TOPICS 2023.07.19 │ 19:00

放送5周年を迎えた『BANANA FISH』
内田雄馬と野島健児が語るアッシュと英二の「心の結びつき」①

アッシュと英二。『BANANA FISH』の中心である、魂でつながったふたり。回を重ねるごとに、結びつきは深くなる。演じる彼らの胸の内は、今、どのようなものだろうか?

取材・文/前田 久

※雑誌「Febri Vol.51」(2018年11月発売)に収録されたインタビューの再掲載です

アッシュを演じていると、心がつらくなる瞬間が何度もある(内田)

――アフレコも終盤に差し掛かっているかと思います。序盤の話数と比べて、役を演じるうえで意識的に変化させた点はありますか?
内田 アッシュはオーサーとの対決が終わったあたりから、政治的な話など、より複雑な話題に関わることが増えたんです。バナナフィッシュが恐ろしい薬物であることが明らかになり、そこから今度はゴルツィネに対してどう牙をむいていくか、事件全体の流れを見ながら考え始めるようになった。

それまでも、身体能力や機転の利かせ方といった部分でアッシュの天才性は表現されてきたんですが、より端的に、凡人離れした思考回路が表面に現れるようになった気がします。専門用語や複雑な数式をとんでもない早口で読み上げるシーンが出てきて、物理的にも大変です(笑)。そして、それに反比例するように、人間的な部分がどんどん見えなくなる。ほとんど英二といるときしか出さなくなるんです。英二といるときが、アッシュにとって唯一、自分の気持ちを素直に出せる瞬間なのかなとか、いろいろなことを考えてしまって……。アッシュを演じていると、心がつらくなる瞬間が何度もあります。

野島 役というのは演じていくなかで自然と成長し、変化をしていくものなので、こちらからのアプローチでわざと変化をつけちゃうと、おかしなことになってしまうと思っているんです。でも、英二の心情的には、やっぱりアッシュが追い詰められていく姿をずっと見ているわけなので、どうやったらアッシュにとってホッとできる存在でいられるんだろう、とは常に意識しています。それはちょっとしたニュアンスの柔らかさだったり、とぼけているような感じを表現することだったりするんですが。もちろん、もともとシナリオもそういう風にできているんですけど、プラスアルファとして、僕の中でどういうことができるのか。できる限りの包容力というか、アッシュのふるさとのような……抽象的なんですけど、そういった感覚を持って演じることを大切にしています。

英二がいるからアッシュも頑張れる(野島)

――英二もこれまでの話数で強烈な経験をしました。目の前で人が死んだり、自分も深く傷ついたり。その影響はどう捉えていますか?
野島 彼は受け入れているんです。もし、そうした出来事に全部反応して翻弄されてしまったら、たぶんアッシュとは一緒にいられない。彼の気持ちとしてもそうだし、アッシュも心配するでしょう。「やっぱり、一緒にいるべきじゃない」と結論を出して、お互いに離れてしまう。そうすると、誰がアッシュを助けることができるの?と。

英二って、じつは天才的な包容力を持っているんです。それから、やさしさも。パッと見は普通の少年なので、わからない部分なんですけども、僕も見ているうちにどんどん感じるようになった。今では確信に変わっています。普通はできないぐらいの受け入れる能力、理解力を持って、すべての物事を一度受け入れて、そのうえでアッシュを支えている……とまではまだいっていないかもしれないですけど、どこか心の支えになれるよう考えている。英二がいるからアッシュも頑張れる、みたいな、そんな段階にはきていると思うんですよね。

アッシュと英二は 「特別な当たり前」を過ごしている(野島)

――アッシュと英二のやりとりで、とくに印象に残っているところはありますか?
野島 ちょっとしたところなんです。ほんのひとことの何気ないシーンが、お話が先に進むにつれて印象に残っています。日常が訪れるんですよね、ふたりだけになると。アッシュにとって虐げられた世界、ギャングの世界……いわゆる、アッシュが「アッシュ」でいなければいけない世界から離れて、「アスラン」としていられる瞬間がある。たとえば、「まつげまで金髪なんだなあって」「下もだぜ。見るか?」みたいな冗談を言い合うところ。笑っちゃうじゃないですか。でも、英二はそうしたやりとりの中でも、アッシュがますます遠いところへ行ってしまうと感じる。だからこそ、とても大切な時間に感じられるんですよね。
内田 アッシュは自分の気持ちを表現しますけど、英二の前以外では、常にどう表現するか選ばないといけない。今の日本で普通に生きていると、あまり考えないじゃないですか。少なくとも、自分の言葉ひとつで誰かが死んだり、殺されたりするような世界に僕たちは生きていない。アッシュがそんなことを考えずにすむ時間は、英二と一緒にいるときだけ。彼にとってそれは人であるための時間なんだと思うと、すごく大切なものに思えます。
野島 第11話でのハロウィンの話とかね。あのアッシュが「カボチャが怖い」なんてさ……。
内田 きっとアッシュは、そういう昔の話をほとんど他人にしたことがないと思うんです。でも、英二が相手だと話したくなる。自分が生きて感じてきたことを、受け止めてほしくなる。
野島 しかも自然に出ちゃうんだろうね。本当はそれって、すごく当たり前のことだから。

内田 友達同士で「昔、こんなことがあってさ……」ってしゃべるのって普通なんですよね。
野島 そう。当たり前のことが当たり前じゃない世界にいるから、当たり前のことほど幸せに感じられる。
内田 そういう感覚を、英二は与えてくれる。言葉にするのは難しいですが、「当たり前」なことがアッシュには「特別」なのかも……と。
野島 「特別な当たり前」を過ごしているんです、ふたりは。
内田 そういうことですね。

――たしかに、アッシュは英二以外からはものすごい敵意を向けられるか、カリスマ的に崇め奉られるか、どちらかみたいな存在です。
内田 尖った感情を向けられることが多くて、落ち着く瞬間はほとんどない。他人から注目を浴びるということは、それぐらい神経を使うことなんですよね。とはいえ、今の自分を捨てて生きていけるのかといったら、おそらくそれは難しい。他の生き方を知らないですしね。だから、神経を使わない瞬間は、アッシュの人生においては本当に特別なんでしょうね。endmark

内田雄馬
うちだゆうま インテンション所属。東京都出身。主な出演作に主な出演作は『呪術廻戦』(伏黒恵役)、『ブルーロック』(御影玲王役)など。
野島健児
のじまけんじ 青二プロダクション所属。東京都出身。主な出演作に『劇場版 美少女戦士セーラームーンCosmos』(地場衛 / タキシード仮面役)、『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE 』(宜野座伸元役)
作品情報

『BANANAFISH』
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  • © 吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH