TOPICS 2022.05.25 │ 12:00

『takt op.Destiny』
視聴者を魅了したアクション演出へのこだわり①

クラシックや歌劇に彩られた華やかな戦闘シーンが話題となった『takt op.Destiny(以下、takt op.)』。本作でアクションディレクターを務めた岩澤 亨(以下、岩澤)に、アクション演出へのこだわりを聞く連載インタビュー。第1回は、アクションディレクターの役割と、第1話のアクション演出について。

取材・文/森 樹

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

視聴者を作品の世界へ引き込むためのアクション

第1話( Chapter 1 指揮-Creed- )

――岩澤さんはアクションディレクターという肩書きで参加していますね。
岩澤 基本的にはアクション作画監督と同じ役割ですが、各話ではなくシリーズを通して関わっているので、この肩書きを使っています。

――『takt op.』はMADHOUSEとMAPPAの2社による作画体制です。
岩澤 私はMADHOUSE側の監修が主ですね。本作はアプリゲームが原作なのですが、ムジカートのアクションシーンはアニメで初めて描かれるため、たとえば、運命の動きなどは伊藤(祐毅)監督とふたりでアクションの方向性を決めていきました。そこからズレが生じないように、MAPPA側とすり合わせる作業を行っていきましたね。

――今回は岩澤さんが携わった演出をピックアップしながら話を聞かせてください。まず第1話は、視聴者が初めてムジカートのアクションを見る重要なパートです。
岩澤 第1話では、物語の全貌がまだわからないので、ひとまずアクションのすごさを見せたいと思いました。バトルものとして印象づけができれば、視聴者を作品の世界に引き込みやすいので。そのためには作画のうまいアニメーターを呼ぶしかないと思っていたので、このインタビューにも同席していただいているプロデューサーの福士(裕一郎)さんと話し合いながら、担当していただくアニメーターをざっくり振り分けていきました。

――その結果、カメラワークも含めてバトルシーンの迫力が印象的でした。
岩澤 第1話の絵コンテを担当された三浦(貴博)さんは、ufotableで絵コンテや演出を担当されていて、とにかくうまいんです。本来なら絵コンテから僕のほうで手を入れていく予定だったのですが、その必要はありませんでした(笑)。この絵コンテに従えばうまくいくだろうという確信がありましたね。

三浦による第1話Aパートのバトルシーンの絵コンテ(一部)

――エフェクトや色彩に関してはいかがですか? 
岩澤 色彩に関しては映像になって初めて確認できた部分もあるのですが、撮影の方には作業前に「昼と夜の対比を見せたい」と伝えていました。昼間の戦闘だと運命の赤色はあまり映えないのですが、Bパート後半にある夜のシーンでは、スポットライトのような処理を加えてもらったことで、暗闇に赤が映えるようになっていました。それが良い対比になっていて、こちらの意図通りに撮影処理をしていただけたと思います。

――銃剣など、武器の使い方に関してはどのように考えていましたか?
岩澤 運命の武器も第1話でお披露目となったので、武器デザインをお願いした前並(武志)さんにそのまま原画を担当していただき同じようにモンスターデザインの原科(大樹)さんにも、D2の変形のシーンを担当していただきました。デザイナーさんが直接やればそれが標準となるので、そこからいろいろ決め込んでいきましたね。

前並が担当した(第1話のBパート)運命の武器が変形するシーンの原撮
原科が担当した(第1話Bパート)D2変形シーンの原撮

――タクトが指揮棒を振るときのアクションはリアルにしたい、という意図が岩澤さんにはあったそうですね。
岩澤 絵コンテでは、指揮棒というよりも杖のような扱いだったんです。指揮棒をバン、と突き出してムジカートに指示するアクションになっていました。それを演奏を指揮するようなイメージに変えています。たとえば、演奏を始めるとき、指揮者は指揮棒をさっと上に上げるじゃないですか。それを戦闘シーンの冒頭に入れ込んで、指揮者としてステージに立っている印象をタクトに与えたいと思っていました。

チェック用のラフムービー

――運命の動きで意識したところはありますか?
岩澤 女の子らしい動きというか、体操的なしなやかさをイメージしています。あまり力強く見せず、足を広げるときも、フィギュアスケーターのような開き方を意識してもらいました。運命やムジカートに美しく舞ってもらいたいというのは伊藤監督との共通認識でした。
福士裕一郎(プロデューサー) 第1話で印象的なのは、ダイナーで運命が変身して窓を突き破る展開ですね。作画監督(兼アニメーションキャラクターデザイン)の長澤礼子さんも気合が入っていましたし、岩澤さんもポイントポイントで修正を入れてくださったので、すごく気持ちの良い映像になっています。アンナのドタバタ走りも岩澤さんの修正ですね。

岩澤によるアンナのドタバタ走りのアクション作監修正
アンナのドタバタ走りが描かれた原撮

岩澤 そうですね。あそこは焦っている彼女を表現したかったので、入り口に向かって走ってくるんだったら、直角をギュンと曲がるのではなく、滑りながら曲がってくるだろうと。キャラクター的にも遊べるところなので、修正を入れました。作品のテイスト上、どうしてもシリアスになりがちなので、キャラを好きになってもらえる要素として、ああいうシーンがひとつでもあったほうが良いかと思ったんです。

――アクションシーンの各話でのバランスはどのように考えていましたか?
岩澤 MADHOUSEの担当がアクション寄りの話数が多かったので、当初からその組み立てを考えながらやっていましたが、結果的に第1話にいちばん力が入っていたように思います。自分の仕事を見直すことは(恥ずかしいので)あまりないのですが、この第1話はとても気に入っています。いろいろなスタッフさんのおかげで、本当によくできていますよね。endmark

『takt op.Destiny』
各種配信サイトにて全話配信中

岩澤 亨
いわざわとおる アクションアニメーター、演出家。原画からキャリアをスタートさせた後、アクション作画監督や絵コンテ、演出としてさまざまな作品に参加。近作に『バック・アロウ』(作画監督※共同)、『ブラッククローバー』(アクションアニメーター、作画監督、オープニング/エンディングアニメーション)などがある。
商品情報

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