TOPICS 2024.07.06 │ 18:00

久美子の物語を丁寧に描いた「最終楽章」
『響け!ユーフォニアム3』石原立也監督インタビュー②

吹奏楽青春アニメ『響け!ユーフォニアム(以下、ユーフォ)』シリーズのTVアニメ第3期『 響け!ユーフォニアム3』が最終回を迎えた。北宇治高校吹奏楽部部長として悲願の全国金賞を目指す黄前久美子の奮闘を中心に描いた今シーズン。さまざまなキャラクターたちのドラマをまじえながら、シリーズの最終楽章として久美子の高校生活3年間を締めくくった。Febriでは、放送を終えたこのタイミングで、シリーズの監督を務め続けた石原立也を迎え、最終楽章に込めた想いを前後編でたっぷりと語ってもらった。後編は、最終話について深掘り。石原監督自ら手がけた絵コンテの秘密にも迫っていく。

取材・文/岡本大介

『ディスコ・キッド』を聞いたら絵コンテが走り出した

――最終話はシリーズの集大成にふさわしい屈指の名エピソードとなりました。ここまで演奏シーンを封印していた分、ここで思いっきり見せましたね。
石原 ぶっちゃけていうと、演奏シーンは作画のコストが段違いにかかるので、とくにTVシリーズではそう簡単には取り入れられないんです。2期目の第5話でやっているじゃないかと言われそうですけど、あれは第1期や劇場版の素材も使っているので、すべてを新たに作画したわけではないんです。その点、今回の演奏シーンはすべてが新作カット。サンフェスや地区予選などで演奏シーンを分散して描くよりも、最終話でドーンとやろうというのは、脚本段階から決めていました。

――『一年の詩』を演奏することは序盤から明らかになっていましたが、フルで流れたのは最終話が初めてとなりました。
石原 ここで初めて聞く曲を演奏してもなかなか感情移入しにくいと思ったので、まず第2話の久美子と麗奈がイヤホンで曲を共有するシーンで第一楽章を流して、さらに各話のアイキャッチで楽器パートごとの演奏を入れるなど、なるべく耳になじむように工夫したつもりです。

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

――『一年の詩』は春夏秋冬の4部構成で、季節ごとに久美子たちの過去の思い出がフラッシュバックしていく演出でした。
石原 ここは原作でも久美子がいろいろなことを思い出すような描写がありますし、映像としても6分間ずっと演奏シーンだけが続くのは面白みに欠ける感覚があったので、わりと早い段階からこんな感じで見せようと思っていました。

――最終話は石原監督が絵コンテを描いています。過去のシーンからどのシーンを選ぶかについては悩みましたか?
石原 それほど悩んだ記憶はないです。僕だけではなく、視聴者の皆さんにとっても印象深いであろうシーンを中心に選んでいきました。あとは「秋」(『一年の詩』は春夏秋冬が表現されている)の部分で悲しいことや辛いことを入れるなど、曲調の盛り上がりに合わせて選んだところもあります。

――最終話のコンテで苦労したことはありますか?
石原 やっぱり尺とカット数の問題ですね。『一年の詩』の演奏シーンはもちろんのこと、麗奈と久美子が大吉山で『愛を見つけた場所』を演奏するシーンも外せませんでしたし、エピローグで『ディスコ・キッド』を流したいとも思っていたので、まずはそこから描いていきました。そのあと、残った尺で何を優先すべきかを模索するという流れで制作したのですが、なかなか変則的なアプローチだったので、そこは苦労したかもしれません。

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

――エピローグで『ディスコ・キッド』を流したいと思ったのはなぜですか?
石原 最終回のラストシーンがまだイメージできていないときに『ディスコ・キッド』をたまたま聞いたのですが、その瞬間にエピローグの絵がパッと頭に浮かんだんです。そこから一気に絵コンテが走り始めたので、この曲しかないと感じましたね。

――この曲は第1話の冒頭でも流れていましたよね。
石原 そうなんですが、じつは順番的には逆で、エピローグでこの曲を流すことを決めたことで、じゃあ第1話のプロローグでも使おうとなったんです。プロローグとエピローグは時間軸がリンクしているので、自然とそうなりました。

