TOPICS 2022.05.30 │ 12:00

『takt op.Destiny』
視聴者を魅了したアクション演出へのこだわり③

『takt op.Destiny(以下、takt op.)』のアクションディレクターを務めた岩澤亨の仕事を掘り下げるインタビュー連載。最終回は第10話と、運命と地獄のオルフェの「魂のぶつかり合い」を表現した最終回をメインに、アニメにおけるアクションパートの重要性についても話が及んだ。

取材・文/森 樹

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

キャラクターの心情を踏まえたアクションシーン

第10話( Chapter 10 師弟-Lenny- )

――作品の終盤となる第10話では、キャラクターも複数登場しますし、混沌とした戦いが描かれます。
岩澤 基本的に3人以上のキャラがいる戦いは難易度が高いんです。第10話に関していえば、巨人が覚醒するパートは、僕が絵コンテの段階から手を入れました。2対1で画面に入れるよりも、1対1で映したほうが作画コストが軽減されるので、違和感のないところは調整しました。実際、天国と地獄が巨人に襲いかかるシーンは難易度が高くて、そこは信頼の置ける作画担当にお願いしています。

岩澤が1対1のシーンになるように手を加えたという第10話Bパート巨人の戦闘シーンの絵コンテ(一部)
第10話Bパートの巨人と天国&地獄の戦闘シーン

――3人以上のキャラクターがいると、どこにフォーカスするかが難しくなりますよね。
岩澤 複数で戦っていても、1対1で描写できるシーンを作っていきました。片方が負傷している間に、もう片方が戦うという、実写映画でもよく使われる手法ですね。そうすると構成もはっきりしますし、キャラが強くなっているところも見せられるので。

――戦闘シーンの中で表情のアップを映すこともありますが、表情を映すうえで意識したところはありますか?
岩澤 各々のキャラクターがなぜ相手を攻撃するのか、どういう心境で戦いに臨んでいるのかはやはり重要なので、適宜、表情を映しています。第5話では地獄がニヤつきながら、狂気的な笑顔を浮かべているのはわかりやすい例だと思います。第10話でも、巨人が急激に強くなったことを把握してもらうために、地獄は笑顔を見せていません。本気を出している、手が抜けないという表情を映しています。

――余裕がない表情にしているわけですね。
岩澤 普段は楽しんで戦っている人に真剣な表情をさせることで、命の駆け引きをしていることが伝わるようにしました。このあたりはドラマパートの演出担当ともやり取りして、「ここではこの表情をするので、本気をまだ見せないでほしい」とか「この場面ではこういう表情をさせないでほしい」といった要望は出しています。

第12話( Chapter 12 託人-Hope- )

――最終話は、アクションシーンにも力が入っています。
岩澤 銃を使うキャラがけっこう多いのですが、最終話では剣で戦ったり、なんなら殴り合いにまで発展したのには僕もびっくりしました(笑)。

――それは伊藤監督の意向だったのでしょうか?
岩澤 それはいろいろあったようなのですが……福士さん(※このインタビューに同席しているアニメーションプロデューサー)、どうなんでしょうか?
福士 運命と地獄のオルフェがどう決着をつけるかは難航したのですが、最後は武器を棄(す)てて殴り合うことで、魂のぶつかり合いを表現できればと思いました。

――地獄のオルフェというラスボスとの戦いなので、そこは感情にフォーカスした戦い方を考えた、ということですね。
岩澤 地獄のオルフェと運命は、それぞれ歩んできた道が違っていて、思想面でも差があります。ただ、思いの強さは同じくらいであることを示すには、殴り合いは最善の手段かもしれません(笑)。最初は遠距離で撃ち合って、中盤では剣を使い、最後は素手での殴り合いに移行するという展開は、すごくわかりやすい構造になっています。これも、こういうシーンが得意な作画担当に依頼できたから成立したのだと思います。

アニメにおけるアクションシーンとは

――作中ではクラシック音楽が流れますが、絵コンテや作画の際にも、こうした音楽との連携は意識したのでしょうか?
岩澤 むしろ今回は逆の流れがあって、絵コンテや映像の構成を見てから、音楽のテンションを決めて選曲したこともあったようです。もちろん、僕も「こういう曲が流れていればいいな」と想像しながら第3話などの絵コンテを描いていたので、音楽がシーンのイメージと重なる部分は多くありました。音響や劇伴を含めて、個々の解釈が素晴らしいうえに、全体の方向性がぶれていない作品だと思います。それは、伊藤監督が各々のセクションとコミュニケーションを積極的に取ってくださったことで、齟齬(そご)が出ずに終えられたのだと思います。

――なるほど。そうでないと制作会社2社とやるのは難しいでしょうね。
岩澤 そうですね。MAPPAの担当話数は演奏シーンやドラマシーンが多かったのですが、その作画や演出を見て「こっちもアクションに気合いを入れよう」と思える部分があったので、そういう相乗効果はあったと思います。

――少し脱線しますが、アクションシーンが描ける方は近年、増えているのでしょうか?
岩澤 カッコいいアクションシーンはアニメとして派手だし、花形なので、描きたい人は多いと思いますね。それこそ近年、アニメのクオリティはどんどん上がっていて、中でも派手なシーンが視聴者に好まれる傾向にあります。アクションディレクターという立場としては「『takt op.』はアクションの作画も良いみたいだから見てみよう」と思ってもらえるように意識しました。

――コストとスケジュールを考えつつ、クオリティを担保すると。
岩澤 そうですね。一方で、やはりアニメの主体は物語そのものです。作画はそれを盛り上げるための推進剤というか、あくまで面白さをブーストするものなんですね。作画としてこうしたい、という思いが先行しすぎないように注意しながら、クオリティを高めていく仕事だと思います。endmark

『takt op.Destiny』
各種配信サイトにて全話配信中

岩澤 亨
いわざわとおる アクションアニメーター、演出家。原画からキャリアをスタートさせた後、アクション作画監督や絵コンテ、演出としてさまざまな作品に参加。近作に『バック・アロウ』(作画監督※共同)、『ブラッククローバー』(アクションアニメーター、作画監督、オープニング/エンディングアニメーション)などがある。
商品情報

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