ロケハン写真に想像を膨らませてもらった第3話
――このインタビューの公開時点では第7話までの放送が終了していますので、第7話までの各話のシナリオを執筆するうえで意識したポイントを聞かせてください。まず第1話は、ぼたんが飲酒中のいぶきを目撃し、関係性が変わり始めるきっかけのエピソードです。
米内山 ぼたんがいぶきと出会うことと、ぼたんが初めてお酒を飲むことを大きな事件にしなくてはならないエピソードですね。言葉ではっきり表すわけではないけれど、このふたりが近づいていくお話なのだと視聴者の皆さんに感じてもらえるような雰囲気を醸すことを課題として考えていました。女子大学生がお酒を楽しく飲んでいるな、この子たちが仲よくなるといいな、でも何かありそうだな……と感じられるラインを意識しました。
――米内山さんが続けて担当した第2話でのぼたんと郡上先輩の飲酒シーンもそうですが、お酒を飲むシーンの解像度が高いように感じました。
米内山 第1話ではハイボールを飲むシーンがありますが、口に含んで喉を通っていく瞬間の炭酸が弾ける様子やグラスを傾けた際の氷の動きの気持ちよさをしっかりと描こうと考えていたんです。そこが解像度の高さにつながったのかもしれません。郡上先輩の喫煙シーンも同様ですね。タバコというアイテムは息を深く吸って吐くものですから、深呼吸をして会話のトーンを変えたいシーンにとても向いているんです。
――座談会の前編では、ピアスを取り置くエピソードを立てることを意識したとのことでしたね。
米内山 原作からストーリーの順番を変えたので、キャラクター同士が向け合う感情ラインが正しく積まれているのか、厳密にチェックしながら書いていました。『上伊那ぼたん』は感情ラインの積み方が繊細な作品なので、お話の順番を変えるとキャラクターの関係性が変わる側面もあります。そこを注意しながら書きました。
――続く第3話は、白坂さんの担当回。貸切温泉に向かうぼたんといぶきの姿が描かれました。
白坂 ぼたんといぶきの関係性が大きく動くエピソードだと考えていたので、温泉でのゴールに向けてきちんと段階を踏んでいくことを意識していました。でも、その道中もまだ探り探りなんですよね。一直線にゴールへは向かわないんです。なので、それまでどんな感情になっているのか、風景描写も使いながら詳しく書いていきました。貸切温泉についてはソワネさんがロケハンの写真を用意してくださったので、ここなら開放感も手伝ってこんなことも言葉にしちゃうかな、と想像しながら描写していた記憶があります。Cパートは、郡上先輩に感情移入しながら楽しく書かせていただきました。
気遣いから誰も触れていなかった部分に切り込むジンラン
――第4話では名前呼びになった変化も描きつつ、川越でマニキュアを塗りあうぼたんといぶきの姿が印象的でした。
篠塚 第3話まででキャラクター同士の関係性がわかってきたと思うので、あらためてそれぞれのくすぶっている思いをちゃんと印象付けたいなと。そう思いながら、冒頭で郡上先輩がマニュアル車の運転手に志願してすぐにエンストしてしまう展開を書いていました。また、川越に出かけるエピソードは原作を読んだときから初夏の空気感が色濃いエピソードだと感じていたんです。気だるい湿気がまとわりつく中、足湯に入ってひんやりしたビールを飲むという、想像するに気持ちのいい瞬間を意識して書きました。
米内山 マニキュアを塗りあったあとのシーンのト書きも良かったんです。「いぶきがぼたんの視線の先を探ると、そこにはオレンジからピンクに混ざったようなグラデーションの空模様がある」とあって……。
篠塚 この作品はささやかな小道具が効いてくるので、マニキュアと空を対比させて印象深く描きたかったんです。
――第5話では、いぶきが人前でお酒を飲みたがらない理由に少し触れました。
篠塚 この回のシナリオを書く前に、米内山さんがバーに連れて行ってくださったんです。バーテンダーさんがお酒を作ったり、グラスを差し出してくださったりする所作を間近で見たことはかなり参考になりました。また、トラウマを思い出すことに連動して、バーに入ってきたお客さんとの距離感やわずらわしさは繊細に扱うように注意しましたね。
――第6話は張景嵐(チャン・ジンラン)の初登場回ですが、米内山さんの担当でした。
米内山 ジンランはいろいろなことを暴いていく子なんですよ。相手を気遣う優しさから、今まで誰も触れなかったところにも切り込んでいくんです。少しヒヤヒヤしますけどね(笑)。第5話でいぶきのトラウマが少し開示されましたが、そこにジンランが入ることで、ぼたんといぶきの関係もさらに振り回されていきます。いぶきはジンランの前でお酒が飲めたので、一歩進むことには成功しましたが、単純に喜びだけでは済まない感情にさいなまれていたはず。そこから民泊で飲み直した際にこそ、ぼたんといぶきの関係性が深まるヒントがあるように感じていたので、大事に書いていました。
――そして第7話では、武甲山への登山における少し不思議なエピソードのAパートと、さまざまな場所へ行くBパートが描かれました。
白坂 第7話では露骨に見えるかなと思いつつも、ぼたんといぶき、郡上先輩とジンランとの間でぐるぐるしているそれぞれの思いを逃げずに書くことを課題にしていました。Aパートでの不思議な体験をしたことで、いぶきはぼたんのことを理解したいという気持ちになったのではないだろうか、と考えていた記憶があります。また、郡上先輩がぐるぐると気持ちを抱き続けていた結果が、最後の「お風呂が沸きました」です。郡上先輩の心情がアナウンスと重なるように気持ちを込めて書いていました。
「ここまで書いていいんだ」と驚いた第1話、第2話のシナリオ
――現時点の最新話までを振り返ってもらいましたが、作業中にお互いのシナリオを読んだ感想も聞いてみたいです。
米内山 おふたりとも信頼しているので、上がってくるシナリオが本当に楽しみでした。正直な方々ですから、ここが好きなんだなとか、ここが書きたかったんだな、というポイントがしっかり意思表示されているのも面白かったですね。そのうえで、白坂くんはとてもクレバーなシナリオを書く人だと感じています。抑えきれない「萌え」が漏れ出てはいますけど(笑)。一方で、篠塚さんは湿度のあるポイントを俯瞰している印象です。しっかり湿度を感じられるけれど、きちんとコントロールした内容になっている点が素晴らしかったです。
白坂 間違いなく「萌え」は漏れ出ていますね(笑)。でも、それは『上伊那ぼたん』の現場が「こんな要素も入れてみたんですけど……」と提案しやすかったから、という理由もあります。その反応次第で残すか消すかは決めていました。
――白坂さんは米内山さんと篠塚さんのシナリオをどのように捉えていますか?
