SERIES 2021.10.18 │ 12:00

『春風のエトランゼ』連載中 マンガ家・紀伊カンナ インタビュー①

元アニメーターで現在は『春風のエトランゼ』を連載中のマンガ家・紀伊カンナ。2021年10月29日(金)より、キャラクター原案として参加した映画『アイの歌声を聴かせて』が公開される。2013年にマンガ家デビューして以降、マンガ、イラスト、アニメと活躍の場を広げている紀伊へのインタビューから見えた創作の「軸」とは?

取材・文/川俣綾加

「庭」名義でイラストレーターに

――スタジオで6年ほど働いていたんですね。
紀伊 退職したあとも1年くらいはフリーで原画をやっていました。その合間に「マンガでも描くか」と同人誌を作っていたのですが、その本を見た編集者からライトノベルの挿絵の依頼をいただいてイラストレーターの活動も始まった、という流れです。

――退職を決意した理由は?
紀伊 作画監督やキャラクターデザインも経験して、ひと通りやったしそろそろフリーになってもいいかなと考えたのと、作画監督までやると本当に帰れないし、家で寝られないんですよね。会社の机の下で寝ているとやっぱり「身体、大丈夫か…?」となってきて。あわせて少し休みたい気分もありました。

――紀伊さんは2010年に「庭」名義で小説『二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない』のイラストを担当しています。「庭」というペンネームの由来は?
紀伊 「検索に引っかからないような名前」です……。

――検索性をあえて低くしているということですか?
紀伊 アニメーターだったせいもあると思うのですが、自分は作品に関わっている全体の一部であり、「個」という意識が持てなくて。小説は著者の方の作品で、私のイラストはその作品のために添えてあるものなので、大事なのは作品や絵そのもので、私の名前じゃないみたいな考えでした。当時は空気みたいな感じで仕事をしたかったんです、たぶん。

――そこは職人的な捉え方なんですね。一方で「紀伊カンナ」としてマンガを描くときは、自分自身がクリエイターだと捉えている?
紀伊 さすがにマンガだと自分で責任を持たないといけないし「ちゃんとしようかな」みたいな意識はありました。その点でいえば、最初は切り替えが難しかったです。アニメも他の人が考えたキャラクターや作品だし、挿画も小説が先にある。それが好きでやってきたのに、今度は全部自分で作って描かなきゃいけない。

――全然違いますよね。
紀伊 それがデビュー当初は気持ち的に少ししんどかったです。「引き出し何もないわ~。こりゃ大変だなぁ~」と思った記憶があります。

どの仕事も誠実に

――影響を受けた作家は誰でしょうか?
紀伊 マンガ家だと伊東岳彦さん、藤田和日郎さん。仕事を始めてからはアニメーターの千羽由利子さんや森川聡子さんの絵がとくに好きでした。10~20代の頃に見てきたいろいろな方の影響が蓄積されて今の絵につながっていると思います。最近は中学生の頃に好きだったテイストに近づけたい気持ちが大きいです。わりと自分の原初的な部分だと思っているので。

――やわらかくてかわいい絵柄は、中学生の頃からなのでしょうか?
紀伊 昔からそんなに傾向は変わっていないと思います。フリーで仕事をするようになって頭身は上げましたが、若い頃はティーンやキッズ向けの作品がとくに好きで、自分で描くのも頭身が低めのバランスにしていました。BLは成人を扱う前提なので頭身を上げる必要があって、ニュアンスはそのままで徐々にバランスを変えていきました。

――アニメはキャラクターデザインをもとに作画していきますが、イラストやマンガは自分の絵柄で描いていきますよね。心持ちの違いはありますか?
紀伊 私はいちから自分で作るより、すでに用意されている題材を自分なりに解釈して描くほうが得意なので、アニメ業界もその理由で選びました。なので、全部自分で考える創作にはあまり関心がなくて……ずっと手探りでやってきた感じです。ただ、何があっても全部自分のせいという感覚があるので若干気が楽というか、その点ではアニメや挿画とは違うかもしれません。気概や期待のハードルが低い気がします。それ以外は変わらないです。どれも作品や読者・視聴者に対して誠実な仕事をしていくだけだと思います。endmark

書籍情報

『春風のエトランゼ』
既刊第1巻~第4巻好評発売中(『on BLUE』にて不定期連載中)
著/紀伊カンナ
発行/祥伝社

  • ©紀伊カンナ/祥伝社on BLUE COMICS