TOPICS 2026.05.12 │ 20:30

『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』スタッフリレーインタビュー⑤
戸澤俊太郎(副監督、第4話・5話絵コンテ)インタビュー

『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花(以下、上伊那ぼたん)』のメインスタッフ陣によるリレーインタビュー。第5回は、副監督の戸澤俊太郎が登場。絵コンテを担当した第4話、絵コンテ・演出を担当した第5話の振り返りをメインに、キャラクターの魅力を引き出すエピソードをどのように演出したのかを聞いた。

取材・文/太田祥暉(oriminart)

「原作マンガ通り」をアニメで描くためのハードル

――まず、戸澤さんが副監督として本作に参加するにあたって、どのような方針で臨もうと考えていたかを教えてください。
戸澤 塀先生が描かれた原作マンガ通りにやることです。ただ、この「原作マンガ通り」というのは、原作の流れを漠然となぞるだけでは実現できません。原作のよさや読後感を映像として最善のかたちで表現するために、できる限り真摯に可能性を探ろうというのが基本方針でした。

――素朴な質問ですが、絵コンテの段階ですでに脚本家や監督のフィルターを通したシナリオが存在しています。その状況で、演出家としてどのように「原作マンガ通り」を目指すのでしょうか?
戸澤 『上伊那ぼたん』は全体的にセリフ量が少なく、余白が多い作品なので、アニメ一話に原作四話分くらいのエピソードを入れたとしても、尺が余ってしまうんです。さらにA・Bパートそれぞれに原作ふたつ分のエピソードがあって、それをつなげる必要もある。シナリオ上でも工夫はしてくださっているのですが、一本の映像として工夫して見せなければ、視聴者に原作の読後感と同じ気持ちを抱かせることはできません。そこをいかに乗り越えるかを考えながら作業にあたりました。

――戸澤さんが絵コンテ・演出を担当した第5話では、原作と異なりイチゴウイスキーが再登場しますが、あれもそういった考えにもとづいていたわけですね。
戸澤 原作ではイチゴウイスキーを作るエピソードと、いぶきと郡上先輩が旅行に行くエピソードは別の回ですし、後者で登場するお酒は別のものでした。加えて、原作ではイチゴウイスキーを「みんなで飲もう」とぼたんが提案しているものの、実際に飲むエピソードはまだ描かれていません。となれば、ここをつなげるのが自然なのではないかと塀先生に相談したんです。「郡上先輩が自発的に持っていくはずがない」「ならば、ぼたんが後押ししたのではないか」と議論を重ね、アニメではこういったかたちになりました。原作を読んでいたときにも、ぼたんだったらここで郡上先輩へパスを渡してもおかしくないかなと。

最初に完成した第4話の絵コンテ

――本作は各話とも参加クリエイターの個性を尊重する作風となっています。戸澤さんも何か自分らしさを込めようと担当話数のコンテを切っていたのでしょうか?
戸澤 僕の場合、個性は「出そう」とするものではなく「勝手に出てしまう」くらいがちょうどいいと考えているので、自然にやるのを心がけていましたが……。

――完成した映像には出ていたわけですね(笑)。
戸澤 出ているとはよく言われますね(笑)。ただ、実感としては「やってやろう」と作ったカットというのは結構浮いてしまうことが多く、そのあたりは編集の廣瀬(清志)さんが鋭く指摘してくれて、いくつかカットを欠番にしています。フィルムの流れとして何が最善かを探り続けていれば、自然と個性は出てくるように思います。

――担当回の第4話と第5話についてもう少し掘り下げたいのですが、そもそも続けて二話分のコンテを担当することはあらかじめ決まっていたのでしょうか?
戸澤 第5話のコンテ・演出を担当することはあらかじめ決まっていたのですが、シナリオがまだ第5話まで進んでおらず、手空き気味だったので先に第4話をやることになりました。ちょうど佐久間(貴史)監督が第1話のコンテに着手していたタイミングです。2024年末から2025年の正月にかけて作業をしていて、じつは第4話が『上伊那ぼたん』で最初に上がった絵コンテだったりします。

――そんな第4話のコンテにおいて、特に意識したことは何ですか?
戸澤 シナリオを読んだ時点から、ぼたんといぶきがマニキュアを塗り合うシーンが盛り上がりのピークになる、綺麗な曲線状のお話だと感じていたんです。個人的に、話数の後半に盛り上がりのピークがある話はコンテの構想が浮かびやすいので、そこに向かってコンテを描くようにしました。

――とはいえ、三峯神社での縁結びのシーンから、かなり湿度が高いように感じますが……。
戸澤 このシーンはシナリオ時から議論があったんです。というのも、原作では名前を書く過程がなく、ふたりが名前を書いた紙が出てきていますが、映像としては書く段取りを見せたほうがいいのではないか、と。結論としては、原作の雰囲気を踏襲して段取りはないほうがいい、という話になったのですが、やはり何かが足りないように感じてしまって。とはいえ、顔の芝居では何かが違う。そこですーっと伸びていくいぶきの手を挿入しました。紙を受け取るという動作で、いぶきの心の動きを表現できるのではと考えました。

