TOPICS 2022.07.14 │ 12:00

聖地巡礼のススメ2022②
あのシーンと同じ風景の「撮り方」は!?

作品の舞台を訪れる「聖地巡礼」の魅力を、Febri流に徹底解説するこの特集。第2回は写真をテーマに、作中そっくりに撮影するための知識や、便利なアイテムなどを紹介しよう。

文・浅野健司

撮影機材は何がいい!?

出会った風景を記録してくれる写真は、見返すたびに思い出をよみがえらせてくれる、旅には欠かせないアイテム。とくに聖地巡礼の場合、舞台となった場所を写真に撮っておきたいし、できることなら「あのシーンそっくりに、同じ構図で撮りたい!」と思うもの。それだけに、カメラの重要性は普通の旅より高くなるかもしれない。

現在のカメラの主流と言えば、携帯電話、コンパクトデジタルカメラ(いわゆるコンデジ)、ミラーレスを含む一眼レフの3種類だろう。携帯電話とコンデジは、なんと言っても取り回しの良さが魅力。持ち歩きが苦にならず、サッと取り出してシャッターが切れるから、撮りたいと思ったものを逃すことがない。一眼レフだと手間が頭をよぎって「ここはいいか」となってしまうことも少なくないので、こうした手軽さは代え難いものがある。

対して一眼レフは、高性能なセンサーによってクオリティの高い写真が撮れるし、夜景などにも強いのがうれしいところ。なによりレンズを交換することで、自分の思うように風景を切り取れるのが魅力だ。最近は小型軽量のものも登場しているので、そうした機種を選べば、ある程度は取り回しも改善できるだろう。

それぞれに一長一短があり、両方を使い分けるのがベストなのだけど、どちらが巡礼向きかをあえて言えば、一眼レフになるだろう。これはレンズが交換できる点が大きい。詳細は後述するが、その前にどんなカメラにも共通する、聖地撮影のポイントをチェックしてみよう。

軽量小型のミラーレス一眼でも、携帯やコンデジに比べると明らかに重い。カメラ選びは楽しい反面、悩ましくもある……。

忘れてはならない大原則

撮影テクニックではなくて恐縮だが、最初に記しておきたい最大の注意点。それは周囲への配慮だ。

聖地巡礼は観光地でない場所を訪れ、普通の人から見たら「なぜ?」という風景を撮ることが多く、場合によっては住んでいる人に不安を与えてしまうこともある。たとえば、モデルとなった学校を部外者が撮影していたら、やはり不審に思われるだろう。同じ構図にこだわるあまり、気づかないうちに道をふさいで、邪魔になってしまうこともあるかもしれない。

生活の場にお邪魔させてもらうのだから、感謝と配慮の気持ちは、常に心がけたいいちばん重要なポイント。迷惑になりそうだと思ったら撮影や訪問をあきらめることも大切だ。聖地巡礼は、地元の方の理解と協力、そして訪れる人のマナーがあってこそ可能なもの。そのことをしっかり意識しておこう。

意識したい「範囲」「立ち位置」「高さ」

さて、ここからは実際に撮影する際のポイントをご紹介しよう。

アニメのシーンそっくりに撮影する場合、まず意識したいのは、角の四隅と中央。下の参考写真で赤枠になっている部分だ。それぞれの角に何が写っているかを確認することで、撮影しなければいけない範囲を把握することができる。そして中央を確認することで、レンズを向ける方向を決定できる。

次に意識したいのは自分の立ち位置。同じ範囲を写していても、撮影者の立っている位置が異なると、撮れる写真も異なってしまう。たとえば、下の参考写真の場所でもっと右側に立ったら、道路の写り方や左右の建物の見え方が大きく変わってしまうのだ。そのため、建物の位置関係や見え方をしっかり確認し、適切な立ち位置を探し出すことが重要。直線的な物体(参考写真で言えば、道路のタイルや塀など)はとくに手がかりになるので、注目するクセをつけておくといいだろう。

そして最後は高さ。これはカメラをどの高さで構えるかということになる。参考写真で言えば、オレンジ色の線がそれだ。これも立ち位置と同様に、背景の高さや位置関係から逆算して割り出そう。

赤枠や線の部分がチェックポイントだが、細部を見たあとは全体を俯瞰し、違和感がないか確認することも大切だ。

筆者の経験上、ミスをしやすいのは「立ち位置」。そっくりに撮れたと思っていた写真が、帰ってから見返すと少し違っていたりすることも多く、注意しているポイントだ。

ちなみにもうひとつのポイントとして、撮影する場合は友達と一緒に出かけるのがオススメ。目的のシーンを表示したタブレットなどを持っていてもらえば、見比べながらシャッターを切れるので失敗が減らせるぞ。

その違和感は焦点距離が原因?

同じ範囲が写っているし、立ち位置も合っているはずなのに、なんだか作中と同じように見えない……。これはけっこうあることで、原因はレンズである場合が多い。レンズには焦点距離というものがあり、その距離によってパースが変わるため、風景の映り方が異なる……という説明は、カメラに興味がない人にはわかりづらいし、カメラが趣味の人はわかっていることだと思うので、ここでは簡略化して説明しよう。

一眼レフのレンズには大まかに「標準ズーム」「望遠ズーム」の2種類があり、キットレンズセットを買うと、だいたいこの2本が入っている。標準ズームは広い範囲を写せて、望遠ズームは範囲が狭いかわりに遠くのものを大きく写せるレンズだ。携帯のカメラやコンデジは、おおよそ標準ズームと同じ写り方をすると思っていいだろう。問題なのはそれぞれの特性。両方のレンズで、できるだけ同じ範囲を撮影した写真が下のものになる。

上段は標準ズームの短い焦点距離(広角寄り)で撮影したもの。中段は、一眼レフの基本の画角と言われる焦点距離50㎜で撮影。下段は望遠ズームの写真だ。

上段の標準ズームは普段の写真と近く違和感も少ないと思うが、じつは画面中央にあるものが小さく写り、空間の密度が低くなるという特徴がある。中段の50㎜と比較すると、なんとなくそれがわかるかもしれない。

下段の望遠ズームは、同じ範囲を写そうとするとかなり下がった位置でカメラを構える必要があるため、その間にあるさまざまな要素が写り込んで空間の密度が高くなっている。ここまで来ると違いは明らかだ。そのため、下段の写真がアニメの風景だった場合、標準ズームで巡礼すると、撮れるのは下のような写真になってしまう。こうした違いが、同じように撮れないという悩みのタネになっていたりするのだ。

望遠ズームに写っている建築物を入れ込み、標準ズームの広角寄りで撮影した写真。もはや別モノといった印象だ。

最初の項目で聖地巡礼に適したカメラに一眼レフを上げたのは、こうしたレンズの違いに対応できるから。他にも、手前や背後がボケたシーンをピント調節によって同様に撮れるなど、できることの多い一眼レフは、それだけ対応できる幅が広いのだ。

しかしスマホ派もあきらめるなかれ。できるだけ近づけたいなら、スマホ用のレンズを使ってみるのも手だ。

これはクリップのようなものを使って、スマホカメラの上にもうひとつレンズを追加できるアイテム。一眼レフのように焦点距離が自由自在……というわけにはいかないが、使いこなせば今までよりも多様な撮影が可能になるだろう。100円ショップで見かけることもあるので、機会があれば試してみてはいかがだろうか。