TOPICS 2023.03.01 │ 12:00

メインスタッフが語る
『ぼっち・ざ・ろっく!』のライブシーン制作舞台裏(後編)

好評をもって迎えられたバンド青春物語『ぼっち・ざ・ろっく!』。そのライブシーン制作の舞台裏を聞くインタビュー後編では、シリーズ後半のライブシーンを中心に本作ならではの苦労、そして手応とともに、本編のユニークなテイストがどこから生まれてきたのか。アニメーションプロデューサーの梅原翔太とライブディレクターの川上雄介に聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

光源の変化が見どころの第8話

――第8話「ぼっち・ざ・ろっく」は、斎藤監督が自らコンテを担当したエピソードですね。結束バンドが初めてのライブに挑む回ですが、川上さんは技術的なサポートなどを担当したということでしょうか?
川上 そうですね。CGの方からキャプチャーしたデータが送られてきて、そこから各アニメーターがタイミング込みで作っていくんですが、その際のデータのやり取りを担当しています。あとは光源の設定だったり、美術の発注も必要になるので、そのあたりのチェックもやっていますね。とくにこの第8話は、ライブ中に光源が大きく変化するんです。アニメにおいて、カット内で光が変化する表現はすごく難易度が高くて、美術の色が変わるのに合わせて、セル(キャラクター)の色も変えなければいけない。基本的に撮影で調整することになるんですが、場合によっては作画で影つけを変化させなければいけなかったりするんです。

――たしかに、ライブ中の光の演出が印象的な場面になっていますね。
川上 この第8話では、CloverWorksで撮影をやられている佐久間悠也さんが主導する形で全体を管理しています。佐久間さんは以前、『うたの☆プリンスさまっ♪』のライブシーンで照明などを撮影でコントロールされていた経験があって、「こういう風にやれば成立できますよ」と提案していただきました。

梅原 佐久間さんには最初にテスト映像を作ってもらったんです。立っているキャラクターに対して、背景や光の色、光源の具合が変わっていく映像なんですけど、これをもとにどういう雰囲気にしていくか、撮影さんと一緒に考えていくという流れですね。このタイミングでこういうライトが光るようにしたい、であればキャラクターの色を塗る仕上げさんたちはどういう準備をしておけばいいのか。あるいは、キャラクターの影つけはどうすればいちばんよくなるのか。その映像をもとに準備をしていったんです。
川上 もともと、撮影の色変化ですべて管理したかったんですが、どうしても難しいカットがあるので、そういう違和感のあるところはセルで影つけを変化させる、という形ですね。曲中のどのタイミングで照明が変わったかを、タイムシートでひとつひとつチェックしていくのは物理的にほぼ不可能なので、こういうテスト映像があって助かりました。

ライブシーンは作画打ち合わせも大変!?

――思いがけない苦労があるんですね。
川上 今の話に関連したところで言えば、ライブシーンはアニメーターさんとの打ち合わせが大変でした。本題に入る前に説明の時間が1時間ほどかかるんです。たとえば、ステージではアンプから音が流れるわけですけど、アンプは美術さんが背景として描くわけです。一方、キャラクターと楽器はアニメーターがセルで描くんですけど、アンプとキャラクターはどこかで接続しているわけで、どこまでをセルで描いて、どこから美術で描くか。まずその説明が必要になります。あとモーションキャプチャーを使っていますけど、弦を押さえる指の動きまではキャプチャーしていないんですよ。
梅原 モーションキャプチャーの際、演出さんが同時にスマホやビデオカメラで撮影しているんですけど、それをもとに描いています。

――手元は、キャプチャーしたデータとは別の動画で撮影しているんですね。
川上 そうです。そこから「タイムシートの何コマ目はこういうポージングになっています」ということがわかる参考用の動画を作って、アニメーターさんに渡すんです。他にもドラムだったら、叩いているときはシンバルも動かしてほしいし、ハイハットの開閉は左足のペダルを踏む動きと連動しているので、そこを確認しながら作画してほしい、とか。とにかく準備段階の説明に、すごく時間がかかりました。

過去2作の積み重ねから生まれた『ぼっち・ざ・ろっく!』

――説明を聞いているだけでも、混乱しそうになります(笑)。『ぼっち・ざ・ろっく!』は劇中歌を収録したアルバムも好評ですね。
川上 自分の関わったものがみんなに喜んでもらえているというのは、素直にうれしいです。
梅原 ライブシーンを作ったのは川上さんなわけで「自分の曲だ」みたいな感じはないですか? 「俺の手柄だ!」みたいな(笑)。
川上 まったくないですよ(笑)。モーションキャプチャーのリハーサルの段階で、手元にあるのはシナリオと楽曲だけという状態で、新しい曲をやるたびに「この曲もいちばん好きだ」ってメインスタッフ内で話していたんです。毎回、「好き」が更新されていって(笑)。映像がつく前からどの曲も「素敵な曲だな」と思って聞いていたので、自分の手柄だとは思わないですね。もちろん、映像がついたことでより多くの人に楽しさが伝わったとすれば、とてもうれしいです。
梅原 それはもちろん、あると思いますよ!

――あらためて振り返ってみて、おふたりにとって『ぼっち・ざ・ろっく!』はどんな作品になりましたか?
川上 やっぱり、各話のコンテや演出で参加するよりも、思い入れの深い作品になったなと思います。初めてメインスタッフとして関わったのは『ワンダーエッグ・プライオリティ』だったんですが、その次が『ぼっち・ざ・ろっく!』だったわけで、自分にとって大切な作品になりました。
梅原 『ぼっち・ざ・ろっく!』は、斎藤監督や川上くん、あとキャラデのけろりらくんや副監督の山本ゆうすけくんなど、30歳前後の同世代が多かったんです。しかも、みんなすごく楽しそうで。彼らは自分より少し下の世代なんですが、ちょっと部活みたいな空気感がありましたね。
川上 たしかに、みんなで楽しく作っていた感じはありますね。
梅原 そういう現場ばかりだと、緊張感がなくなってよくないなと思うこともあるんですけど(笑)。ただ、『ぼっち・ざ・ろっく!』に関しては、その前に『ワンダーエッグ・プライオリティ』と『その着せ替え人形は恋をする』で一緒だったスタッフが多かったので、楽しそうな空気感ができあがっていたのかなと。
川上 いや、楽しかったです。だいたいどの作品をやるときも、僕は楽しくやっています!endmark

梅原翔太
うめはらしょうた 神奈川県出身。大学卒業後に動画工房に入社。その後、A-1 Picturesに移籍し、現在はCloverWorksに所属。制作進行として数々の作品を担当したのち、2016年に『三者三葉』でアニメーションプロデューサーを務める。プロデューサーとしての主な担当作品に『ワンダーエッグ・プライオリティ』『その着せ替え人形は恋をする』など。
川上雄介
かわかみゆうすけ 宮城県仙台市出身。アニメーター、演出家。主な参加作品に『ブラッククローバー』『SSSS.GRIDMAN』『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』『ワンダーエッグ・プライオリティ』など。
作品情報


『ぼっち・ざ・ろっく!』
Blu-ray & DVD 1~3巻 好評発売中!


4巻 3月22日(水)発売!

  • ©はまじあき/芳文社・アニプレックス