アッシュの能力の高さを意識して描いた
――ニューヨーク取材には、皆さんで行ったんですよね?
瀬古 はい。スケジュールを組んでいただいて、みんなで休む間もなく歩き回りました。あれは本当によかったです。2017年のニューヨークの空気を吸って、「ここでアッシュは生きているんだな」というリアルさを感じました。
――描くうえですごく重要な体験ですね。時代設定が現代に移ったことで、意識した部分や苦労した部分はありますか?
瀬古 やっぱり、原作そのままの設定が使えないところをいかに成り立たせるのか――簡単に言うと、テクノロジーと政治がらみの部分は意識しました。見るに耐えるものにしなければならないので、取材に行ったり、政治の部分は朝日新聞の方に監修をお願いし、こちらで勉強して書いたものを見てもらったり。それでも世界情勢は目まぐるしく変わるので、いまだにドキドキしています。
――現代のテクノロジーの下でアッシュの能力の高さを描くのも大変ですよね。
瀬古 頭がいい人に見えるように、いつも意識して書いていました。でも、うまくいっているとしたら、それは絵や演出の部分が大きいと思います。仕草ひとつとっても優雅で美しいアッシュのカリスマ感は、内海さんをはじめ、演出・作画の皆さんのお力です。
――脚本が完成したのはいつ頃ですか?
瀬古 最終話は、去年(2017年)の12月くらいです。完成した映像は、皆さんと一緒に先行上映会で見まして「素晴らしい」のひとことでした。劇場映画を見ているみたいで、逆に現場が心配になるくらい(笑)。日常芝居まで動いていて、止めがほとんどないんです。内海さんのフィルムというか……あの人は本当にすごいと思います。
キャスト全員の声がキャラクターになじんでいた
――キャストの演技や、数々の名ゼリフがアニメーションとして再現されることに関してはいかがでしたか?
瀬古 驚いたんですけど、誰ひとりとして不自然な人がいない。全員ぴったりで「ああ、アッシュの声はもとからこの声だったな」と思えるくらい、どのキャラもぴったりでした。オーサーの第一声もゾクゾクしましたね。
――アフレコには立ち会ったのでしょうか?
瀬古 アフレコは朝からなのでなかなか行けないんですけど、第1話だけはお邪魔させてもらいました。(アフレコを)見ているときは現場の雰囲気を楽しむ感じだったんですけど、完成したときにものすごい衝撃を受けました。本当に全員がしっくりなじんでいるのには面食らいましたね。
――先行上映会のとき、登壇した内田雄馬さんが「アッシュ曰く〝えげつない〟ところも全部やっています」と語っていて、並々ならぬ意気込みを感じました。以前、90年代生まれの学生さんたちと『BANANA FISH』の話をする機会があったのですが、「こんなにハードな現実を描いたマンガが存在するなんて、天地がひっくり返った」といった感想を聞いて、今はそういう時代なんだと気づかされたんです。若手の内田さんにとっても、きっと挑戦だったのではないでしょうか。
瀬古 僕は最近のマンガをあまり読んでいないので『BANANA FISH』が普通だと思っていました。むしろ〝えげつない〟ところを抜いてしまうと『BANANA FISH』は成り立たなくなってしまうので、最初からみんな、何のためらいもなく描ききるつもりだったと思います。セリフを少し削ったりすることはあるんですけど、基本的にはそのままやるぞという感じです。
「ラストを見届ける」あの経験は一度だけ
――時代に守られ「日常」を愛してきた世代にとっては、衝撃だったのかもしれません。今回のアニメ化は、とても大きな意義を持っていると思いました。
瀬古 そうですね。最近の若い人たちとはあまり関わる機会がないので、今のお話を聞いてゾクッとしました。うれしいです。脚本を書いたことが、そういう意味で報われるとしたら最高です。
――今後、注目してほしい部分などはありますか?
瀬古 ブランカの登場です。第13話以降、アッシュは政府関係者にさらに追い詰められるというくだりが次なる戦いへのブリッジとしてあるのですが、それを超えるとブランカが登場し、大きく話が展開するんです。最終戦に向けて、緊張も高まっていきます。第11話以降はもうジェットコースターみたいな感じですね。毎話毎話、怒濤の展開で進んでいきます。
――では、総括として『BANANA FISH』を愛する読者にメッセージをお願いします。
瀬古 まず、見てくださってありがとうございます。原作を知らない人は知らないままで、最後まで見ていただけるとうれしいです。そして、そのあと原作を味わってもらえれば……。最近は原作が未完のままアニメ化する作品が多く、必然的にアニメも未完となってしまいますが、『BANANA FISH』は確実に終わります。こういう作品はなかなかないと思うので、とにかく最後までお付き合いください。『BANANA FISH』のラストを見届ける――あの経験は一度きりですから。
- 瀬古浩司
- せこひろし 脚本家。手がけた主な作品に『チェンソーマン』『呪術廻戦』『進撃の巨人The Final Season』『ドロヘドロ』など。