――その後の郡上先輩を引き構図で描くカットも印象的でした。
戸澤 いわゆる「ブチ抜きの超望遠」ですが、演出のキャリア初期にやらせていただいた『炎炎ノ消防隊』で八瀬(祐樹)監督がよく使われていた手法です。実地の整合性や自然なパースを好む人には敬遠されがちですが、絵面が平面的になる分、グラフィカルな画を作りやすいです。実写でも時折見かけますが、実写で撮ろうとするとセットを組むのが大変だと思います。作画は止メでもレイアウトで魅せることができるため、リソースの節約にもなります。八瀬さんにはリソースの配分を含めて非常に多くのことを教わり、あのときの仕事がなければ今の自分の演出はないと思うので感謝しています。

――抑えたリソースを、マニキュアのシーンで解放したわけですね。
戸澤 そうですね。マニキュアと空のグラデーションの色が重なるというのはシナリオ時に篠塚さんから出たアイデアで、それを活かすようにしつつ、各セクションにリソースを割いて力を入れてもらうようにしています。あと、ぼたんと郡上先輩がゲームで遊ぶシーンも作画リソースを使ったところですね。諸富(直也)さんに原画をやっていただいたカットなのですが、松尾(祐輔)さんが素晴らしい設定を上げてくださっているので、これは動かさないといけないだろうなと考えました。

ターニングポイントになるバーのシーン

――続く第5話では、高校時代のいぶきからお話が始まります。
戸澤 原作ではモノローグで「同じ夢を見て不愉快になる」と説明されていますが、映像で同じことをやってしまうと消化不良になってしまいます。そこで、原作の別エピソードで明かされているトラウマの先輩、うつぎとの高校生からのつながりを情報として入れることにしました。第5話全体の内容を考えてもいぶきのトラウマが要因になる話なので、構成上必要と判断しました。

――このアバンがあるからこそ、バーでのシーンがより暗く感じられました。
戸澤 作中でキャラクターが初めて涙を見せるシーンということで、ひとつのターニングポイントとして捉え、暗くなったとしても逃げずに描写する方向にしました。物語としていぶきは被害者とも取れますが、Bパートでは郡上先輩に対して加害者にもなってしまうという、単純な勧善懲悪でない関係性の厚みを出せないかと考えていました。もっとライトな方向性が好きな方には申し訳ないのですが……。

――このエピソードを振り返ると、花が登場するカットが多いようにも感じます。
戸澤 僕の個人的な演出テーマとして「無機物や人でないもので感情表現をしたい」というのがあって、それを試行錯誤した結果です。なので別に花でなくてもいいのですが、現代劇でどこにあっても自然で、多様な意味性を付与しやすく、バリエーションもあるものとなると花以外になかなか見つけられず……。他に何かいい手があれば教えてほしいですね……(笑)。もちろん、メインディッシュはキャラクターの芝居なのですが、そこにばかり頼ると映像として単調になり、いざというときに魅せたい芝居が立たなくなる感覚があります。キャラクターの芝居を「必殺技」として温存するためにも、それ以外のもので表現するアイデアをずっと探しています。

――第5話は作画監督を宮原拓也さんとあけろらさん、作画監督補佐を井川典恵さんが務めています。
戸澤 宮原さんはイチゴウイスキーを作るところまで、あけろらさんは山梨に行ってからを担当していただいています。井川さんにはあけろらさんパートのクオリティを底上げするお手伝いをお願いしました。その甲斐あって、素晴らしいクオリティになったと思います。

――このインタビューは第4話、第5話の放送前に行っているのですが、振り返ってみての印象はいかがですか?
戸澤 他の作品だと作り終えたら数週間後には放送されてしまうことが多い中、『上伊那ぼたん』はかなり間が開いているのでどこか不思議な感覚ではありますが、できることはすべてやったと思っています。第4話の中核を担った制作進行の樋山(翔太)くん、牧野(秀則)さん、圧倒的な量と速度、内容で作画クオリティを上げてくれた作監の井川(典恵)さん、作画だけでなく、撮影監督の富田(喜允)さんやWIT STUDIO美術部の黒田さんなど、挙げていけばキリがないですが、皆さまのおかげで第4話、5話を完成させることができました。後半話数も楽しみにしていただけると幸いです。endmark

戸澤俊太郎
とざわしゅんたろう セブン・アークス・ピクチャーズにて制作進行としてキャリアを開始した後、演出家となる。主な参加作品に『炎炎ノ消防隊』『平家物語』『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』『アンデッドアンラック』など。
作品情報


『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』
毎週金曜24:00~ TOKYO MX他にて好評放送中!

  • ©塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会