白坂 米内山さんの第1話と第2話は「シナリオでここまで書いていいんだ」と驚くほどまるで小説のように詳細に書かれていて。それがベースとして存在したからこそ、第3話をはじめ、自分が担当した各話シナリオを書けたと思っています。篠塚さんのシナリオも、僕なら絶対に書かない場所にカメラを配置していて、衝撃を受けましたね。
――文字情報であるシナリオにおける「カメラの位置」というのは?
白坂 セリフとキャラクターの仕草は、どの視点で見るかによって描き方が変わるんですよ。基本的には第三者視点の俯瞰ではあるんですけど、篠塚さんは意外なところにカメラを配置することがあって。
篠塚 完成系となる映像が想像できなかったからこそ、どういう距離感なのか、どういったアングルなのかと妄想した結果、そうなったんだと思います。シナリオ執筆と同時期に美術設定やロケハンの資料も上がってきましたが、そこからもいろいろな要素を参考にしつつ、シナリオに反映していきました。
――篠塚さんは、米内山さんと白坂さんのシナリオについていかがでしたか?
篠塚 おこがましい感想ではありますが、おふたりとも「人」をちゃんと書ける方なんですよ。滑らかに感情が伝わる書き方をされているので、とてもシナリオが読みやすかったです。ここでこのキャラクターたちを近づけたいんだな、とひと目でわかるようなシナリオになっていました。とくに米内山さんが書かれた第1話は、どこから覗いている視点なのか詳細に書かれていて、勉強になりましたね。
米内山 お酒を飲む行為のどこにフォーカスして、どれくらいの間を使って描くのかを意識していたんですよね。通常の間尺であれば5秒で飲むとしても、気持ちが動くお酒の飲み方であれば、もっと尺が必要なはずです。ぼたんもいぶきのお酒を飲む様子に目を奪われたかもしれない……と解釈できたらいいなと思いながら、第1話のシナリオを書いていました。
――第8話以降のストーリーも楽しみです。
米内山 いろいろとお話はしましたが、お酒を扱っている作品ですから、お酒を片手にぼんやりと眺めてくださるだけでも楽しめると思います(笑)。いろいろなシチュエーションに寄り添ってくれる作品になったと思うので、皆さんがどのシーンを好きになられたのか、ぜひ教えていただきたいです!
白坂 ここから先のお話は濁流に飲まれていくような印象もありますが、ぜひ劇中に登場したお酒と一緒に『上伊那ぼたん』の世界に浸っていただきたいですね。
篠塚 ぼたんといぶき、あかねとやえか、郡上先輩とジンランだけではなく、いろいろな関係性が垣間見える作品だと思うんです。たぶん、見返したときには新たな発見があるはずです。これから物語は大きなうねりを見せていきますが、それまでにぜひ再視聴していただけるとうれしいです! 第10話では塀先生とご相談しながら書いたオリジナルストーリーも描かれますので、お楽しみに。![]()
- 米内山陽子
- よないやまようこ 劇作家・演出家・舞台手話通訳家。主な参加作品に『パリピ孔明』『ゆびさきと恋々』『mono』(シリーズ構成・脚本)、『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』(脚本)など。
- 白坂英晃
- しらさかひであき 脚本家・演出家・俳優・演技講師。劇団「はらぺこペンギン!」主宰。主な参加作品に『真夜中ぱんチ』『ンめねこ』(シリーズ構成・脚本)、ゲーム『22/7 音楽の時間』(メインストーリーシナリオ)など。
- 篠塚智子
- しのづかともこ 脚本家。主な参加作品に『レプリカだって、恋をする。』(シリーズ構成・脚本)、『ももくり』『ヲタクに恋は難しい』『天才王子の赤字国家再生術』『Unnamed Memory』『君は冥土様。』(脚本)など。


























