TOPICS 2021.12.16 │ 12:00

ショートアニメ『でーじミーツガール』 丸紅茜アニメ制作への初挑戦②

沖縄を舞台に、ちょっと不思議なひと夏の出会いを描くショートアニメ『でーじミーツガール』。マンガ家・イラストレーターとして知られる丸紅茜がキャラクター原案とシリーズ構成を務めているが、じつはアニメ制作は今回が初挑戦だという。インタビュー後編では、登場キャラクターの制作秘話について聞いた。

取材・文/福西輝明

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

舞星は沖縄の強い女性をイメージして

――『でーじミーツガール』の登場人物をデザインする際、どのようなコンセプトで作ったのでしょうか?
丸紅 90秒という短い時間の中には、ほとんどセリフが入れられません。それでも視聴者の方にキャラクターのイメージをつかんでもらわなければならないので、たとえば「舞星(まいせ)を見ただけで沖縄を感じる」というくらい、わかりやすいキャラクターにしようと。それでデザインやセリフ回しだけでなく、動作もそれぞれ個性が際立つよう心がけました。

――主人公の舞星はどんなキャラクターを目指して作ったのでしょうか?
丸紅 沖縄は女性が強い土地柄なので、ざっくりしたイメージとして「強さ」を表現できればと思いました。強さにも「元気さ」「いい意味での雑さ」「打たれ強い」「他人を受け入れる力」などいろいろな種類がありますが、そういうものが言動からパッと見で伝わるキャラを目指しました。

すずきいちろう(?)は傷つき、自分を見失った青年

――では、すずきいちろう(?)についてはいかがでしょうか?
丸紅 舞星の対になるキャラクターとして、東京からやってくるワケありの客という設定で考えました。一見、冷たく自分勝手な人間のようですが、自分に問題があるときに他人と関わらないようにするのも都会の人なりの優しさだと思うので、そういう部分を表現できればと思いました。浮かれた服装は、自暴自棄な心境を表しています。画面を華やかにするという絵的な都合もありましたが、つらい目に遭った直後は頭が整理できないのが普通だと思うので、そういう内面の混乱も表現できて結果的によかったと思います。

舞星とすずきはキャライメージが逆だった

――初期のイメージラフでは、舞星はどちらかというとクール系、すずきは完全な陽キャとして描かれていますね。
丸紅 舞星のほうがわかりやすい挫折を背負ったダウナーなキャラ、すずきはパッと見は能天気な観光客の陽キャというイメージで、見かけ上の陰と陽が逆でした。ただ「一見明るい/暗いけど、じつは……」などとひねりを入れると、各話90秒で描くには設定が複雑すぎて表現しきれそうになかったので、ふたりとも現在のようにわりと態度と内面が一致しているストレートなキャラになりました。

――ちなみに、すずきの名前の後ろに(?)をつけた理由とは?
丸紅 ワケアリの謎の人物なので、明らかに偽名っぽいものにしようと思って「すずきいちろう」と名づけました。でも、それだけだと偽名だと伝わらなさそうだし毎回90秒で印象も薄いだろうと思ったので、キャラ名に(?)を入れてより思いきったわかりやすさと違和感を出しました。

舞星の家族のデザイン秘話

――祖母のテル子についてはいかがでしょうか?
丸紅 こんなに外見からしてコテコテの「沖縄のおばあちゃん」「ユタ」(沖縄の霊能者)みたいな人は日常でまず遭遇しないのですが、わかりやすさを優先しました。平和通り商店街で働いているので、ある意味観光用ということでアリな服装かと思います。失われた沖縄の文化であるハジチ(針突)を作品の中に残せたことが個人的にはうれしかったです。

――ハジチとはどういうものなのでしょうか?
丸紅 かつて沖縄の女性にはハジチという入れ墨を入れる風習がありました。でも、日本政府による締め付けが厳しくなり、1899年に禁止令が出されたそうです。それでも昭和初期までは隠れて行われていたそうなので、ハジチをしている最後の世代は存命なら120歳以上になり、テル子は高校生の舞星の祖母としてはあり得ないほど高齢ということになります。はたしてテル子は何歳なのか? 本当に舞星の祖母なのか? そんな本編では語られない部分も楽しんでいただきたいです。

――舞星の父・海星についてはいかがでしょうか?
丸紅 海星は田澤潮監督がキャラクター原案を手がけてくださいました。田澤監督に沖縄のYouTuber「ハイサイ探偵団」のメンバーである孫六さんという方の画像を送って「海星はこんなイメージなのですが……」とお伝えしたところ、完璧にイメージそのものの容姿が出てきて感動しました。見た目は孫六さんなのですが、目元にしっかり舞星の父親としての要素が残っていて素晴らしいなと。

内面の変化を丁寧に描いたコミカライズ

――丸紅さんはCOMICポラリスで『でーじミーツガール』のコミカライズも連載しています。アニメとはどのように差別化を図って描いているのでしょうか?
丸紅 アニメは尺が限られていることもあり、映像的な面白さに特化して作られています。でも、それをそのままマンガとして描いても、毎回30ページ近く読ませるのは難しいと、担当編集さんにご指摘いただきまして。そこでマンガはじっくり読めるという利点を生かして、舞星とすずきの内面や関係性の変化を重点的に描くようにしています。

――あらすじはほぼ同じですが、読んでみると細部の描写がけっこう違っていますね。
丸紅 アニメでは描ききれない部分もフォローする形で描いているので、両方を見ていただくと新しい面白さが発見できると思います。endmark

丸紅茜
まるべにあかね 沖縄県那覇市出身のクリエイター。『おくたまの魔女』(COMICポラリス)や『新人漫画家VS隔週漫画誌』(イブニング)などのコミックを執筆。また、イラストレーターとしても活躍しており、2019年に画集『ILLUSTRATION MAKING & VISUAL BOOK 丸紅茜』を刊行した。
作品情報

ショートアニメ『でーじミーツガール』
好評放送・配信中

  • © 波之上青年団/でーじミーツガール製作委員会