Febri TALK 2021.06.02 │ 12:00

eba 作曲家

②自分を肯定してくれた
『イリヤの空、UFOの夏』

影響を受けたアニメ作品について聞く、インタビュー連載の第2回は、セカイ系のなかでも最重要作品のひとつ『イリヤの空、UFOの夏』。「何者でもなかったし、何者にもなれないと思っていた」ebaをオタクの道に誘ったその魅力とは?

取材・文/日詰明嘉

何者にもなれない人間でも、イリヤみたいな子がいたら――

――続いて挙げていただいたのは、OVA『イリヤの空、UFOの夏(以下、イリヤ)』。秋山瑞人さんの原作は読んだんですか?
eba いえ、アニメからですね。ライトノベルは高校でめっちゃ好きな友達がいて、彼から貸してもらった『フルメタル・パニック!』を読んだりしていたのですが、『イリヤ』は読んでいなくて。高校卒業後の18か19歳の頃にたまたまレンタル店でDVDを手に取ったのがきっかけです。『けいおん!』より前ですね。それまでもラノベやマンガはそれなりに読んでいたんですけど、『イリヤ』のアニメを見てからはもう完全に「ここまでのめり込んじゃうって、俺はオタクだなー」と自覚していました。

――作品のどんなところからそれを感じたんですか?
eba この作品はいわゆる「セカイ系」と呼ばれる作品で、作中では、地球が滅んでしまうレベルのものすごく大きな出来事が起きているんです。なのに、主人公の浅羽とヒロインのイリヤのふたりだけの狭い世界をひたすら描いていて、世界の存亡について具体的な話をあんまりしないんですよ。その妄想感の強い感じが、オタクと親和性があるのかなって。

――見たときは浅羽の視点で?
eba そうですね。どうしても浅羽の視点で見ちゃうんですよ。自分を重ねられる部分が大きかったんです。浅羽って、自分では何もできなくて全部イリヤまかせだし、なんかどうしようもねぇなと思うんですけど、その頃の僕自身も何者でもなかったし、何者にもなれないと思っていた。その虚無感みたいなものを埋めてくれる作品というか、「何者にもなれない人間でも、イリヤみたいな子がいたら、こんなに人生が輝く瞬間があるんだろうな……」と思って、のめり込んでしまうというか。人生って、目標とか夢があったほうが絶対に楽しいじゃないですか。しかもそれが世界を救うとか、この子を守るといった圧倒的に強い目標だとすごくキラキラして見える。そんな感覚だったと思います。

『イリヤ』を見たあとは

夏が来るたびに

泣きそうになる

――見たあとの人生観にも影響がありそうですね。
eba そうですね。これはネタバレですが、『イリヤ』の終わり方って、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのかと当時けっこう議論されていたんですよね。僕はあれをバッドエンドだと思っています。なぜかというと、イリヤがこの世にいないから。その意味で、見終えたあとでめちゃくちゃ引きずりましたね。この作品は夏からその終わりにかけての物語なので、作品を見たあとは夏が来るたびに泣きそうになるんですよ。夏の匂いがし始めると、忘れたくない思いとか取り戻したい感情みたいなものが湧き上がってきて、せつなくなってくる。学園祭のファイヤーダンスで丘に行ってイリヤとマイムマイムをしたあのシーンを、十数年経ってもいまだに毎年思い出してしまいます。

――いまだに!?
eba ええ。夏になると「せつねぇー」って思っちゃうんですよね。それくらい、僕の人生に影響を与えた作品なのかなと思っています。『イリヤ』からしっかりアニメを見るようになって、そこからさかのぼってゼロ年代のアニメを見ていったんです。『げんしけん』『MONSTER』『爆裂天使』『灼眼のシャナ』『創聖のアクエリオン』……あ、あと『N・H・Kにようこそ!』も今回挙げるかどうか悩んだくらい僕にとってはすごく大事な作品です。

――良いラインナップですね。たしかに『N・H・Kにようこそ!』も先ほどの感情と重なる要素が強いですね。
eba なんか、そういうのを好きになりがちなんですよね。何なんだろうな。自分の凡人感がつらかったのかもしれないですけど(笑)

――そのほかのセカイ系の作品、たとえば『ほしのこえ』にも惹かれましたか?
eba めちゃめちゃ惹かれましたね。『ほしのこえ』を含め、新海誠監督作品は全部見ていましたし、最新の『天気の子』もすごかったです。『天気の子』で、またあの頃の新海さんが戻ってきた感じがあって、あのすさまじいクオリティでセカイ系の作品を見させられた今の子って、メチャメチャ影響を受けるんじゃないかと思います。しかも、あれだけの大ヒットですから人生が変わった人も多いんじゃないかな。今の若い世代のクリエイターでも、影響を受けて面白い人が出てくるんだろうなと思ったりして。

――やっぱり受け取るときのご自身の状況とか環境って大事ですよね。
eba そうなんでよね。当時は本当に客観的に見ることができなかったと思います。大人になると、わりと客観的に見られるようになるんですけど。たとえば、『天気の子』でも、帆高が銃を向けるシーンは思春期の子の気持ちで考えると痛いほどわかる。大人の視点に立つと「何してくれてんの!?」ってなるんですけど(笑)。

――ebaさんにとっては『イリヤ』が、そのときの境遇にピッタリの作品で、そのあと道が開けていったわけですから、やっぱり出会うべくして出会った作品だったんですね。
eba そうですね。あの頃に出会えたから、というのはあると思います。当時は富山で放送されていたアニメが少なかったのですが、今はほとんどの最新作が全国的に配信ですぐに見られる状況で、そうするとリアルタイムで追いかけるのに精一杯で、過去の作品を掘らないと思うんですよね。自分が今、富山にいたとしたら『イリヤ』には出会っていないわけですから、やっぱりタイミングがメチャメチャ良かったなと思います。endmark

KATARIBE Profile

eba

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作曲家

えば 富山県出身。2010年、作家としてキャリアをスタート。『幼女戦記』や『Free!』シリーズのテーマソング、『ソードアート・オンライン』シリーズの楽曲、福山潤、斉藤壮馬、LiSA、OLDCODEXなど、さまざまなアーティストやアニメ作品の楽曲を手がける。音楽ユニットcadodeのメンバー、ミュージックプロデューサーとしても活動している。

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