アスランのキャラクターを捉えきれなくて、毎回、もがいていた
――『SEED』も20周年を迎えました。放送当時から非常に人気があった作品ですが、さまざまな作品に参加してきたおふたりにとっても、特別な印象や感覚はありますか?
保志 僕はありましたよ。石田さんはあんまりなさそうですけど(笑)。
石田 いやいや(笑)。
保志 それは『ガンダム』シリーズだから、ということではなく、作品を比べない石田さんのスタンスがあるように思うんですよ。僕は『ガンダム』って子供の頃から見ていましたし、それで育ってきた部分があるので、やっぱり特別感はありました。
石田 保志くんの夢を壊すようだけど、やっぱり『ガンダム』の4文字は僕にとってもけっこう重みがありましたよ。
保志 おお、石田さんでも!
石田 ただ、『機動戦士ガンダム』を見ていた世代としては、富野由悠季さんのガンダムではないというところで冷静ではありました。
保志 石田さんがそれまで『ガンダム』シリーズに出ていないのも驚きでした。初めてが『SEED』で、そこで一緒にやれたというのはうれしいですよ。
――当時の収録現場の雰囲気はどのような感じだったのでしょうか?
保志 かなり大人数でした。『SEED』のときの録音スタジオは広くて、みんなでアークエンジェルに乗っていたような感覚がありましたね。スタジオの雰囲気も、アークエンジェルのブリッジに連動するかのようにすごく緊張感がありました。福田(己津央)監督は現場で意見をくださるタイプの監督だったので、それも緊張感につながっていて。
石田 そうだね。個人的には、アスランを「こういうキャラクターだ」と捉えきれていなくて、ひとつの芯をもって芝居を展開することができませんでした。毎回、もがいていた記憶があります。それが僕自身の緊張感につながっていましたし、人数の多い現場も緊張する質(たち)なので。
保志 いや、あれだけの人数だったら緊張しますよね。
石田 こじんまりとした収録現場だと緊張も少ないですけど、人数が増えるとどうしても緊張が増します。
――現場には常時20人くらいはいたのでしょうか?
石田 そうですね。あと、音響制作がAPU(オーディオ・プランニング・ユー)さんだったのですが、レギュラー作品の収録で毎週通うことになるのも初めてで、慣れない現場というのも緊張がプラスされていたように思います。だから、リラックスした状態からはほど遠い現場でしたね。
――『機動戦士ガンダムSEED DESTINY(以下、DESTINY)』もそのような感じだったのでしょうか?
保志 いや、『DESTINY』はスタジオ的には少し小さくなって、雰囲気も変わりましたね。
石田 収録スタジオも変わったんですけど、僕は「『DESTINY』はアスラン中心の話になる」と言われていたので、それが別のプレッシャーとなっていました。
保志 たしかに『DESTINY』のアスランは難しい役どころでしたからね。音響監督も『SEED』のときの浦上靖夫さんから藤野貞義さんに交代してディレクションのやり方が変わりましたし。石田さんがアスランばりに悩んでいる顔を思い出します。
石田 表情にも出るくらい(笑)。今でもゲームの収録をやりますが、藤野さんがいてくださるときは緊張感がありますよ。そのせいか「もうちょっと落ち着いてやっていいよ」と言われます。あのときの緊張がどこか残っているんでしょうね。
僕はアスランを敵だと思ったことは一度もない
――保志さんが演じたキラ、石田さんが演じたアスランは、幼なじみだけれども敵対する立場になります。そうしたふたりのジレンマや葛藤が視聴者に刺さりました。
保志 でも、僕はアスランを敵だと思ったことは一度もないです。もちろん、敵対する立場なので緊張感はありましたが、キラとしてもアスランが本気で敵だと思ったことはないだろうから、僕も信じていました。先の展開を知らずにアフレコをしていたので、この関係性がいつまで続くのかなという葛藤はありましたけど。
――後半の展開がどうなるかわからないなかでも、アスランへの信頼は揺るぎなかったと。
保志 そうですね。ただ……悲劇で終わるアニメもあるので、油断はできないなと思いつつ。だから、各話のアフレコは「早く良い関係に戻らないかな」という願望を持ちながらやっていました。
石田 そういう保志くんの、性格的な部分を見抜いてのキラへの抜擢だったんじゃないかなと思いますね。僕はアスランの目線で見ているから、保志くんのそういった信頼はありがたいけれど、キラが「友達だったから、今も友達のままだ」と思っていたことに対して「お前、口ではそういうけど行動がっ!」って気持ちはありました。
――同胞がたくさんいるコーディネイター国家のプラントではなく、地球連合軍に参加することになったわけですからね。
石田 その葛藤は物語の展開に盛り込まれていたし、それに悩むのがアスランの役回りではあったので、とても複雑な気持ちを抱えていました。アスランもキラを信じていたはずで、でも、アスランとしてはキラがこちらに寄って来てくれるほうが理想だし、正解だと思っていた。その説得がことごとくうまくいかなくて、空回りしてしまう。
――プラントに戻ることが、コーディネイターとしては自然の発想ですよね。
保志 キラだけが地球側に残っていましたからね。戦争ごとにおいて、キラはアマチュア、アスランはプロなんですよ。アスランは軍人としての考えがベースにあり、キラは一般人なのでアスランへの思いのままに葛藤している。それでも、アスランは軍人だからといってキラを割り切って排除できなかった。アスランのほうが、難しい立場だったなと。
石田 個人の思いだけで動けないのが大きいところでしたし、それがキラとアスランの対比になっていましたね。
- 保志総一朗
- ほしそういちろう 声優、歌手。アーツビジョン所属。『機動戦士ガンダムSEED』の Complete Blu-ray BOXに収録されている新規オーディオコメンタリーには3度出演。当時を振り返るトークを行っている。
- 石田 彰
- いしだあきら 声優。ピアレスガーベラ所属。『機動戦士ガンダムSEED』や続編『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』のみならず、『最遊記』シリーズでも保志総一朗と長年共演している。
『機動戦士ガンダムSEED』HDリマスター Complete Blu-ray BOX (特装限定版)
<発売日>
2022年3月29日(火)
<品番>
BCXA-1701
<価格>
44,000円(税込)
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