TOPICS 2023.07.10 │ 19:00

放送5周年を迎えた『BANANA FISH』
シリーズ構成・瀬古浩司がこだわりぬいた思い①

ハリウッド映画のスケールで展開する伝説的長編マンガを、24話のTVアニメにまとめ上げた脚本家・瀬古浩司。原作への思いと制作の舞台裏、一話一話に込められたこだわりを聞いた。

取材・文/高野麻衣

※雑誌「Febri Vol.51」(2018年11月発売)に収録されたインタビューの再掲載です

何を差し置いてもやると決めた

――作品への参加の経緯を教えてください。
瀬古 2015年の秋にMAPPAの大塚(学)さんからお話をいただいて、すぐにお引き受けしました。もともと原作が好きだったのですが、風の噂で『BANANA FISH』はアニメ化不可能な作品だと聞いていたんです。だから驚いたと同時にうれしく、何を差し置いてもやるとお伝えしました。

――原作を読んだのは学生時代ですか?
瀬古 そうですね。吉田秋生先生の『河よりも長くゆるやかに』などを愛読していて、その流れです。ただ、それまで読んでいた吉田先生の作品は短編や中編が多くて、たとえば『カリフォルニア物語』は文庫で4冊、『河よりも』は1冊。そのあとの大長編だったので、読んだ印象が全然違いました。冒頭のベトナム戦争から時代が下り、ニューヨークの路地裏で物語が始まるのがじつに映画的です。僕はもともと陰謀ものみたいなハリウッド映画が好きだったので、面白くないわけがない(笑)。

――とくに印象に残っている場面やセリフはありますか?
瀬古 男なので、やっぱりゴルツィネ邸脱出のドンパチとか、オーサーとの地下鉄の決闘とか。あと、今後の見どころとなる、ブランカの登場も熱いですね。アニメでは、それらのシーンが動くのも楽しみです。

――最初のお話があってから、制作はどのように進んでいったのですか?
瀬古 2016年に入ってから内海(紘子)監督と顔合わせをすることになり、シリーズ構成を作って持っていきました。そこでお話しして手直しし、第2案で「これでいきましょう」と。構成は原作通りなので複雑なことはなく、話し合いもスムーズでした。第1話のシナリオを書いたのが2016年の晩夏だったかな。ところが、早くも第2話で入らなくなってしまった。第2話の一部分を第3話に回して、回した分が後へ後へずれていって、そこでもう一度構成に手を入れ、後半のアクションに2話かけていたのを1話にまとめました。アクションも本当はみっちり描きたいのですが、『BANANA FISH』に関しては人間ドラマのほうに時間を割きたい。それでも入らなくて、脚本からさらにカットされているところもけっこうあります。全部の話数にあと10分くらいほしい……。作画は大変なことになってしまいますけど。

――会話劇も魅力のひとつですが、単純にセリフ量も多いですよね。
瀬古 もとのセリフが翻訳調でカッコいいので、基本的に流れは変えたくないんです。ただ、第11話以降は目に見えてシナリオの物量が増えてしまった。登場人物が多いので、その分セリフも多くなって、普通に書くと30ページくらいになっちゃうんですよ。それを19ページまで減らさないと――400字詰めの原稿用紙22枚分くらい削らないといけないので、本当に大変でした。脚本会議も長丁場になって、夕方の5時くらいから夜の12時くらいまで「この1行をどうするか……」みたいなことを毎週やっていました。

いかにドラマを盛り込んでいくかという部分に使命感を感じた

――放送ではもちろん、シナリオを文字で読んだだけでも、皆さんが団結して残すべきところを守っているのをひしひしと感じます。
瀬古 僕の場合、全体をお話として成り立たせるという最低条件にプラスして、いかにドラマを盛り込んでいくかという部分に使命感を感じていました。アッシュと英二はもちろんですが、たとえば、オーサーもすごく好きなので、監督のリクエストによってオーサーの過去を描けたのはうれしかったですね。

――裏設定もあるとか。
瀬古 第3話で、アッシュが裁判をやっていないのにいきなり刑務所に入れられるので、ちょっと調整しないといけないなと思ってアメリカの司法制度を調べてもらいました。そしたらやはり、裁判なしはあっても、罪状認否手続きを飛ばすことはまずないと。でも、今回はゴルツィネの権力で、ということにして飛ばしました。尺の関係で説明はカットしてしまいましたが、アッシュの場合は被告人不在でその手続きが踏まれてしまったという設定です。

――アッシュの「奴がどんな手を使おうと必ず勝って生き抜いてやる…!」というセリフがより際立ちますね。あと、どの話数も引きがいいです。
瀬古 単純に海外ドラマが好きなので。海外ドラマの引きはすごいですからね(笑)。

――どんなタイトルがお好きですか?
瀬古 『ブレイキング・バッド』『ウォーキング・デッド』『ゲーム・オブ・スローンズ』。ずるいくらいの引きをしてくるんです。ちょっと意地悪というか、いちばんカッコいいところで終わる。

サブタイトルの秘話

――サブタイトルがアメリカ文学のタイトルになっているのも、瀬古さんの案ですか?
瀬古 はい。僕のほうでアイデアを出させていただきました。もともと、原作にサブタイトルがないため、つける必要があり、第1話はこれ(「バナナ・フィッシュにうってつけの日」)しかないな、と。そこからアメリカ文学しばりにしようと思いつき、50タイトルくらい候補を挙げて、それを脚本会議にかけてみんなでディスカッションして、現在の形になりました。

――毎回、内容との絶妙なリンクに唸っています。原作を読んでサリンジャーやヘミングウェイに出会ったという読者も多いと思いますが、瀬古さんもお好きだったんですか?
瀬古 はい。もともと、サリンジャーやフィッツジェラルドは好きで読んでいました。ヘミングウェイは『老人と海』くらいしか読んでいなかったんですけど、これを機に読みました。個人的にはカポーティも入れたかったんですけど、残念ながらサブタイトルにできそうなタイトルがなくて。結果的に、ヘミングウェイとフィッツジェラルドが多くなりました。endmark

瀬古浩司
せこひろし 脚本家。手がけた主な作品に『チェンソーマン』『呪術廻戦』『進撃の巨人The Final Season』『ドロヘドロ』など。
作品情報

『BANANA FISH』
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  • © 吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH