TOPICS 2021.04.07 │ 12:00

言の葉の庭 美術画集発売記念②滝口比呂志インタビュー

劇場公開から8年。豊かな自然表現と美しい雨が描かれる「映像文学」が一冊の書籍として帰ってくる。2021年6月24日に発売される「新海誠監督作品 言の葉の庭 美術画集」では、監督・新海 誠と美術監督・滝口比呂志の新規とりおろしインタビューを収録。前回掲載した監督・新海 誠のインタビューに続き、今回は本書に収録されている美術監督・滝口比呂志のインタビューを一部抜粋して掲載した。

取材・文/宮 昌太朗 リード/編集部 撮影/村上庄吾

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

「文学的」と感じた『言の葉の庭』

――美術スタッフとして参加した『星を追う子ども』に続くこの『言の葉の庭』で、滝口さんは新海監督の作品で初めて美術監督を担当しました。最初にプロットや企画書を見たときの第一印象は覚えていますか?
滝口 「文学的だな」と感じました。それこそ小説を映像にするような感覚というか。当時、僕が勝手に「次の作品はこういう感じなんだろうな」と考えていたものとはまったく違っていて、作品の長さも中編くらい。内容的にもチャレンジングでしたし、何か新しいことをやりたいんだろうと感じました。その時点ですでに参加されていた四宮義俊(しのみやよしとし。日本画家・アニメーション作家)さんが描かれたイメージボードがあったので、打ち合わせでは簡単に「イメージボードをベースにした方向でいきましょう」という話をして、そこからすぐに具体的な制作に入っていきましたね。

――画作りの方向性を示すものとして、すでに四宮さんのイメージボードがある状態だったわけですね。
滝口 イメージボードに描かれている、きれいな「緑」を見せたいという話をしていました。そこでひとつ大きかったのが、「緑」を引き立たせるためのグレーですね。グレーって、単純に白か黒かだけではなくて、いろいろな色が混ざり合ってできている。赤寄りのグレーもあれば、青寄りのグレーもあるわけで、そこをうまく利用しながら描ければ、これまでにない深みのある「緑」が表現できるかな、と考えていました。

――まずは「緑」をいかに表現するか、が課題だった。
滝口 そうですね。でも、そうやって観察していけばいくほど、今度は雨に興味が向いていくんです。雨の日に自然や生活のなかの「緑」を見ると、晴れているときよりも鮮やかに見えたりする。しかも「こんなところに水滴がつくんだ」とか、アスファルトの水たまりにしても、じんわりと湾曲した両端に水が溜まっていたりする。観察するとそういうことに気づくし、気がつくと表現したくなってしまう(笑)。そうしていくうちに、緑よりも雨の表現に力が入っていったというか。そういう感じだったんです。

最初は美術ボードなしで始めた

――なるほど。そこから本編の作業に入ったと思うのですが、具体的にはどこから着手したのでしょうか?
滝口 作業が始まった当初は、作品全体の方向性や撮影処理のやり方を決める指針となるもの――美術ボードやコンテに着彩したもの(カラースクリプト)を準備しようとしました。ただ、『言の葉の庭』はシーン転換が多く、しかもシーンごとのカットも少ないため、美術ボードを描く手間がもったいないと感じたので、本作は美術ボードなしで取り組み始めました。けれど僕自身がそういうやり方でできたとしても、実際に美術背景を描くスタッフたちは困ってしまうんですよね。

――カットごとに美術の方向性を決めていくとなると、時間もすごくかかってしまいますよね。
滝口 そうですね。美術ボードを用意せずに描いてもらうことは可能なんですけど、やっぱり最初のベースがないと、描くのに時間がかかってしまう。なので、途中からはレイアウトに色をつけて雰囲気を伝えたり、ディテールを加えたものを作ったりして、それをベースに美術背景を描いてもらう、というやり方をしました。

――ラフボード的なものを作って、それをもとに描いてもらっているわけですね。
滝口 そうですね。中編とはいえ、制作期間は限られていましたし、僕のほうである程度、方向性を定めてからスタッフに作業に入ってもらったほうが効率がいいだろう、と。このやり方を採用したことで、作業の流れが見えてきた感触はありました。

美術画集に収録されている美術背景のもとになったラフボード

空の描き方で、地上の描き方が決まる

――美術の作業を進めていくなかで、滝口さんがとくに気にかけていたのはどんなことでしょうか?
滝口 これはどの作品にも共通して言えることなんですが、まずは空をどういうふうに描くかによって、地上をどう描くかが決まってくるんです。たとえば、雨が降っていて、そのうちにだんだんと晴れてきて、雲の間から光が差してくる――みたいなシチュエーションがある。そうすると、大気にだんだんと蒸気がこもってきて、色彩がどんどん豊かになっていくわけです。そんな感じで、状況をうまく拾ってきて、それを反映した形で美術背景を描く。そこはひとつ気をつけていたところです。

――なるほど。空をどういう方向性で描くかによって、そのカットの雰囲気も決まってくるわけですね。
滝口 それと、それまでの新海監督の作品では美術監督や新海監督が最後に手を加えることを前提に美術スタッフも作業することが多かったので、『言の葉の庭』も初めの頃はそういうやり方で進めていました。けれど、ひとりで全体をコントロールしていると、広い層に届く作品にならないんじゃないか、という思いがあって。僕自身、若いときは張り切って「絵を統一して、しっかりしたものを作ろう」と思っていたんですけど、いざ完成したものを見ると、どれも同じような絵に見えてつまらなく感じてしまう。そういう苦い経験があったんですね。なので、うまくいってもいかなくても、まずはスタッフに自分の意志で描き切ってもらう。最終的な調整は僕のほうでやるので、とりあえず最後まで描き切ってほしい、とお願いしました。ひとりひとりが最後まで描き切ることで、個性がうまく引き立って、深みのある画作りができる――あまりうまくは言えないんですけど、そうすることによって、より多くの人に見てもらえる、開かれた作品になるんじゃないかと思っていました。endmark

書籍情報

新海誠監督作品 言の葉の庭 美術画集
2021年6月24日発売
監修/コミックス・ウェーブ・フィルム
予価/2,970円(本体2,700円+税10%)
B5ヨコ判/160ページオールカラー/スリーブケース付き
発行/一迅社

  • ©Makoto Shinkai / CoMix Wave Films