TOPICS 2023.05.12 │ 12:00

興収100億突破! コナンと灰原の「感情のドラマ」を描く
映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影』監督・立川譲インタビュー②

八丈島の海底を舞台に、疾走するミステリーと緊迫するサスペンスが展開する映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』。大ヒット作『ゼロの執行人』で知られる監督・立川譲が描いた黒ずくめの組織、そして『名探偵コナン』の魅力とは何か。キャラクターたちの感情のドラマに迫るインタビューの後半は、安室透の「間(ま)」の理由からスタートする。

取材・文/高野麻衣

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

「間」や感情の流れみたいなものも入れたかった

――お話を聞いていると、監督が感情のドラマを大切にしていることが伝わってきます。今作でも、落下した(毛利)蘭を別の人物が助けたあとに見せるコナンの表情とか、赤井(秀一)との通話後に部下への返事が遅れる安室とか、とても繊細な「間」の描き方に感じ入りました。
立川 このキャラクターだったら今、何を考えるだろうっていうのを大切にしたいんですよね。挙げていただいた安室の「間」もそうです。彼は、かつて「バーボン」として行動をともにした赤井に、少し託すような気持ちで通話していた。だから風見(裕也)が横に来たとき、公安の「降谷零」に切り替えるのに少し時間が必要で、一拍おく。そういう間、感情の流れみたいなものも、今回の映画で入れたかったポイントです。

©2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

――同じように、「一枚岩じゃない」黒ずくめの組織の雰囲気も最高にスリリングでした。個人的に思い入れがあるメンバーはいますか?
立川 描いていてすごく楽しかったのは、ウォッカです。今回は彼のダークな面も見えますよね。いつもはジンの兄貴を慕っていますけど、前半はジンが不在なので、ウォッカが組織の大黒柱みたいな活躍をしてくれる。その悪い感じと、ジンの兄貴が来てからのヘコヘコぶりがなんかいい(笑)。音楽も、全編を通してサスペンスフルでヒリヒリした曲が多めなんですが、ウォッカがキールに利用されてペラペラしゃべっちゃうあたりだけ、ちょっとコミカル調なんです。そういうかわいい感じもすごくいい。いなくてはならない存在なんだなってあらためて思いました(笑)。

ジンをいつも以上に怖い存在に

――音楽に関しては、監督のオーダーではなく、作曲した菅野(祐悟)さんのアイデアですか?
立川 音楽の打ち合わせの際、「ジンが出てくるときにかかる組織のテーマソングみたいな曲がほしい」という発注はしました。ただ、似通ったサスペンス系の曲が多くなりそうですよね、という話もしていて。菅野さんは映像に合わせて、緊張が少しゆるむ瞬間とか、物語が少し上向く瞬間を意識しながら音楽を作ってくれるのですが、たぶん菅野さんも「ウォッカ、使いやすいな」って思ったんでしょうね(笑)。コミカル調の曲をアドリブで入れてくれたんです。映像と音楽を合わせてみたらすごくマッチしていたので、そのまま使わせていただきました。

――制作陣のウォッカ愛が伝わってきます(笑)。組織の他のメンバーについては、どんな印象を持っていますか?
立川 ベルモットは作品の根幹に関わる動き方をするキャラクターなので、かなり気を使いました。今回はラムも出てきて、ぽろっとこの先の展開に関わりそうなことを言ったりしますから、脚本打ち合わせのときに何度も青山先生の確認を取りましたね。ベルモットがおばあちゃんに変装していて、ブローチを譲ってくれた灰原(哀)を助けたというエピソードは、先生が初期の頃に足してくれたアイデア。それを序盤とラストに持ってくるというのは、初めの段階から決まっていました。

©2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

――そうだったんですね。謎めいたベルモットのセリフとともに、雑踏の音がフェードアウトしていくラストに痺れました。組織の象徴、ジンについてはどうですか?
立川 ジンは、今回の映画でいつも以上に怖い存在として描きたいと思いました。さっき言った通り、中盤まではウォッカが大黒柱的に組織を動かすんですけど、そこでウォッカのダークサイドを描写し、ジンが登場したときにヘコヘコさせることで、さらに上の恐怖の存在であることを強調したんです。個人的に気に入っているのは、潜水艦の発射管で扉一枚隔てて、外にいるジンとキール、内側にいる灰原のドラマが同時進行するシーン。扉一枚だけという緊張感がすごく立っていて、うまくいったと思います。当初、ジンとキールのやり取りが灰原に聞こえるといろいろ不都合があると懸念していたのですが、発射管の中にいて、水中で水が溜まった状態では音は一切聞こえないとわかった。キールが殴られたボンっていう音だけが発射管の中に聞こえる。怖いですよね。外は赤い発射管室で、水の中は青くて、という色の違いや緊迫感、ジンの怖さがよく出たシーンだと思います。

©2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

出演キャラ数は過去最多かも!?

――潜水艦という舞台の閉塞感もリアルでしたが、八丈島ではロケハンも行ったそうですね。
立川 はい。八丈島の景色やロケーションは、そのまま映画の中に出てきます。車で海にダイブする崖も実際にある場所ですし、灰原がメガネを交換する海辺のベンチも、似たようなロケーションがありました。水中スクーターも実際に体験させてもらって「このぐらい水の抵抗があるんだ」と体感しました。タイトなスケジュールでしたが、みんなでスキューバダイビングもやりましたよ(笑)。

――そこからあのシーンが……と感心しつつ、とても楽しそうです(笑)。今後、監督が描いてみたいキャラクターやエピソードはありますか?
立川 工藤新一の家族について深堀りしてみたいです。新一の頭脳のさらに上をいくのが優作になると思うので、彼がいることでどう物語に影響するか気になりますよね。

――はい。監督が描く感情のドラマ、今後も心待ちにしています。最後に、映画を2回、3回と見るファンに向けて、注目ポイントを教えてください。
立川 キャラクターそれぞれに背景があって、今につながる過去がある。そういう人間ドラマを入れたかったので、静止画のみも含めたら、出演キャラ数的には過去最多なんじゃないかと思います。ファンの方が見ても、たぶん1回だと整理できない情報量で「今、ぱっと映ったあのキャラ誰?」とかあると思うので(笑)。そういったところを繰り返し確認してほしいですね。あと、映画の終盤に灰原主観の回想シーンがあって、原作に近い塗り方をした画が連続で流れます。その画はもちろん、原作の名場面からのチョイス。どのエピソードなのか、気づいていただければ。

――素敵な仕掛け、ありがとうございます。名場面は監督が選んだんですよね?
立川 はい。「あのときの、あのセリフを言っているときのコナンくんだ!」などと探しながら、たくさんの方に繰り返し楽しんでもらえたらうれしいです。endmark

立川譲
たちかわゆずる 1981年生まれ、埼玉県出身。日本大学芸術学部卒業後、マッドハウスを経て独立。監督、演出、脚本として多くのアニメ作品に携わる。代表作に『モブサイコ100』『名探偵コナン ゼロの執行人』『BLUE GIANT』など。
作品概要

『名探偵コナン 黒鉄(くろがね)の魚影(サブマリン)』
2023年4月14日(金)より全国東宝系にて公開中

原作/青山剛昌「名探偵コナン」(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督/立川 譲 
脚本/櫻井武晴  
音楽/菅野祐悟 
声の出演/高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、林原めぐみ 他
アニメーション制作/トムス・エンタテインメント

  • ©2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会