偉そうに言っている僕にしても、30代の頃からもっといろいろなことに目を向けていたら、違う自分になれたのかもしれないと考えるときはあります。濃いフィルムも作れていたのかもしれない(笑)。その一方で、どこかで軌道修正して今の自分のようになっている気もして、結局は自分のやれる範囲のことを楽しくやっていくしかないんでしょうね。でも、僕にもまだ挑戦したいことはあるんですよ。元気なうちに、キッズアニメの監督をやってみたいんですよね。endmark

KATARIBE Profile

水島精二

水島精二

アニメ監督/音楽プロデューサー

みずしませいじ 1966年生まれ、東京都出身。アニメーション監督、音楽プロデューサー。主な監督作品に『鋼の錬金術師』『大江戸ロケット』『機動戦士ガンダム00』『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』『D4DJ First Mix』など。

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