――原作の『パリピ孔明』はどのような経緯で誕生したのでしょうか？
四葉　早朝の5時半、六本木でDJをやっている友人と『三国志』トークをしていまして。オール明けの変なテンションで「諸葛孔明がパリピになったら面白くない？」という話になったのが、そもそものきっかけですね。それを元にした作品を『モーニング』と『週刊少年マガジン』が共同主催する「漫画脚本大賞」に応募したんですが、そのときはとくに結果は残せなくて。でも、今の担当編集さんに見せたら「すごく面白い！」と言っていただけて、内容を練り込んでいった結果、この形に落ち着いたんです。

――「漫画脚本大賞」に応募した作品は、どのような内容だったのでしょうか？
四葉　現代に転生して若者文化に触れた孔明が、知り合った男の子の「女の子にモテたい！」という願いを叶えるために策を授けて、パリピ街道を突き進んでいく……といったストーリーで、『パリピ孔明』と比べるともっとギャグ寄りの作品でした。

――孔明はさまざまな『三国志』関連の作品に登場し、現代の日本でもよく知られた人物ですが、四葉さんの「孔明像」はどんなものでしょう？
四葉　横山光輝先生の『三国志』に登場する孔明のイメージがとくに強いですね。ものすごい切れ者で義理堅いんだけど、ちょっと変わっているところがあるというか。一流企業に役職付きで入れる能力があって、方々からスカウトが来ているのに、就職しないでブラブラしているような印象です。天才軍師として知られている以外にも、変わり者であることを示すエピソードがいろいろと残されているのが面白いですよね。

――『パリピ孔明』では、そんな孔明をどのような人物として描こうとしたのでしょうか？
四葉　先ほどお話しした「僕の中の孔明」が、もしも現代の渋谷に転生したら……とシンプルにシミュレーションしています。たとえ1800年くらい時代の隔たりがあったとしても、あの孔明ならすぐに現代の日本文化を理解して吸収できるだろうし、スマートフォンも使えるようになるよね、と。やっぱり孔明には天才であってほしいし、軍略だけでなくバーテンダーからラップまでなんでもこなしてほしい、という僕の夢を詰め込んでいるんです。

――その孔明が「主君」と戴（いただ）く英子についてはいかがですか？
四葉　英子は実際に渋谷にいそうな女の子としてイメージしました。それも、もともと東京在住ではなく、夢を求めて地方から東京に出てきた若者像ですね。そして孔明とふたりで並んだときに、面白いやりとりをするとしたらどんな子だろう……？と想像を膨らませながら、今の英子像が出来上がりました。

――英子は稀代の軍師である孔明が相手でも、ズバズバ言いたいことを言うところがサッパリしていて好感が持てます。
四葉　英子は『三国志』に関する知識が皆無で、孔明のすごさを知らないということもありますが、相手を肩書きや立場などで判断しない子なんです。背景などは考えず、ただ人となりだけを見て接しているから、相手によって態度を変えるようなことはしない。そんな裏表のないところが英子の長所ですね。

――孔明と英子はどんなコンビにしようと考えたのでしょうか？
四葉　僕は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公・マーティと、マッドサイエンティストのドクが大好きで、あんなコンビを描きたいと思っていました。いつも飄々（ひょうひょう）とした孔明に英子がテンポよくツッコミを入れて、軽妙なやりとりを繰り広げるような主人公たちですね。

――ふたりの関係性をひと言で表すと？
四葉　うーん……ひと言ではちょっと表せないですね。お互い恋愛的な感情はまったくないので、そのことはアニメスタッフの皆さんにも最初に伝えました。孔明は英子にとって父親のようであり、上司のようであり、マネージャーでもあり、そして自分のファンでもある。一方、孔明にとって英子は、かつての主君であった劉備（りゅうび）のように、新しい世界へ連れ出してくれた恩人です。英子が夢に向かってひたむきに突き進む姿は、戦のない世を築くために駆け抜けた劉備を思い起こさせるのでしょう。孔明は英子のことを「主君」と言っていますが、どちらが上でどちらが下というものはなく、「一蓮托生のパートナー」と言えるのではないかと思います。

――『パリピ孔明』の物語を考える際に大切にしていることは？
四葉　念頭に置いて、そしていつも苦労しているのは、孔明の計略を物語に組み込むことです。史実や逸話に残されている孔明の計略の中から、物語に活かせそうなものをピックアップして、それが見せ場になるように英子の成長や活躍の場を組み込んでいきます。計略ありきでストーリーを考えるのはまるでパズルのような作業で、毎回必死になってネタをひねり出していますね。物語が進むにつれて英子はどんどん成長していくんですが、英子の活躍の場が広がるのに合わせて、孔明の策も規模が大きくなっていまして……僕にも軍師がいてくれたらいいのに、と毎回思いながら考えています（笑）。