TOPICS 2022.07.06 │ 12:00

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第3回(後編)

第3回 古谷徹(アムロ・レイ)×古川登志夫(カイ・シデン)

古川登志夫氏とのスペシャル対談最終回は『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の収録現場で感じたカイ・シデンというキャラクターの奥深さと、時代とともに変化する声優に要求される演技の幅について語り合っていただいた。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

――カイの演技に関して、安彦良和監督から指示はありましたか?
古川 ガンキャノンで子供たちを踏んづけないようにアタフタするシーンで「どけ! 危ねえじゃねえか!」って強めにセリフを言ったら、珍しく安彦監督がスタジオに入ってこられてダメ出しをされたんです。43年もカイを演じていて、初めてのことでした。それは悔しくもあり、うれしくもある出来事だったんですが、安彦監督にそのことを話したら「そうだったかなあ。おぼえてないですねえ」だって(笑)。おぼえていないはずないんだけど、安彦監督は腹が立ったんじゃないかと僕は思うんです。まだカイを把握していないのか、と。子供たちに対して優しさを感じさせない態度を取るのは、それはもうカイじゃなくなってしまうんでしょうね。

古谷 そんなことがあったんですか。でも、それがベルファストでの出来事につながるんでしょうね。
古川 そういうことなんです。だからベルファストのあたりのエピソードもやってほしいよね。
古谷 本当にそうですね。でも、それを言い始めたら「もう全部」って話になってしまう(笑)。
古川 僕は安彦監督のリアリスト的な考えというか、ニュータイプではないという考え方が好きなんです。現実世界ではウクライナでの戦争もあって、実際に子供たちが犠牲になっている。まさに『ククルス・ドアンの島』で描かれたようなことが起きているわけで、そういうものを含めてリアルに描こうとしていますよね。
古谷 たしかにアムロも戦闘には参加していますが、ニュータイプぶりというのは発揮していないですね。
古川 だから、戦争や社会を斜に構えて見ているカイに、安彦監督はご自身の視点を投影しているのかもしれない。これが最後と言っていましたけど、安彦監督としては『THE ORIGIN』のクオリティで全話映像化して、50年後も残る作品にしたいというお話もされていましたよね。それが実現できることを、いちファンとして僕も応援したいです。

お互いに自分にないものを持っている関係

――おふたりにとって、お互いの存在はどういうものと言えるでしょうか?
古谷 僕にとっては本当にお兄ちゃんですよ。アムロとカイに近いという話もあったけれど、いろいろな意味でお互いが自分にないものを持っている関係です。アニメ声優としても、古川さんが得意とされるキャラクターを僕にはできないだろうし、古川さんのナレーションも僕にはできない。僕はシリアスなドキュメンタリーのほうが得意だし、明るくて飄々としている古川さんの芝居は僕にはできないと思います。
古川 僕もね、まったく同じ言葉を返すしかないです。徹ちゃんの言う通りで、僕はシリアスなのは苦手でキャラクターっぽくしゃべるのが得意なんです。
古谷 僕は『白バイ野郎ジョン&パンチ』(1977年)が大好きで、あのパンチのキャラクターっぽいしゃべりが印象にすごく残っているんです。
古川 さっきも言った「Do!スポーツ」は「パンチの雰囲気でしゃべってほしい」というオーダーだったんですよ。あっけらかんとした明るいナレーションにしたいって。

古谷 そうだったんですね! ああいう風に早口でリズミカルにしゃべれるのは古川さんならではですけど、普段は本当におっとりしていて優しいんです。僕は神経質なほうだから。
古川 徹ちゃんは真面目なんだよね。ちゃんと仕事に取り組むし、準備もする。僕は適当だから、本当によくそういうことがきちんとできるなと感心するし、昔から会うたびに言うけどあっぱれな人なんだよね。
古谷 僕は自信がないからこそ、準備をするんですよ。でも、だからON/OFFはハッキリしています。休むときは全力で遊ぶ! それと、自分が好きになれない仕事はお断りすることもあります。たとえば、バラエティ番組のナレーションなどは、僕にはできないと思っているんです。自分が面白いと思えない仕事を受けることは、それを作り上げてきたスタッフの皆様にも申しわけないから。
古川 価値観がハッキリしているよね。僕なんかいい仕事があったらすぐ入れちゃう(笑)。
古谷 僕の持ち味を認めてくれて、僕にしかできないって仕事だけをやっていきたいんです。
古川 なるほど! これからは僕もそうしよう。
古谷 あれ、なんか僕が生意気なヤツみたいになってませんか(笑)endmark

古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。
古川登志夫
ふるかわとしお 7月16日、栃木県生まれ。少年時代から児童劇団に所属し、大学での演劇学科を経て劇団「櫂(KAI)」に所属、舞台を中心に活動していたが、『マグネロボ ガ・キーン』の主演を務めることになったのをきっかけに声優への道を歩み始める。その後も『機動戦士ガンダム』『うる星やつら』『ドラゴンボール』『機動警察パトレイバー』といった大ヒットアニメの他、『白バイ野郎ジョン&パンチ』といった海外ドラマの吹替でも活躍。古谷徹とは1977年に結成したバンド「スラップスティック」以来、公私ともに親交が深い。
次回予告
『機動戦士ガンダム』の放送から6年後、続編となる『機動戦士Ζガンダム』が1985年に放送された。本作におけるアムロ・レイは主役ではなく、地球連邦軍に束縛された過去の英雄として登場する。かつてのヒーローの変貌ぶりを古谷徹はどう演じたのかについて語っていただく。
映画情報

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

全国公開中

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