心をぶつけ合うよりも、ひとりひとりが心の中で闘っている(野島)
――アッシュは天才なんですけど不器用なところもあって。第10話でシンと初めて出会うところも、普通に事情を説明すればいいのに……と。
内田 でも、言えないんですよね……。
野島 そういうところに、この作品の少女マンガ的な要素を感じますね。言えばすむのに言わないという、心情の捉え方。それはたぶん、男子の読むマンガとは違う世界。
内田 たしかに。
野島 「じゃあ、殴り合おうぜ! ……よし、これでわかり合えた!」みたいなね(笑)。心をぶつけ合うよりも、ひとりひとりが心の中で闘っている。そこが少女マンガの繊細な世界観なんだと感じるときがあって……もどかしい!
内田 そういうことができない理由も、ちゃんとあるんですよね。男子のマンガと比べてどちらが良いとか悪いとかではないですけど、「みんな仲良くなれるよ!」みたいなことがあまり起こり得ない世界。物事にはすべて理由があって、行動することを選んだら代償がある。『BANANA FISH』はとくに、その行動を選んだ理由を丁寧に描いている作品だと、演じていて感じます。
――繊細なうえに、感情のアップダウンも激しいですよね。たとえば、第9話でアッシュがショーターを撃つ前後の流れは、おふたりの芝居のテンションがすさまじかったです。
内田 その回も、いろいろな意味でアフレコはすごく大変でした。喉や体力もそうなんですけど、心が消耗しました。神経がピリピリするというか……。集中力も必要ですし。アッシュはあの出来事をきっかけに心が不安定になる。僕は役が不安になったり、動揺したりすると、自分自身もそれにすごく影響されやすくて。まだまだアフレコは続くわけですが、この先ますますアッシュは追い詰められそうで、どうなってしまうのか……。
野島 僕は「本番です」とスタッフさんに言われるまで「無」なんです。マイク前に立った瞬間から芝居が始まる人なので。そして、終わった瞬間また無になる(笑)。昔は雄馬君と同じだったんです。常に役を引きずって、現場に行くまでも、終わったあとの帰り道でも、その役になっていた。いつからだろう、変わったんですよね。
内田 僕はこの仕事を始めてすぐの頃、自分のお芝居を「良い」と思われることばかりに気を取られていたんです。その頃はあまり役を引きずりませんでした。だけど、あるとき「芝居って、良いとか悪いとかそういうことじゃないな」と気づかされて、役のために、作品のために何ができるんだろう?と考えるようになって。それから引きずるようになってしまったんです。野島さんもですが、まわりの先輩方は、役になる瞬間と自分に戻る瞬間のスイッチの切り替えが一瞬なんですよね。僕には本当に難しい!(笑) でも、役と自分をもっと切り離さないと、これからどんどんしんどくなりそうで……。
野島 そうなんだよね。だから僕は、役にのまれないように自分を変えました。でも、素敵だと思うよ、のまれることは。のまれることもやっぱり面白いんです。演技って、要は感情をどうコントロールするかの世界じゃないですか。でも、コントロールの仕方は人それぞれで、ずっとその感情でいるのも、ひとつのやり方。逆に今、そういう風に演じてほしいと言われても、僕は自分の中でそのアプローチのやり方を失ってしまっているかもしれない。
「『セクシー』とはどういうこと?」と 紐解きながら演じています(内田)
――役を演じるうえで、内海監督とは何かやりとりをしましたか?
内田 直接お話する機会は今のところあまりないですね。イベントで手紙をいただいたことはあるんですけど。アフレコでも基本的には音響監督を通して指示を伝えていただくかたちです。
野島 話しかけても逃げちゃう(笑)。
内田 シャイな方です。手紙だとパンチ力がスーパー高い人なんですけど(笑)。
野島 文章だとめちゃめちゃ楽しいことを書いてくれますね。けど、面と向かって話すと逃げちゃう。飲み会で一瞬ご挨拶をしたくらい。
内田 アフレコが始まってすぐのときでしたね。
野島 役者として信頼していただいているってことなんでしょうね。
内田 きっとそうですよ。
野島 そう信じたい(笑)。あ、でも、僕たちでは捉えきれない女性的な感覚の部分で、アドバイスをいただいたことはありました。たとえば、英二で言えば、「そこは可愛くしてほしい」とか。男に「可愛い」っていう感覚……あまり演じるうえでは意識したことがなくて。結果的に可愛くなることはあるかもしれないですけど、意識して可愛くすることはなかったんです。指示をいただくことで「ここは『可愛い』ことが必要なポイントなんだな」と気づけるんですよね。そうすると「可愛さってなんだろう?」というところから考えていける。だって、英二本人は絶対に可愛くしようと思って振る舞っていないですもんね。彼にとっては自然にやっていることが「可愛い」わけで。じつは、彼はけっこうグイグイ前に出るタイプなんだけど、そんな彼の中にある純真さや奥ゆかしさを意識することなのかなと、今は理解しています。「可愛く」は、これまでになかった新しい芝居のアプローチですね。
内田 難しいですよね。
野島 アッシュはアッシュで、よく言われている言葉があるよね?
内田 「セクシーに」ですね。今日のアフレコでも言われました。僕も野島さんの「可愛く」と同じで「それはどういうことなんだ?」と悩むときはやっぱりあります。音響監督の山田(陽)さんと男同士で「この『セクシー』とはどういうことだろう?」とひとつずつ紐解きながら演じることが多いです。
野島 「セクシー」って、生きてきた人間の深さというセクシーさもあるし、性的なセクシーさもあるし。(内海)監督は「セクシー」という言葉の、どこの部分を言っているのかなと考えます。
内田 そうなんです。いろいろなニュアンスがある中の、どこに重きを置いた「セクシー」なのかを考えながら演じるのは、純粋に面白いです。女性から見た世界観が面白いというか。
野島 この作品ならではの悩みですよね。
つらいからこそ救いを、光を求めて進んでいく姿が印象に残る(内田)
――では最後に、今後の展開の見どころを教えてください。
内田 たぶん、ここまで見続けてくださっている方なら伝わると思うんですが……この先もつらい展開が続きます。でも、つらいからこそ救いを、光を求めて進んでいく姿が印象に残るというか、この物語に生きる人たちに本当に幸せになってほしいと思える。ですから、このつらさを一緒に乗り越えていただきたい、物語を最後まで見届けてもらいたいと感じています。よろしくお願いします。
野島 まだまだアフレコは続いていて、僕ら自身も、これから見どころになるようなシーンをいくつ生み出せるか……なんて言うとおこがましいんですけど、いつそういう瞬間に巡り合うことができるか、楽しみにしている部分がたくさんあります。間違いなく、これから先のアフレコでも、いくつもそんな瞬間が訪れると確信しているんです。ぜひ、皆さんと一緒に最後までこの作品を、ふたりのことを見守っていければと思っています。
- 内田雄馬
- うちだゆうま インテンション所属。東京都出身。主な出演作に主な出演作は『呪術廻戦』(伏黒恵役)、『ブルーロック』(御影玲王役)など。
- 野島健児
- のじまけんじ 青二プロダクション所属。東京都出身。主な出演作に『劇場版 美少女戦士セーラームーンCosmos』(地場衛 / タキシード仮面役)、『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE 』(宜野座伸元役)