Febri TALK 2021.05.31 │ 12:00

eba 作曲家

①富山のひとりの『けいおん!』ファンが
作曲家になるまでの道

OLDCODEXやLiSAをはじめ、数々のアニメソングの作曲・編曲を手がけ、cadodeのメンバーとしてアーティストとしても活動しているF.M.F所属の作曲家・eba。連載インタビューの第1回は、偶然手にした『けいおん!』から始まる、彼の人生を変えた驚くべきサクセスストーリーを語ってもらった。

取材・文/日詰明嘉

曲に感動して作曲した川口進さんに電話しちゃいました

――最初に挙げていただいた作品は『けいおん!』ですが、これはどのような理由からでしょうか?
eba これは僕が音楽の仕事をするきっかけとなった作品です。僕は富山県南砺(なんと)市の生まれで、当時、新作アニメがほとんどと言っていいほど放送されない地域でした。見たかったらレンタル店に行って借りるか、ケーブルテレビしか視聴方法がなかったんです。なので、『けいおん!』も、そんなレンタル店でたまたま手にした作品でした。高校を出て就職したての20歳の頃でしたね。で、見たらもう、メチャメチャ泣いちゃいました。「俺はこれをやりたかったんだよ!!」って感じで(笑)。

――それはどんな思いからだったのでしょう?
eba 音楽って、僕の人生にとって二次元と同じくらい大事な幹なんです。中学生の頃から始めたのですが、その二次元と音楽の両方が、ものすごいクオリティで融合している作品に初めて出会えたと感じました。というのも、地元の音楽人口がとても少なくて、音楽活動をしている子なんて学校にほぼいなくて。理解がある人も少なかったですし、僕は子供の頃に病気がちだったこともあって、普通の人と同じ生活ができなかったので、『けいおん!』の世界は「やり逃した青春」に見えたんです。

――かわいい子たちのゆるふわな学生生活も魅力ですが、ebaさんにとっては、あの作品の「音楽」という要素にも惹かれたわけですね。とくに心に響いた楽曲は何でしたか?
eba Tom-H@ckさんが作曲された『Cagayake!GIRLS』も衝撃的でしたし、『ふでペン ~ボールペン~』も心をつかまれました。明るいんだけれども、泣ける曲で。音楽制作において、明るい曲調で泣かせるというのはとても難しく、まさにそれを体現している楽曲だと思いました。それで、これを書いている人はどんな人なんだろうと思って調べたら、川口進さんという方で、しかも同じ富山県の別の市に住んでいるということがわかったんです。富山は音楽があまり盛んではないので、そんな方が『けいおん!』の曲を書いているとわかったらこの感動を伝えたくなって、いても立ってもいられずに川口さんに電話してしまったんです。

――なんと行動的な(笑)。
eba 今、振り返ると完全にヤバいですよね(笑)。僕はメタルが好きで、なかでもEquilibrium(エクリブリウム)というヴァイキング・メタルが好きで、彼らとメールでやりとりをして高校3年のときにドイツに会いに行ったことがあるくらい、好きになるとまわりが見えなくなっちゃうタイプなんです。普段は人見知りなんですけど(笑)。で、先ほどのような感情のあふれから川口さんに電話してしまって、とにかく「あの曲良いです。富山の方が『けいおん!』の音楽を作っていることが誇りです!」みたいなことを伝えたんです(笑)。

――突然であっても、直接うれしい思いを聞かされて川口さんは喜んだと思いますよ。
eba そうだったらいいなぁ。で、話の流れで「じつは僕も曲を作っているんですよ」と言ったら、「聞かせてよ」とおっしゃってくれて。

――え、すごい!
eba それで車に乗って会いに行って、聞いていただいたら「いいね。じゃあ、事務所を紹介するよ」とF.M.Fに行って、そのまま社長を紹介してくれたんです。それがきっかけでF.M.Fに所属して音楽作家の活動を始めさせてもらえることになりました。

『けいおん!』の世界は

「やり逃した青春」

に見えたんです

――ものすごいサクセスストーリーじゃないですか! そのとき川口さんに弟子入りしたいみたいな気持ちはあったんですか?
eba いえ、単純に「曲を聞いてください」みたいな感じだったんです。田舎にいると、高校を卒業したら当たり前のように就職して、そこで定年まで勤め上げるみたいな一本道で、音楽家なんていうのは専門学校とか音大に通っている人がなる職業みたいに思っていたので、音楽で食べていこうなんてとても考えられませんでした。川口さんに「事務所の社長に聞かせてみようか?」って言っていただけたときに、初めて人生のレールを外れてもいいんだという可能性を知りました。

――まさに人生が変わった瞬間だったんですね。
eba いや〜、たまたまなんですけど。

――でも、川口さんだって、ebaさんの曲にまったく見込みがなかったら「はいはい、ありがとね」と受け取って終わりじゃないですか。それを事務所の社長に渡すということは、光るものがあったはずですよね。
eba 「ヤバい奴が会いに来たから、何かしてやらないと怖い」と思ったのかも(笑)。それでF.M.Fに所属してから、第2期(『けいおん!!』)が終わったあとのイベント(『けいおん!!』ライブイベント 〜Come with Me!!〜)に招待していただいて、川口さんと車で東京に行って、声優さんたちが立っているステージを見たら即、ボロ泣きですよ。「唯ちゃんって実在したんだ……」って。いや、わかっていますよ?(笑) でも、「会えた」というか、目の前にいると思えたんです。そんな風に僕が泣いていたら、横で川口さんが「まだ1曲目だよ?」って笑っていて。

――早い!(笑) でも、思いは伝わってきます。
eba さっきまでステージで演奏していた人と普通にしゃべったりとか、そういう非日常みたいなことを、そこで初めて体験したことも、僕の人生におけるトリガーでした。

――当時、あそこまで本格的にアニメ作品と音楽とを融合させたイベントはあまりなかったと思います。
eba そうですね。ゲームだとOVERDRIVEさんの『キラ☆キラ』があって、あれも僕は大好きでバンドでコピーをしていました。二次元と音楽の融合ってやっぱり惹かれるものがありますね。規模感とか誰でも見られるアニメという意味でも『けいおん!』の影響は大きかったです。あの頃から、アニメへのハードルがグッと低くなって、アニメが好きでも変な感じに扱われることは少くなったんじゃないかな。あれは今につながるムーブメントだったと思いますね。endmark

KATARIBE Profile

eba

eba

作曲家

えば 富山県出身。2010年、作家としてキャリアをスタート。『幼女戦記』や『Free!』シリーズのテーマソング、『ソードアート・オンライン』シリーズの楽曲、福山潤、斉藤壮馬、LiSA、OLDCODEXなど、さまざまなアーティストやアニメ作品の楽曲を手がける。音楽ユニットcadodeのメンバー、ミュージックプロデューサーとしても活動している。