――『ディスコ・キッド』は吹奏楽では有名な楽曲ですが、『ユーフォ』シリーズでは初登場ですよね。
石原 そうですね。プロデューサーから提案されていたんですけど、なかなか使う機会がなかったんですよ。最終章のために温存していたというわけではないんですけど、結果として最高のかたちで使うことができたなと思っています。エピローグの久美子が歩くシーンでは、『ディスコ・キッド』のリズムと歩行のタイミングを合わせるなど細かい調整をしているので、見ていてとても気持ちがいいんです。このエピローグは繰り返し何度も見てしまうほどお気に入りです。

『ユーフォ』の世界と現実を地続きにしたかった

――その他、エピローグではどんなところにこだわりましたか?
石原 前編でも言いましたが、10年間も関わってきた作品だけに、自分にとっての世界がひとつ消えてしまうような喪失感が強かったんです。なので、僕ができることとしては少しでも作品と現実が地続きになればいいなと思い、エピローグの宇治は現代に引き寄せているんです。

――どういうことですか?
石原 久美子が高校3年生のときの時代設定は2017年なのですが、アニメのエピローグでは現在(2024年)の宇治を描いているんです。こうすることで、僕たちが生きているこの世界に久美子たちも生きている感じになればいいなと思って。もともと、実際の宇治の風景を描いている作品ではあるのですが、あらためて各スポットをロケハンし直して、エピローグの風景に反映させています。久美子のお気に入りのベンチは工事が入って変わっていたり、JRが複線化されていたり、宇治橋から見える工場の煙突が1本になっていたり、宇治神社の鳥居が金属製に変わっていたりと、いろいろなところが細かく変化しています。あとチューバくんもすごく年季が入っています(笑)。どこまで気づいていただけたかはわかりませんが、いろいろと仕込んでいるんですよ。

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

――見直すと発見がありそうですね。あともうひとつ、カット数の苦労という面ではどうでしたか?
石原 最終話のカット数は500カットあって、いわゆるバンク(既存シーンの流用)をのぞいても300カットは軽く超えているんです。今の時代のアニメとしては飛び抜けて多いわけではないと思いますが、それでも昔に比べれば格段に増えているので、いつも悩みどころですね。これは最終話に限らずですが、絵コンテは常に尺とカット数との戦いだったような気がします。

――あらためて、この10年間本当にお疲れ様でした。石原監督にとって『ユーフォ』はどんな作品になりましたか?
石原 『ユーフォ』の制作を始める前は吹奏楽について無知だったので、とにかく毎日が勉強でした。そういう意味ではとても苦労した作品ではあるのですが、実在する場所を舞台にリアルな人間ドラマを描くというのはやりたかったことのひとつなので、素晴らしい体験をさせてもらったなと思います。おかげさまで吹奏楽も好きになったので、これからはアニメ制作とは関係なく、趣味として聞いていこうかなと思っています。

――演奏はしないんですか?
石原 トライしたこともあったんですけど、楽器用マウスピースでまったく音が出ずに挫折しました(笑)。しばらくは聞く専門で楽しもうと思います。

――では最後に、ファンに向けてメッセージをお願いします。
石原 これまで長年にわたって応援してくださり、本当にありがとうございました。『ユーフォ』という作品は、先輩や後輩、先生などいろいろな立場のキャラクターが織りなす社会の縮図のようなドラマですので、見る人の年齢や立場によって感じ方が変わってくると思います。ぜひ、たまに見返していただけるとうれしいです。末永く応援よろしくお願いします!endmark

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024
石原立也
いしはら たつや 京都府出身。京都アニメーション所属。アニメーション演出家、監督。主な監督作に『涼宮ハルヒの憂鬱 』『CLANNAD -クラナド- 』『日常』『中二病でも恋がしたい!』などがある。
作品概要

TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』

Blu-ray&DVDが発売決定!
第1巻 2024年6月26日(水)発売中
第2巻 2024年7月31日(水)発売
第3巻 2024年8月28日(水)発売
第4巻 2024年9月25日(水)発売
第5巻 2024年10月30日(水)発売
第6巻 2024年11月27日(水)発売

Blu-ray&DVD 詳細ページはこちら

  • ©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024